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【百線一抄】066■花見とともに寄り道も楽し延伸線-樽見鉄道

盲腸線といえば進むごとに客が減り、わずかな乗客らが終着駅で降
ろされたあとは折り返し列車の機械音だけが人影のない集落にトト
トトと響く。そしてまた別のわずかな利用者を乗せて静かに列車は
戻っていく印象があろう。そんな情景を味わえる路線が大垣から北
に延びていた。美濃神海まで戦後ほどなく開業した樽見線である。

歩みはお世辞にも堅調とは言えず、大正期の路線計画に基づき建設
は戦前から始まったものの間もなく中断、谷汲口を経て美濃神海に
列車が到達したのは高度経済成長期前夜だった。路線は奥の樽見へ
と延伸するはずだったが、経路途上にある根尾谷断層の介在により
遅れを生じ、国鉄再建の影響をもろとも受けて工事は凍結、樽見線
も廃止対象路線となった。沿線は樽見鉄道を立ち上げ第三セクター
へ移行し、貨物輸送と通学輸送を担う地域路線として再出発した。

やがて凍結されていた神海以北の工事が再開となり、平成に入って
間もなく樽見延伸開業となった。近くに樹齢1500年を誇る淡墨
桜があり、開花時期となる4月上旬には多数の花見客が終点まで全
区間を乗り通す路線となった。開花時期に合わせて列車を増発し、
来訪する多数の観光客に対応できる桜ダイヤを組むようになった。

花見客を取り込むだけではなく、自然環境豊かな根尾谷に四季折々
何度でも足を運ぶようにするべく、温泉の整備や新駅の設置はもと
より、薬草やしし鍋を車内で味わえる企画列車も運行するようにな
り、沿線の工場跡に開業したモレラ岐阜については、最寄駅設置の
ほかに区間列車の増発や商店会の協力による利用促進企画を立てて
買い物客への利用を呼びかけている。1日乗車券に加えて日常使い
に便利な限定の回数券も発売されており、息の長い施策も数多い。

4月の桜シーズンが終われば、1両の気動車にさらっと座席が埋ま
るほどの列車が90分おきに走るという、おなじみのローカル線の
ひとときを味わうことができる。大きな窓から見える風景を眺める
と、随所に桜の木があることに気づき、国道沿いの道の駅織部の里
もとすの賑わいも気にかかる。長い通路がある樽見駅も日常は静か
な終着駅だが、淡墨桜が息づく薄墨公園は多彩なイベントも通年楽
しめる場所だ。沿線ガイドブックを手に、沿線探訪を楽しみたい。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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