【百線一抄】019■ショートカットの為せるワザー伊勢鉄道
名古屋から三重県に入ると、陸地は南西方向へ拡がっていく。それ
に対して、このエリアの路線は鈴鹿山地をめざして西へ延び、南へ
は亀山を介して津や伊勢をめざすルートとなった。四日市と津の間
が短絡できるようになったのは高度経済成長の末期で、走る列車も
大して多くなく、沿線人口も少ないため赤字路線に甘んじていた。
見せ場もないまま、わずか10年ちょっとで国鉄から切り離され、
地元の路線として再出発した伊勢鉄道は、数日後に発足したJR東
海の快速「みえ」の設定と特急「南紀」の増発・時間短縮へ対応、
既存の施設の余裕を活かして最高速度の向上や複線区間の拡大と、
相次いで設備投資を展開していく。路線の性格上、伊勢線全線を通
しで利用する旅客が大半を占めるため、それらの利用の増加が路線
の収益を着実に増やすことにつながり、次第に沿線人口も増えた。
普通列車の本数も開業当時は少なかった。じわりじわり本数を増や
して現在は平日運転の列車や区間運転を含むと約3倍に増えた。そ
の一方で国鉄時代は無停車だった特急「南紀」や新設の快速列車も
まとめると1時間あたり2、3本が常に行き交う路線に発展し、貨
物列車も短期間ながら設定されて、地域の重要路線へと成長した。
あとはこの路線の特別な日について語る。沿線の鈴鹿サーキットで
はほぼ毎年、F1日本グランプリが開催され、多くの観客らが列車
で足を運ぶ。最寄の鈴鹿サーキット稲生駅を通過する特急や快速も
この日ばかりは停車となり、臨時列車も多数設定される。僅か4両
の自社車両ではとても捌ききれるものではなく、各地のJR東海の
予備車が伊勢鉄道に集結して書き入れ時を乗り切る。鉄道の輸送力
を存分に発揮している姿を見ることができる、最高の舞台なのだ。
ステンレス製のディーゼルカーが高架や築堤に設けられた小駅を繋
ぐ。特急や快速が停車する鈴鹿などのいくつかの駅はホームも長く
しつらえてあるが、日頃の列車は短い編成でフットワークも軽い。
手を付けた時期が遅すぎたようにも見える伊勢線だが、それが逆に
余裕のある近代的な施設を持つ路線として開業し、その余力が現在
と結びついているのだから、何事も活かしどころが肝心だ。利用し
やすい路線というだけでは、この成長劇はなかったかもしれない。
それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。
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