【百線一抄】056■60年の時流が醸す緩急の妙ー予土線
新しい設備を活かす区間と古い設備を引き継ぐ区間。その両極を見
られる路線が四国西部にある。愛媛県側のそれは随所に急曲線が介
在し、時間をかけてゆっくり走る雰囲気を味わえるが、高知県側か
ら見ると一転して、トンネルや橋梁などで山間部を一気に貫き、直
向きに次駅をめざす表情を見せる。どちらも同じ、予土線の姿だ。
この路線の原点はことのほか古く、計画そのものは明治中期にさか
のぼることができる。軽便鉄道として開業したのは大正初期で、南
予地区の鉄道として最初の路線となった。昭和に入り国有化され、
のちに予讃線となる線路が卯之町側から伸びてくるとともに改軌。
本線が予讃線側となったのは終戦間際のことであった。高知県の江
川崎へと到達したのが昭和28年。以来約20年、宇和島線として
の歴史が積み上げられるが、利用者が少ない路線のまま推移した。
大きな変化があったのは昭和49年。江川崎以南の延伸によって、
もとより西方へ線路を延ばしていた中村線の若井へとつながった。
一筆書きで四国4県を国鉄だけで周回できるルートが完成した瞬間
であった。これによって宇和島線は予土線へと線名が改められた。
日本鉄道建設公団による新線に、地域発展への期待が寄せられた。
一時期は土讃線経由の直通列車が運行されていたこともあったが、
まもなく線内列車のみの運行となる。四万十川が日本最後の清流と
人々に知られるようになった頃から、予土線に国鉄として初となる
トロッコ列車を走らせるようになった。各地で同種の列車が登場し
たが、30年を超える運行実績を誇るものは数少ない。JR後に配
備されたトロッコ車両は気動車だが、予土線では開始時と同じ2軸
の貨車に乗ることができる。現在は「しまんトロッコ」と名乗る。
朝の列車で宇和島駅を出発すると、多様な車両の往来を四万十川の
風景とともに楽しむことができる。ホビートレインと呼ばれている
これらの列車は、予土線沿線に訪れる観光客がより楽しめるように
と外装のみならず内装もかなり凝った内容になっている。新幹線を
モチーフにした車両も走っており、四国の新幹線ここにあり!と声
が上がるかの如く、新線区間を快調に飛ばす走りも楽しめる。川の
流れを眺めつつ、西四国縦断旅を満喫できる予土線。乗り得です。
それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。
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