頼まれてもないのに。その51(令和五年大相撲秋場所を振り返る)
今春のWBCだけでもおなかいっぱいだったのにここへ来て世界陸上とラグビーW杯という私の好きな大会がさらに立て続けに開催されてしまいましてもう今年はなんという当たり年なんでしょう。北口榛花のやり投げ見ました?開幕戦のフランス対ニュージーランド戦見ました?イングランドのヘディング見ました?今週末はサモア戦ですよ次とその次絶対勝たなきゃ日本。
……ということで見事に挟まれちゃいましてね秋場所。
ほんと申し訳ない。見逃している取組も今回たくさんあります。
でもそういいつつ、見ちゃいますね大相撲。
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今場所は角界のイケオジたちから。
玉鷲の11連敗。鉄人はどこか痛めていても休みませんし口にもしませんから見てる側には何が何だか全くわかりませんが、それでもなんといいますか。
玉鷲でしたね。負け続けてても玉鷲。
かっこいいなと思いましたね。
どれだけ負け続けても15連敗で終わることはないという確信がなぜかありました。でももし15連敗で終わっても玉鷲は玉鷲であり続けるんだろうなって。
来場所は挽回の場所。ハイパントで陣地を回復、違った、番付を取り戻しましょう。
遠藤。決して高くない位置での番付とはいえ勝った相撲の内容の良さ。個人的には今場所の技能賞はこの力士。前も書いた気がしますが人気絶頂の若い頃よりも年を重ねるごとに熟練さを増す取り口で楽しませてくれる今のほうが私は好きです。
佐田の海、千秋楽に無念の負け越しという印象のほうが強いのですが今場所は若手相手に見事勝ち越しましたよ。見ているほうもこういうの地味に嬉しい。湘南乃海も応援してるんですけどね。
妙義龍も宝富士も、前者は勝ち越し後者は負け越しで終わってしまった今場所ですけれども、勝っても負けてもファンを裏切らない相撲を取り続けてくれているのが本当に嬉しいことです。
まだまだ角界のイケオジたちから目が離せません。
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アレの話。
13年ぶりに阪神が叶えた悲願のアレ、高安にはなんでこんなに遠いんでしょ。10日目の熱海富士戦で倒れた姿を見て気の毒で気の毒で。
腰ですよねおそらく。11日目以降の取組を見ても素人にも見てわかるほどに足腰に力入んなくなっちゃって。こんな状態なのに終盤よく2勝できたなと。凄いと思います。
高安のアレ。今場所こそ手に入れられるように見えたのに。
でもなんだろうな、アレが遠ければ遠いほど私の中で高安がますます魅力的になっていくんですね。心折ることなく(少なくとも観客にそれを見せることなく)次こそは次こそはと正面突破で挑戦し続けるのは、見ていて気の毒になることも多いけど応援したくなりますね。
平幕にいるということも大きいでしょう。地位はもうとっくの昔に失ってしまっているもの。
だからきっと、いずれアレの名を皆がはっきりと口にできる日が。
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熱海富士にはびっくりしました。
11日目の翔猿戦で見せた豪快な上手投げ。そして14日目の阿炎戦、立ち合いの変化にひるまずついていった冷静さ。まだまだ上位にかなう力はついていないと思っていたのですけれど、なんのなんの、堂々としたものでした。
さすがに朝乃山にはかなわなかったので次はここに勝つことを目指してほしいなあなどという欲張りな願望が出てきてしまいました。
もっともっと強くなってもらい、今回のように胸を借りる形ではなく、実力伯仲した上位力士たちと優勝争いするところを見たくて仕方ありません。優勝が今回以上に生々しく迫る形で目の前に現れてもこの子は自然体を維持した相撲が取れるのか、この子の心の器の大きさを見たいものです。
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カド番の二大関が勝ち越せたこと、新大関の豊昇龍が千秋楽に無事勝ち越せたこと、ほんとうによかったです。
豊昇龍が序盤びっくりするほど気負っていたのが予想通りだと言えば実は予想通りで、私だけでなく皆薄々感じ取ってるとは思うのですけれど、土俵上で見せている姿ほど気の強い人でもないような。次の地位を目指すにあたりどう乗り越えていくのか。足りない部分は補いようで強い魅力になりますから。そもそもおじさんとは違ってて当たり前だし。
とりあえず7勝7敗で迎えた千秋楽、格下に勝ったくらいでドヤなにらみをきかせてちゃだめですよーなどという無粋なツッコミいれつつ、伸びしろたっぷりなところを愛しむのも大相撲観戦の楽しみの一つなのかもしれません。
霧島も豊昇龍も新たに始まったばかり。がんばれー。
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大相撲、勝ち負けがもちろん一番の楽しみであり注目どころではありますが、勝ち負けを介した人間の姿を私たちは味わい、学び、楽しんでいるのかもしれないなと思いました。
今場所の玉鷲の大連敗もそうです。高安の、無念のアレからのリタイア(星勘定的には最後までくらいついてはいましたけれど、終盤の相撲内容見る限り傍目には無理だと思いましたよ)もそう。
そりゃ一つでも多く勝ってほしいし優勝だってしてほしい。でもファンはそれだけを見てるわけじゃないんですよね。
勝ちたくても勝てないときこそその人がどういう人なのかがあらわになる。負けたくない、うん、それも人間としての正直さ。でもそれは弱さでもある。
大相撲には番付があって、地位があって、幕下以下の力士には給料すらありません。黒い稽古用まわしのまま現役生活を終えていく力士のほうがはるかに多いのが大相撲です。
誰かが勝てば誰かが負ける。勝ちと負けの数は同じだから、誰かがたくさん勝てば誰かがたくさん負けてる。
だから負けを否定することは、過度に怖がることは、そういう人たちの存在意義を間接的に否定してることになるような気がしてならないのです。
私たちは思っている以上に無意識に、弱い自分をあれこれ理由づけ肯定しながら生きているように思うのです。
弱さを肯定するのは意外と簡単です。言い訳はびっくりするほどあちこちに転がっています。私たちは言い訳探しの天才だから。
最近思うのです。人間的に成長するというのは、本当にえらい人というのは、地位とか金とか権力とかではなく、自分の中の弱さから逃げなかった人なのではないかと。
若い頃なら考えもしなかったことです。でも年を取り、黒髪の中に白いものが見えてきて、体にもいろんな変化が表れて、これからはさらにできなくなることが増えてくるという近未来も見えてきて。
どんなに強くて勝ち続けていた人も、どんどん衰えて、負け始めて。間違えて、バカにされて、見下されて。
それらの現実を受け入れながら、今できることだけ見て心折らず前向きに生きていける人こそ、もっとも人間として優れているんじゃなかろうかと。
そう考えると大相撲だって番付じゃないかもしれません。まわしの色じゃないのかも。
それでも番付の高低に大きな意味をこれまでの人たちが与え維持し、遺してきたのだとしたら、それはなんだろうかと考えるのです。
今回の件だけではないのですけれど、だったらもう番付要らないんじゃないのって思うことがあります。ケガしててまともに相撲が取れないんだったら人様に見せられる相撲取れるようになるまで休まなきゃだめだ。力の差があるから幕内、十両、幕下……みたいな区分は必要だけど、番付の維持のためだけにでかい図体、若い体を持ってるくせに勝つだけの相撲見せられても(それも技能だという人はいるけどね)時間と期待を無駄にしたなあと思うくらいなら、もう思い切って番付なんてとっぱらっちまえとすら。
そしたら言い訳の一つそのものが消えてなくなる。
伝統が壊れる時がくるなら、下の人じゃなく上の人が率先してモラルを壊した時なんだろうなと。言い訳まみれになったときなんだろうなと。
上にのぼればのぼるほど、人としてさらに規範を保たなきゃいけないというのはそういうことなんだと思います。
大事なものを守れるのは上にいる、限られた人たちだけなんです。
下の人たちじゃない。
だから上の人たちはえらいんです。尊敬されるんです。本来は。
勝ちはかっこいい。だけど負けにもそれ以上にかっこいいものがある。
玉鷲も高安もかっこよかったもの。
ファンが見ているのは勝ち負けだけじゃないということをもっと信じてほしいなと思います。
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体を痛めているお相撲さんたちが次の場所までに少しでも回復していますように。
痛いのは怖いこと。負けるのは悔しいこと。それを乗り越えて土俵上がって戦ってるってだけでとんでもなくすごいことです。
いろんなことを思いながら毎場所観戦しています。
こんなにいろいろ学ばせてもらって。
さまざまなものがあらわにされてしまう、こんなに怖い大相撲という競技に身を投じた人たちの勇気に。
来場所もがんばれ、みんな。