土鍋で秋を炊く⑤ 「生秋鮭の土鍋ごはん」
みずから旅する身であるからこそ、旅の途中の「秋鮭」に、深く手をあわせ「いただきます」と言う。
生秋鮭の身に塩をこすりつけ、酒に数時間浸し、米に入れて炊くだけ。「ごちそうサウンド」コトコト沸騰したら弱火にして20分。ラスト3分間は強火にしてパチパチと水分とばせばおこげに。10~20分蒸らす。※大根の葉っぱがあったので刻んで一緒に蒸らした。
酢飯にしてシソと白ゴマを散らしてお寿司にしてもいい。子どものころ、誕生日に母がつくってくれるメニューのひとつだった。
写真の土鍋は先日の窯たきで失敗した作品。
実はあっち側の把っ手がない。ご供養である。
必死で川をのぼり産卵し、生まれた稚魚は大海原に旅に出る。数年間の回遊を終え、親になるためにまた生まれた川に海から戻ってくるというミステリーな生態。
産卵前に捕らえられたのが「秋鮭」。店頭に鮭と一緒にならぶ白子や筋子を見て、はぁ、人生とは!と、メランコリックなため息をついてしまうなんて夢想家だろうか。しかし直後「おいしそう!」と目が輝くのだから、食いしん坊の夢想家とでもいっておこう。
秋鮭は「白鮭」とも呼ばれ、もともと白い身は、エビやカニなどの甲殻類を食べて赤くなっているそうだ。海に充満する栄養をカラダにしみこませ、川に戻ってきたところを人間が、上流にたどりついたところを熊などの哺乳類や鳥や昆虫らが、そして、それら生き物は山に栄養を運ぶ。
「旅人」は、わが身が赤くなるまでいっぱいおいしい経験を食べ満足し、その身を誰かがおいしいおいしいと食べればいい。
「旅する土鍋」は海のようなもの。土鍋にたくさんの栄養を盛り、川に、山にたくさん栄養を運ぶプロジェクトなのだ。いまは「秋鮭」と同じで産卵のとき。あと一ヶ月に迫る個展まで一心不乱に川を遡上している。
INFORMATION
我妻珠美 陶展 -秋を炊く-
Tamami Azuma
Ceramic Art Exhibition
Ecru+HM(Ginza Tokyo)
2018年11月16日~24日
※21日休廊
東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル4F