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二郎系とかいう変なラーメン

 昨日の夜、「ラーメン鷹の目 北千住」に行って来た。
「二郎系を初めて食べた時から、それ以外のラーメンを、全てラーメンだと思えなくなったんだ。」
そのまま恋愛マンガに流用できそうな、チープな告白だ。でも、
始めて二郎系を食べた時、確かにそう思えた。

 初めて二郎系を食べたのは、2年前。大学進学で引っ越してきて、2か月ほど経った頃だった。
運動系サークルの活動後に、10人くらいで中華料理屋に行った。そこで油淋鶏定食を食べた。ご飯とスープはお代わりした。店を出たころには、もう9時を回るか、といったところ。1日が終わる。ただ、何かが足りない。十分な量を食べたのにも関わらず、僕の中に、「渇き」があった。それは暴力的で抗しがたい、哀しいまでに何かを求める「飢え」だった。抑えることが出来ない性欲や、睡眠欲と同じ類いのモノ。
 このままみんなと別れたくなかった。僕は満たされたかった。いや、それよりもっと強い感情。どうやっても打ち勝てない、我慢できないものによって、徹底的に服従されたかった。

Layla           Got me on my knees
Layla           Begging darling please
Layla           Darling won't you ease my worried mind?

「Layla」 Eric Clapton  ( Derek and the Dominos)

 そんなとき、メンバーの中で一番の大食いも、同じように食べ足りなかったようで、
「まだ食える人、近くの二郎系行かね?」
と、言い放った。
大学の向かい側にある、黄色い看板のボロい店。僕もすでに何回か通ったことがあったが、その中のサンクチュアリで何が起こっているか、気にしてはいなかった。いや、今思えば知らないふりをしていたのだ。精一杯、そこから目を背けていたのだ。中学校で好きな子と隣の席になった時のような感情になっていたことに、その時気づいた。

 気づけば、僕も行くと答えていた。
さらにもう一人の同級生を加えて、結局、1年生3人でそのラーメン屋に行くことになった。平均身長180cm。そんな3人が列に並び、食べられるその瞬間を待つ。

 3年生の先輩も1人、ついてきて、地方出身の僕らに、二郎系の掟を伝授してくれる。
「いいか、初めてならコールはどう言うか決めておけよ、合図は、ニンニク入れますか?だ。心の中で暗唱するのも忘れずにな、麺が来ても写真は撮りすぎるなよ。あんまり私語はせず、食べることに集中しろよ。そして食べ終わったやつから店を出るんだ。ここの店主は物腰優しい方だけど、二郎系店主としての誇りも持っているからな。あんまりなめた態度取ると、二度と二郎が食えない体にさせられるからな、くれぐれも心してかかれよ。いいな。」と列に並ぶ僕らに伝授すると、アパートに帰っていった。

 僕は麺300グラムの野菜マシ、他二人は400グラム野菜マシだ。
どのカウンターも無言で麺をすする殺風景な、しかしそこに揺らぐ目には見えない炎が、エアコンが効いてるはずの店内に熱気をもたらす空間の中、僕らの前にもラーメンが着丼される。富士山と見まがうモヤシの山、エアーズロックのようなチャーシューが2枚。そして、初めて食する、麺業界の異端児、オーション麵。

(主に男子)大学生あるある「人生初二郎で、一口目で、こんなに美味い食べ物があったのか、、、と感動し、食べ進め、最後の方で吐きそうになって後悔する。」

 僕らは皆、30分前に中華の定食でご飯お代わりした手負いの身である。今思えば正直、ロット乱しと非難されても言い返せない時間をかけてラーメンを食べた。それに、あんなに親身にアドバイスしてくれた先輩、実は無能だった。一番大切なことを僕らに教えなかった。
「チャーシュー、先に食べとけば良かった、、、」
主にヤサイ→麺→チャーシューの順番で食い進めた僕は、汁をグングン吸い続ける麺と格闘し、(今は天地返しを習得している)最後、エアーズロックに撃沈しそうになりながら完食した。友達も食い終わり、3人で店の近くのベンチで座り込む。
 20分近く歩き出すことが出来ず、初夏の夜空を見ることしかできなかったあの時間、僕らは間違いなく青春の真っただ中にいた。

 あの頃、僕らは不安と家族と会えない寂しさでいっぱいになりながら、それでも、未来への希望で満ち溢れていたなあ。あの頃、僕らは将来なんにでもなれる気がしていたんだ。そりゃあ、二郎の山盛りを食べた後なら、そう思えて当たり前だよな。まだ何にも始まってなかった10代の夜。無責任に自分を信じられてた俺たちの青と夏。


そうやって俺達はいつまでも待ってた
来わしないとわかってながら いつまでも待ってた
俺たちの知る限り 時間って奴は止まったり戻ったりはしない
ただ前に進むだけだ
だから今日は戻らない日々を思い出して笑おう
今日だけ今日だけは思い出して笑おう
こういうのってあんまりカッコよくは無いけど
初めから俺たちはカッコよくなんて無いしな

「pellicule」不可思議/wonderboy


 今でも僕は、二郎が大好きだ。

 初めてを捧げたあの二郎系の店は、僕がキャンパスが変わって引っ越してからは行かなくなってしまったが、その代わり、今のアパートの徒歩五分圏内に直系の二郎があるので、友達と行ったりしてる。まだ1人で直系に行ったことはない。1人の時はインスパイア系に行くことがほとんど。今度山田総帥のラーメンを食べに行きたい。そのためには早起きして三田まで電車乗り継いで行かないといけない。朝から二郎食って何が楽しいのか分からないけど、総帥がまだラーメンを作れる内に、一回は敬意を表して食いたい。
いつか桃乃木かなの隣で二郎食べるのが夢。

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