「旅する土鍋 」 −みんなが活きる時間− 食にたずさわる友たちと夏を呼ぶ(前編)
夏がこない。
飛行機で飛び、列車で流れ、
長距離バスに揺れる
夏が、こない。
ミングルに集まって
「旅する土鍋」の夏。
2020年はイタリアへの旅が叶わず東京にいる。
普段、なかなか時間が合致しない多忙な友人たちのもとへ、東京からすぐの大きな川を越えて大きなキャリーバッグはガタゴト走る。ああ、この感じ久しぶり。キャリーに伝わる好まない振動に、血潮がみなぎる。
3月に出版された有賀薫さんの「3000日以上、毎日スープを作り続けた有賀さんのがんばらないのにおいしいスープ 」(文響社)のパーティが、疫病蔓延期と重なりキャンセルとなったので、おそばせながら祝杯をあげたいと提案したのが始まりだったのに、主役である薫さん宅のミングルを訪問することに。それならば「旅する土鍋 JAPAN」と銘打って、工房独立20周年のスタートを切らせてもらうことにした。
まだ、あれこれ気がかりな状況。
参加してくださるみなさまが、料理関係者。衛生に衛生を重ね、責任をもって行動できる範囲の少人数で有賀さんのミングルに集まることになった。
参加者
有賀 薫
スープ作家/ライター
中山 るりこ
so good coffee/NPO法人ロータスプロジェクト
凛 福子
Fukuko Chronicle エディター・ライター
我妻 珠美
書く陶芸家/土鍋作家「旅する土鍋」
場所
新時代のごはん装置「ミングル」(有賀さん宅)
みんなが活きる時間
まずは、赤キャベツとブルーベリーのマリネを熱意がスパークするシードルと。有賀さんのぱつんぱつんなスケジュールにより幸福的な浅漬けに仕上がったマリネとの相性抜群。シードルのリンゴ味を強調させた。
樋口直哉(TravelingFoodLab.)さんの記事で読んでいたシードル(台風19号の被害を受けたリンゴ使用)は、有賀さんがお取り寄せした貴重な一本だ。
「旅する土鍋」は、土鍋で料理して食べると楽しいよ!とか、みんなでワイワイいいでしょ!を自慢する一過性の企画ではない。
コミュニティという言葉は、ラテン語「munus」(贈物、好意、演出)に「co」(相互、共同)という接頭辞がついたもの。相互の演出あっての贈り物。「旅する土鍋」は、そのコミュニティの道具だと思っていて、イタリアではピアッツァ(広場)のようなものと説明している。つまりは、土鍋を介して「みんなが活きる時間」が持てればと願っている。
コミュニティというと大勢を思い浮かべるかもしれないが、特筆したいのは「土鍋とわたし」の相互でも時間は活きると思っている。
料理には人間がまねできないような勢いがある
「ナスを焼こうと思うんだけどね、どうする?」と有賀さん。
着地がスープでないときも、仕事から少し離れた屈託のない有賀さんの笑顔もいいでしょ。泥の作業着を脱いだわたしも、職人のしかめっ面からとけて「土鍋とセイロでヘルシーに蒸すのはどう?」と、セイロでたきつける。
シードルからの樋口さんつながりで、参加者が一斉に「樋口さんのふかしナスやってみよう!」ということになる。浅めの土鍋に水を入れ、セイロ一段目に、皮をむいた4本のナスを半分に切って敷く。
二段目は、前日に知人の店「台湾藝茶館 桜樺苑」でテイクアウトした飲茶3種を並べる。どちらも「湯気が上がった状態から10分」と言っていたのでバッチリではないか。油も下ごしらえもなし。
こちらは、セイロをオープンする短い動画。アバウトなんだけど、最後までこだわるつぶやきが微笑ましい。
ただ並べるだけで蒸しあがったナスに、わあ!美しい!と喜び、なにつけて食べるか?で盛り上がる。醤油に辛子!ポン酢!からはじまり、食べるラー油的なもの、さっぱり塩と山椒もいいね!シャンパンにも合うしねと、すべての行為を肯定しようとするアドレナリンが心身に良いのだと思う。あっというまに大きなナスを1本ずつペロリと平らげた。あとで、記事をよく読んだら、蒸したらラップで冷やすと書いてあるのにね、おかまいなし。
台湾饅頭も小さいのに大満足。緑の饅頭は、最初はビーガンや海老アレルギーの人のためにつくったそうだが、小さい世界に春雨や野菜がいろいろ入っていて感心する味。ビーガンや精進って尊いよねという話に進んだり、またナス談義に戻ったり。
料理って、そういうものだ
イタリアの広場や、足のつかない海の真ん中でも、食べることに関するおしゃべりが繰り広げられる。「ナスがあるんだけどさ」から始まって、「うちはこう料理する」「うちの畑のナスはおいしい」しまいには「ナスを育ててるあの娘さんがさ」とゴシップに走ってゆく。
湧水のように出てくる人々の話や一対一の想いが肝心であり、土鍋は隠れたファシリテータになる。わたしは土鍋の通訳者。
食材に勢いをもらう
前半の最後は、スープ作家である有賀さんの「昆布水」を使った「ハモとゴボウの炊き込みごはん」の動画を。天然利尻昆布は、わたしも愛用しているが、ほんの少量でぐっと味が変わる。昆布大使である松田真枝さんの記事と、有賀さんの利尻視察の両記事を載せておこう。
有賀さんご所有の土鍋コッチョリーノを使って3合の米と、ハモと、ゴボウを炊き込む。スープ作家の昆布水は完璧だし、有賀さんセレクトの具材も惚れ惚れ。水加減と炊くのはわたし。こちらも炊き上がったら、あれこれ談義。明け方まで仕事した人も含めて、全員の瞳がキラッキラに輝いていたことだけは、土鍋も見逃さない。
海を泳ぐ魚と、のんびり土に潜む根っこ。
そんな食材に、勢いをもらった。
みんなが活きる時間に。
そして、ゆっくりと夏がきた。
(後編のデザートにつづく)