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人類総ユーザー化社会で、私たちはどう生きるのか?

僕が共同代表を務めるリ・パブリックは、2019年6月、トランスローカルマガジンMOMENTを創刊します。
都市圏の人口増加やGAFAをはじめとするプラットフォーム企業の台頭が起こるなかで、都市の生態系は大きな変化を迫られています。こうした状況の中で、私たちは都市/まちでいかに生き、暮らし、働き、遊ぶのか?
創刊号の特集はエイブルシティ。バルセロナ、アムステルダム、奈良、熊本、各地をめぐって、「人の可能性をひらく都市」のあり方を考えます。
このnoteでは創刊号の序文を特別掲載します。

Googleの親会社Alphabetの傘下であるSidewalk Labsが、カナダ・トロントのウォーターフロント地区で開発を進める新都市群では、最新鋭のテクノロジーを導入し、エネルギー、資源循環、移動、セキュリティ、教育、健康など、都市生活のインフラを革新し、市民の暮らしをバージョンアップしていくという。こうした都市レベルのサービス・プラットフォーム化を進める数多くのプロジェクトが、国内外で進行している。

数年前に一世を風靡した書籍『限界費用ゼロ社会』における近未来の産業・ 社会観はこれに呼応する。著者のジェレミー・リフキンが描くのは、IoTインフラとシェアリングエコノミーの台頭によって、さまざまな財やサービスが限界費用ゼロ(当該の財やサービスの提供数を1増やすときに生じるコストがゼロであることを示す)に近づいていく社会だ。たしかに財やサービスの価格がゼロないしはそれに近いところに収斂する提供のシステムを持つ企業が現れれば、同業他社は壊滅的な打撃を受けることになるだろう。極端な言い方をすれば「勝者総取り」の世界になっていくということだ。

この世界の下で、人はどのように暮らしていくのだろうか。今のインターネットの姿を見ていれば、ある程度は想像がつく。GAFAがない日常生活は考えにくいように、生活必需品から都市インフラまでを担う特定の企業が、生活を営む上で欠かせない存在になっていく。代替の効かない企業が増えていくにつれ人は企業のシステムの一部になり、最適化の対象となる。自身の嗜好や行動、状況にチューンナップされた財やサービスが極めて低廉な価格で提供されることを想像してみて欲しい。この魅力(魔力?)に抗うのは誰にとっても困難ではないか。しかし、この取り引きの成立によってユーザーは選択の機会を失い、暮らしの多様性は失われていく。人間の美意識は、企業が定める基準に収められていく。この状況を一言で表せば、「人間の総ユーザー化」だ。都市という文脈で言い換えれば、あらゆる市民は「都市ユーザー」ということになる。住民が都市ユーザーとして当初から位置付けられるまちに、どんな文化が育まれるのだろうか。子どもたちはどう成長し、どんな大人になるのだろうか。

本号の特集エイブルシティは「人間の可能性をひらく都市」を意味する。それはまちへのオーナーシップを背景に、市民が主体的に暮らしをつくりだしていく都市のあり方を指す。そこにあるのは、まちの風土や歴史、リソース、コミュニティを結びつけながら、市民が自らの手でまちを育むダイナミクスだ。一方、懐古主義に陥らず、新しいテクノロジーを積極的に取り入れることで、まちの仕組みを更新し続ける進取の気性を持ちあわせている。

その意味で、限界費用ゼロの原理に基づく都市の住民が、産業や企業が張り巡らすプラットフォームから「まなざされる」対象としての都市ユーザーであるのに対し、エイブルシティの住民は、自らの意思で知恵や技術、制度を総動員し、自らの手で都市の暮らしを編んでいく「まなざす」主体である。本号ではバルセロナ、アムステルダム、奈良、熊本で始まるエイブルシティの先駆とも捉えられる活動とその実践者を紹介している。道ゆく人と路上生活者の関係性を変えるデザインから、近代が築き上げてきた産業構造の抜本的な改革まで、そのスケールもベクトルも違えど、人がもつさまざまな可能性に賭ける姿に変わりはないはずだ。是非、興味の赴くままに読んでいただければと思う。自らの意思で都市を、社会を、未来を「まなざす」主体であることを大切にしていきたい方々に、本号を贈る。

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