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1→4→3→②→5→6
お題は ④Ma Deva Shaktiさん
「今日のライヴ」に 御出演 いただけませんか?
すみません。ライブ的な要素のある小説をもってお題攻略とさせてください。連載中の「さすらいのノマドウォーカー」の1篇です。
腰まで伸ばした黒髪にストンとしたデザインのワンピース。
直立不動でマイクを握りしめる少女は、重いそれをただただ落とさないように踏ん張っているだけのようにも見えた。
振付なのかシャンプーのコマーシャルのように首をゆすって髪をなびかせると、また背筋を伸ばす。
帰宅してリビングにむかうと、姉と店子の仙道さんが顔を寄せ合って何かを覗き込んでいた。
「来てたんだ」
それなら連絡してよと文句を言う前に、姉達が見ていた何かを押し付けられた。
受け取ってしまったそれは、9インチほどのタブレットだった。
これがどうかしたかと尋ねる前に両脇から挟まれてしまい、3人で少女のリサイタルを鑑賞するはめになった。
美少女…なんだろうな。
素直に賞賛できないのは、左側を圧迫している実の姉の幼少時だと知っているからだ。
当時のアイドルの曲なのかオリジナル曲なのか。歌詞にはまったく聞き覚えがないが、高音がよく伸びる歌声は、録音状態がよくないのもかかわらず聞き惚れてしまうほどだ。
ワンコーラスが終わり、同じメロディラインが流れてきたところで、ドシンドシンと不規則な低音が混ざり込んだ。
「あら、何の音かしら?」
おしゃべりがなりを潜め、黙ってきいていた仙道さんも我慢ならなくなったようで不快そうに眉をひそめている。
まあこの人はいつもこんな顔をしているのだが。
「これ、あんたよ」
姉が肘でつついてきた。
は?
その時、画面の左端からドシンドシンの正体が姿を現した。
レモンイエローの服につつまれた腕を交互に前へつきだし匍匐前進するそれは、コロコロとよく太った赤ちゃんだった。
姉の歌に合わせてリズムをとっているのだろうが、美声に酔いしれていたオーディエンスにとっては調子っぱずれの振動音は邪魔なことこの上ない。
赤子の頃とはいえ、己の醜態にいたたまれなくなったが、両側をがっちり固定されているので、結局曲が終わるまでそのままの状態で我慢した。
大げさに拍手する仙道さんに気をよくした姉は、「なんならこれからライブでもする?」とのたまう。
言い出したら聞かないのは仙道さんも姉も同じ。面倒なことにならないうちに話題を変えよう。
「どこからひっぱりだしてきたのさ?こんなの」
「母さんが聞きたいっていうから」
「…母さん?」
「…あんた留守電聞いてないの?」
あわててスマホを確認するが不在着信もメールも留守番電話のお知らせもない。
「あ、間違えて家の固定電話にいれたかも」
まったく、美人で頭が良くて何事もそつなくこなす姉はたまにとんでもないドジをやらかす。
自分が家にいるのに、家の電話に伝言を残してどうするというのだ。
「じゃあ、母さんは…」
「うん。意識が戻ったよ」
本編へ続く