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第4章 玉利茂作と浜名鈴江と「エルム」

 北海道警から成瀬川に連絡が入ったのは日曜の午後3時半を回ったところだった。網走駅で守屋志穂梨が変死体で発見されたという報せだった。成瀬川は鈴木と髙橋に網走へ飛ぶように指示し、課内にいた勝浦と玉城、一乗寺を呼び寄せた。
「守屋志穂梨が『オホーツク3号』の車内で変死体として発見された。死因は検死結果を待たなくてはならないが、おそらく毒殺だろうということだ。ただ、飲み物の空き瓶などは見つかっていないそうだ。これも『エルム』のしわざなんだろうか……どう思うね?」
 成瀬川が机を挟んで立っている3人に視線を向けた。勝浦がまず口を開いた。
「網走の到着まで誰も気づかなかったということですか?旭川から網走の間って結構時間がありますが」
 勝浦が話し終えたところで、成瀬川の電話が鳴った。松田からだった。霜降琴乃の所在を確認に向かっていたのだが、昨日も含めて、自宅にいたことが分かった。何度が外出をしているが、すべて近所へ買い物に出かけたという程度で、マンションの管理人が証言してくれた。これによって琴乃が守屋を殺害できる可能性はなくなった。成瀬川はそのことを3人に話してから、勝浦の質問に答えた。
「車掌の証言によると、上川を出発した時点では普通に振る舞っていたが、遠軽を過ぎてから車中を回ったところ、後ろ向きの状態のままで窓にもたれるかたちで寝ているように見えたので、そのままにしておいたということらしい。『オホーツク』は遠軽で進行方向が変わるので座席の向きを変える客が多いらしいんだが、たまたま空いていたこともあるし、遠軽発車時点では彼女がいた車両には他に乗客がいなかったらしいんだ」
「いずれにせよ、臭いのは八木で消えた玉利と、北海道に住んでいる浜名の2人ってわけか。玉利はどうしてるのか連絡はついているのかい?」
 一乗寺が成瀬川に聞いた。
「それが、玉利は旭川駅で12時半によりによって髙橋と会っているんだ。旭山動物園に行くといってな。新千歳空港から直通の『スーパーカムイ15号』で来たと言っていたそうだ」
「なになに、その列車は確か関空発の便で千歳に着くとすぐにつながるやつだな。やつの予定通りの行動、ってわけだ」
 一乗寺は鼻で大きく息を吹き出した。
「ジョージよ、玉利がもっと早くに千歳に着く可能性はないのか?例えば守屋が殺害された『オホーツク3号』に間に合うような」
「ちょっと待てよ……『オホーツク3号』に乗るためには札幌発が9時41分だろ。名古屋からは一番早くて千歳に9時25分だからまず無理だ。やっぱ羽田からじゃないと間に合わねえな。第一、『オホーツク3号』に玉利が乗っていたところで、旭川で降りていないと、12時半に髙橋と玉利は会えないぜ」
 成瀬川が一乗寺に珍しく反論した。
「いや、ジョージ。もし玉利が『オホーツク3号』に間に合っていれば、何かしらの行動はできたはずなんだ。『オホーツク3号』は旭川で5分間停車する。発車するまでに何か仕掛けをして、列車を離れていれば髙橋や鈴木に会うこともなく守屋に手を下せると思うんだがねえ」
「なるほど、『オホーツク3号』に乗れれば、か。守屋が死んでいたのは指定席車両だったんだよな。事前に何かのかたちで接触していれば、毒を盛ることも不可能ではないが、なかなか厳しいんじゃねえか?」
「そこなんだよな。そこが崩せれば……」
 成瀬川の言葉を最後に、室内はしばらく沈黙の時間が続いた。結論が出ないので、やむなく成瀬川は北海道からの情報を待つことにした。

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