恐怖!ワニ人間!
「町はずれの沼に化け物が出る」
噂を聞いた4人の夏休みの少年たちは、化け物の姿を一目見てやろうと、自転車を夕暮れの沼へと走らせた。
目的地にたどり着いた少年たちは、沼のどこかで少女の呻き声のような音を聴く。
音のする方へ目をやると、沼に小さな影が浮かび、ゆっくりと少年たちに近づいて来る。
少年たちは怯え、動くこともできない。
鋭い爪、牙、黄色い眼。
小さな二足歩行のワニが沼から姿を現す。
人に似た言葉のような呻き声を上げて少年たちに近付くワニ。
ワニの小ささと可愛らしさ安堵した少年たちは、この珍しい二足歩行の小さなワニを大人達に内緒で飼うことにした。
沼の近くに秘密基地を作り、毎日通った。
肉屋の息子はワニに新鮮な肉を毎日プレゼントした。
ワニもすぐに少年たちに慣れ、懐いた。
少年たちとワニはすぐに友達になった。
数日経った頃、少年たちはワニの指先が丸く、鼻も短く変化していることに気が付いた。
どんな種類のワニに育つのか、楽しみだった。
更に数日が経ち、ワニの体型はどんどんヒトの子供に近くなっていた。
相変わらず言葉はわからないが、声はますます少女のようになっていった。
ワニは肉を貰うと、嬉しそうに笑った。
更に数日後、ワニはほとんどヒトの子供に近い体型になり、身振りに手振りによって少年たちと意思の疎通ができるようになった。
一緒に沼の周りを探検するようになったが、その頃からワニは肉を残すようになった。
他の食べ物を与えても食べず、日に日に少しずつ弱っていった。
笑顔も減っていった。
少年たちは相談した。
獣医か、医者か。
だが、どの道自分たちには払えない金額だ。
親に話したら怒られるだろう。
夏休みの終わりも近い。
せめてワニに元気を出してもらおうと、"遠足"に連れて行くことにした。
少年たちは、夏休みの終わりに、ワニをリュックサックに入れ、自転車のカゴに乗せて自分達が住む商店街へ連れていった。
夕焼けの商店街。
リュックから顔だけを出して風を浴びるワニの瞳は、夕陽を反射して、琥珀色に輝いていた。
ワニは笑った。
夏休みが終わり、学校が始まった。
忙しくなった少年たちは、秘密基地へ行かなくなった。
数週間後。
ワニのことを思い出した少年たちは、秘密基地へ行くことにした。
秘密基地にワニの姿は無かった。
どんなに沼中を探しても、影すら見当たらなかった。
後悔に涙を流し途方に暮れる少年たちの目蓋の裏には、夕陽のように輝く、ワニの瞳が焼き付いたままだった。
少年たちが寝静まった頃の深夜のニュース。
ある博士が違法な研究を行って逮捕された。
ワニと自分の娘のDNAを混ぜた生物を作成したらしい。
しかし作成はしたものの、身体と内臓のバランスが悪く、長生きできないことが判明したため、ある町の外れにある沼に遺棄したとのことだ。
テレビでは、異常なワニを発見次第、警察か保健所に連絡するように、とのアナウンスが流れていた。