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【百線一抄】052■山間に息づく歴史の浪漫―明知鉄道

明智と恵那を結ぶ明知鉄道。駅名と路線名・会社名とで字が異なる
件で有名な路線だ。沿線の地域は東海地方から中山道や内陸各地へ
抜ける経路が交錯するエリアに属しており、古くは平安時代にまで
歴史を遡ることができる。戦国時代には長篠の戦いに関わりのある
場所としても顔を出す。歴史好きにとってとても興味深い地域だ。

国の鉄道としての敷設より早く、明治末には岩村まで私鉄が開業す
る。開業初期こそ経営に苦戦したが、兼業の電力事業が安定してく
ると、周辺開発の物資輸送にも関わるようになった。ただ、路線が
持つ輸送力は大きくなく、大正末期の計画に基づいて着工された国
の路線が延伸されると、地域輸送の任は後進の路線に委ねられるこ
ととなった。この路線が国鉄明知線、のちの明知鉄道となる。線形
は私鉄よりも遠回りながらも、輸送力と時間で優位だったという。

集落を結ぶ線路は峠越えを避けられず、当時の建設技術による道の
りは急勾配と急曲線の連続。戦後には国鉄バスへの転換も検討され
ながらも、その線形ゆえに現状が維持された。気動車に強力タイプ
が導入される一方で、貨物列車では遅くまで蒸気機関車の活躍が見
られた。貨物廃止後まもなく、第1次廃止対象路線に指定された。

名前の謎は第三セクター移行時に生まれる。終着駅の駅名を町名の
方に合わせて明知から明智に変えたが、線名や会社名は旧来のまま
受け継いでいる。これは終着地の集落名が明治時代の町村制施行以
来から明知町であったところ、隣村の静波村との合併時に新たな町
名を明智町としたという背景がある。旧来の明知の名称は、大字や
城跡などに現在も残るが、明知線「明智駅」の所在は図らずも町の
軌跡を浮き彫りにしている。歴史をひも解く糸口としても面白い。

明知鉄道は季節ごとに訪れるのも趣がある。恵那発の急行列車には
様々な趣向を凝らした食事が楽しめる和食堂車が連結され、沿線探
訪と組み合わせて季節の料理が味わえる。寒天懐石や道の駅弁当か
ら秋限定のきのこ料理、冬限定の自然薯料理や枡酒飲み比べなど、
県外からの予約で満席となる列車も多い。名古屋から1時間ほど。
快速電車で都会の喧噪から離れて、小旅行気分で明智や岩村のまち
並みを訪ね歩いてみよう。できれば食堂車の予約も組み合わせて。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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