小説のタネ「羞恥」

私が活気もなにもないこの島に降り立ったのは、そのなにもなさを味わうためだった。少し歩くと、旧世代のモルタル建築の建物が現れた。映画館だった。築80年ほどのポルノが映画館では、とても今では見られない、ドギツイポスターが三点、「上映中」の掲示板に貼られていた。
映画館の横には、なかなか大きな像というかモニュメントが鎮座していた。高さは8メートルくらい。像なのかモニュメントなのか、それともただの柱なのかわからない。
映画館とモニュメントもどきの間に狭い道があった。そこを通り抜けると石畳の広場が現れた。奥まった薄暗いところに階段とスロープが一体になったものが見える。地元のおばあちゃんが押し車を引いてスロープを上がっていく。私はおばあちゃんのいるスロープに向かった。
スロープは短く、階段も8段ほどだった。
スロープを昇ると、いくつかの商店があった。ほとんどが閉まっているか、営業をやめたようだった。
ほぼおばあちゃんと横並びになったとき、おばあちゃんが「羞恥だ」と呟いた。
「羞恥?」と思って周りに目をやると、道のど真ん中に二段に高さが別れた、木製のお立ち台のようなものがあり、そこに60代くらいの女性が四人、薄いパジャマのような姿で佇んでいた。木製のお立ち台というのは、小学校の校庭で校長先生が挨拶するときに上っていた、よくわからない金属の台みたいなものに近い。
60台の女性四人は、そのお立ち台の上で陶酔した表情で、どこか艶かしいポーズを取っていた。といっても格好がただのパジャマなので、これが本当に艶かしいのかはよくわからなかった。
彼女たちは地元民ではない私の姿を見るや否や、そそくさと木製のお立ち台を片付け、隣の肉屋に入っていった。
といっても地方の田舎の肉屋。逃げ込んだところで丸見えである。
私はあれがなんだったのか、話を聞きたくなった。
「警戒しなくていいですよ。僕、昔はエロ本を作ってたので」
「……エロ本ってどんなのさ」
「SM系ですね」
「なら、期待してもいいんだね?」
60代のおばあ四人に期待されても困るのだが……。

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