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なぜルシファーは医師国家試験に落ちるのか


金子裕介、通称ルシファー氏が、第118回医師国家試験に落ちた。
これで国試7浪に突入したことになる。

118回国試は受験者数、合格者数が過去10年のうち最多となり、合格ボーダーも更に上昇した。
医師国家試験は相対評価であり、点数にかかわらず必ず下位およそ一割は不合格となる。
近年、国試予備校の急激な増加、対策アプリやサービスが充実するなど「国試お受験」は過熱しており、より厳しい戦いになる中で果敢に国試に挑み続けるルシファー氏の姿には心惹かれるものがある。

そこで、誠に勝手ながら、ルシファー氏がなぜ国試に落ち続けるのか考えてみた。
ちなみに筆者は医学部生ではなく、医学分野の専門知識はない。
それを踏まえたうえでお読みいただきたい。

(1)ルシファー氏の勉強法

彼の勉強法の一番の特徴が、「暗記」である。

ルシファー氏のXより抜粋

もちろん、勉強に暗記は必須だ。知識がないと何も解けないし、知識を得るにはまずは暗記しかない。
しかし、彼は、「解法暗記」という独特の暗記法を用いている。

数学の鬼

解法暗記とは数学の勉強法の一種で、必解パターンを暗記し、その暗記した解法を組み合わせることによって問題を解く方法である。
すなわち、出題のパターン化だ。
幅広く深い知識を問われる医師国家試験を、このパターン暗記で乗り切ってしまおうというのがルシファー氏の作戦である。

ちなみに、医師国家試験は臨床200問・一般100問・必修100問(必修臨床・必修一般)の計400問である。
共通テスト(旧センター試験)の一科目あたりの問題数がおよそ50問であり、理三を受けるには8科目必要なので、奇しくも共通テストと医師国家試験の問題数はほぼ同じということになる。

そして、ルシファー氏は日本最難関である東大理科三類入試を共通テストも
ろとも解法暗記で突破している。

解法暗記で成功体験を積んできたルシファー氏。
なのに、なぜ、医師国家試験は解法暗記で突破できないのか。

(2)118回国試の誤答を考える

これは、今年の国試でルシファー氏が間違えた問題である。

ルシファー氏の敬語は柔らかくてかわいい

C問題 12 右Babinski徴候が陽性になるのはどれか。
a 右大脳半球病変
b 左橋病変
c 右小脳病変
d 左頚髄病変
e 馬尾障害

Babinskiとは足裏をこすると足の親指が反る脊髄反射で(くすぐったいのとは別)、生後三か月まで見られる。
それ以降の年齢でこの反射が起こる場合は、脳から脊髄を通る錐体路の障害が考えられる。
そして、錐体路は延髄(脳と脊髄のつなぎ目)で左右が交差して胴体へと降りるので、障害が出ている側と障害されている錐体路は左右逆になる。(いわゆる、右手が麻痺してる時は左脳が悪いみたいなやつ)
すなわち、「左側の錐体路障害」ということになり、答えはb:左橋病変となる(橋は延髄の上にあり、錐体路が通る)。

これは基礎中の基礎を問われるシンプルな問題である。

ちなみに、彼はマニアックな知識が問われる問題の正答率は高く、正答率の高い問題を間違えることが多いらしい。

その通り、彼はc:右小脳病変 と間違えており、その理由を「114回の過去問的にそうだと思った」としている。

おそらく、彼の指す過去問はこれだ。

これもシンプルな問題

ちなみに、答えはc:右小脳半球 である。
この問題のキモは「運動失調」で、運動麻痺とも運動障害とも異なり、小脳が障害された際に現れる特徴的な症状である。かつ、小脳半球障害の場合は障害された方と左右同じ側に症状が出る。
※2024/4/1追記:コメント欄でご指摘頂きましたが、この問題は「錐体外路」を問う問題とのことです。錐体を経由しないため、錐体外路という名称のよう。
基礎知識を問う、シンプルな問題だ。

ルシファー氏は、この問題と118回のBabinski徴候を類似問題と捉えた。しかし、114回問題は錐体外路(小脳)障害の設問で、118回問題は錐体路障害の設問である。
聞かれていることが全く異なる。

解法暗記で解いたとするならば、彼はこの2問を同じパターンと認識したことになる。
なぜこのようなことが起きるのか。


世紀の難問

(3)ルシファー氏の思考を考える


ルシファー氏は「問題の文面・症状の一致率が一番高い過去問を類似問題と捉えている」のではないか。
先の二問は、文面が似ている。錐体路と錐体外路も似ている。そして、症状も、運動の阻害/脳(延髄含む)の障害という点で似ている。
だから、彼は114問題を類題と感じたのではないか。

たとえば、「綿花の輸出量が一番多い国はどこか(A.アメリカ)」という問題があるとする。
過去問に
①「綿の輸出率が一番多い国はどこか(A.ギリシャ)」
②「綿の世界輸出量でおよそ4割を占めている国はどこか(A.アメリカ)」

があった時、ルシファー氏は、文章の一致率がより高い①の類似問題と考えてしまうのではないか。

この仮説が正しいならば、彼は、何を問う問題かを考えず、問題文をキーワードの組み合わせとして捉えている可能性がある。
その結果、問いと答えのペア文面を暗記するだけになっているのではないか。

国試に立ち返る。
114回問題文および解答を、「右/上肢(足)/運動失調/病変」-「小脳」のキーワードの複合体と考えてみる。
同じように118回問題をキーワードに分けると、「右/足/Babinski/反射/陽性」となる。たしかに、一致するキーワードが多い。
しかし、Babinski反射と運動失調の違いはあまりにも大きい。
他のキーワードが全て一致したとしても、この一単語が変わるだけで全く別の問題へと変わるのである。

キーワードの一致率とキーワードの重要性はイコールではないことを、ルシファー氏は見落としている可能性がある。

※ルシファー氏が、「錐体路障害と錐体外路/小脳障害」を脳の障害、「Babinski反射と運動失調」を運動阻害、と、機序を丸無視してガバすぎるカテゴリでまとめている可能性もある。

ここで一つの疑問が浮かぶ。「Babinski陽性」は錐体路障害に固有の症状であり、問題文にこの単語があった場合、脊髄反射で錐体路障害!と叫んでいいぐらいの「お決まりのパターン」である。

なのに、なぜ、「Babinski-錐体路」の黄金パターンをルシファー氏は知らなかったのか。

おそらく彼は、パターンを前提知識ではなく、過去問の問題文から作ってしまっている
過去問以外の暗記がすっぽり抜けている。

①キーワードの重要度の違いを理解していない
②過去問しか暗記していない

この2点が、ルシファー氏が受からない原因だ。

(4)順番が違うのだ、ルシ

①キーワードの重要度を理解していない、これが一番重い。

「わずかに違う」ではない、全然違うのだ

繰り返しになるが、解法暗記は必解パターンを暗記し、その暗記した解法を組み合わせることによって問題を解くという、レゴブロックのような勉強法である。
これは、言い換えると、「必解パターンは不変である」必要がある。
パターン内に変数が存在した場合、そのパターンは使えない。

ここだ。国試対策で、ルシファー氏がパターンと捉えているのは、実はパターンではないのである。なぜなら、その文中の単語がひとつ変わっただけで、文意が変わってしまうからだ。
本体覚えるべきパターンは、問題文ではなく、基礎知識の中にある。

数学の問題だと、数字や前提条件が多少置き換わったところで解き方は変わらない。問いの本質を構成する要素が少ないからだ。
しかし、医師国家試験では、問題文の単語がひとつ置き換わっただけで全く別の問いへと変化する。
すなわち、問題文中で問いの本質を形成するキーワードを見極めないと、パターン暗記は通用しない。

数学を得意とすることからも、彼は、問いと答えがイコールで結びつく一本筋のロジックは得意なのだろう。

しかし、医学は違う。
症状と疾患・機序の関係は非常に複雑で、腹痛ひとつとっても胃炎腸炎腹膜炎食中毒盲腸癌…数えきれない疾患が想定される。
同じ症状の裏には膨大な可能性が潜んでおり、100%の正解は無く、確率の高い推測を積み重ねて一番可能性の高い筋を考えるのが医学である。

すなわち、複数ある条件のうちで重要性の順番を見極める能力が求められている。


数学
医学


国試問題を過去二年分読んだ雑感としても、医師国家試験とは、「100%の正解を導出するテスト」ではなく、「可能性の最も高い答えを選べるかを問うテスト」なのだと感じた。

こっちが聞きたい



知識は氷山のようなもので、水面に顔を出しているわずかな一角(症状)の下には広大な知識が繋がっている。
しかし、ルシファー氏は、水面下の知識に目を向けず、この一角のみを詳細に膨大に丸暗記して挑もうとしているように見える。

少し捻った基礎問題や引っ掛け問題に弱いのも、このせいだ。

類似問題は通常、「同じ氷山の切りとり方を変えたもの」と認識するが、ルシファー氏の暗記法の場合、「全く別の氷山」と認識してしまう。
そして、問題文は似ているが答えの異なる問題は、通常は「よく似た別の氷山」とわかるが、ルシファーは飛び出た一角の形状のみで認識しているので、「同じ氷山」と認識してしまう。

なので、ルシファー氏がまずすべきは、重要キーワードの理解である。そして、それに必要なのが、過去問暗記ではなく、基礎知識の暗記である。

こういうのをやりなさい

基礎知識の重要キーワードを理解していなければ、問題文中の本質キーワードも抜き出せない。
ルシファー氏に必要なのは、パターンと認識するための前提知識だ。


(5)ルシ、キーワードの重要度を暗記しろ

Xの投稿を見る限り、彼はまだパターン暗記で突破する道を引き返そうとはしていない。
常人であれば到底無理であろうが、彼の類まれなる記憶力と努力量があれば、もしかすると無数の氷山の一角の群れの果てに、合格へとたどり着くのかもしれない。

茨の道の後押しになるかはわからないが、問題文からパターンを認識するのはもう止めにして、重要条件となるキーワードを理解して覚えてほしい。


文章丸ごとじゃなくて、重要キーワードを抜き出して覚えるべし

素人意見で恐縮だが、これがル氏の合格の一助となれば幸いである。

最後に、Xの投稿は全て@fxgodzeussから引用させて頂いた。
がんばれルシファー!


幸あれ

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