旅する土鍋 リトアニア⑦「謎めく食材」
「これはなんですか?」
目の前の食材をゆびさして、英語教科書の最初のページのような会話をする。
「ネー」「ニェ」「ニエット」など、NOにあたる音が相手から聞こえてきたら、もうどうしようもないのだ。店の人が「英語わかりません」と言ってるということ。それなのに、彼らのはにかんだ笑顔をみると、早々あきらめられない。好奇心のボルテージは上がるが、寒さにふるえる足をもバタバタさせながら、もう一度チャレンジする。
リトアニアの首都ビリニュスという町のお祭りには、工芸品のほか、伝統料理や食材がならぶ。3日かけても全部まわりきれていないと思う。
「どんなチーズですか?」
リトアニアは発酵食品(乳製品のほか清涼飲料や発酵キャベツなどなど)が豊かな国であり、酪農がさかんであることからもチーズやヨーグルトの数も多い。想像とはちょっと違った見た目や歯ごたえのチーズ。再び販売者の前で、手と足までバタバタさせながら「どんなチーズですか?」をくりかえす。
ヨーロッパのチーズとはまた少し違う品揃えで、あきらめられないほど魅惑的なのだ。
「これはお肉ですか?」
子どものような質問はつづく。殿方は少しだけ英語がわかるようで「ネー、ネー、チーズ(英語風に)」と言う。それぞれ味が違うことがご自慢なようで、チーズにミックスされているスパイス名を全部おしえてくれる。本当は、それよりどの動物の乳なのかが知りたかたったが、英語はお手上げ!と手をあげてしまった。リトアニア語で「とにかく試食しろしろ!(たぶん)」とすすめてくれたので、全部食べた。
「もう、おいしいからなんでもいい、買う!」
中でも気に入った2つを買う。香ばしくて美味なものと、もうひつとつは「クルクマ」(ウコン属)が入ったもの。帰国して「チーズ」はSūrisであり、Varskeという伝統的なカッテージチーズであることは判明したが、看板をみてもなかなか発音できないのだ。
「おいしいのか、おいしくないのか!?」
そんなこと、どうでもよくなる。
謎めきは深ければ深いほど人を魅了する。謎めきは興味にむすびつき、初心にもどれる。おいしいものを食べる、つくるということは、まずは「好奇心」というボルテージをあげることからなんだと、屋台でのやり取りで再確認した。
帰国してあらためてじっくり食べてみると、カッテージチーズにスパイスや野菜を入れて固めた加工品であろうと推測。オーブンサンドにして食べたりサラダに入れたり、あっさりしていておいしい。チョコでコーティングされたお菓子チーズもあった。
最後に、興味深い記事を発見した。「旅する土鍋」がイタリアとリトアニアをまたいだ意味がそこにあったのか!? ⇒「リトアニア産チーズ イタリアと深い絆」(日経電子版)
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