見出し画像

第1章 28年前の事件

「警部、愛知県警からこのようなファックスが届いています」
「ありがとう」
 大阪府警新なにわ警察署捜査課所属の警部、成瀬川靖彦は3枚のファックスを部下の玉城碧から受け取った。
 そのファックスの内訳はこう。
・「28年前の恨みを晴らすときが来ました。エルム」と印刷された手紙
・28年前に変死した老人、唐真剛の変死事件をまとめた調書
・唐真剛が変死したときに関わっていた人物のリスト
 ファックスに目を通し終えたとほぼ同時に愛知県警から電話があり、状況をひとわたり聞いた成瀬川は、デスク前に課員を呼び寄せた。
「愛知県警からの協力要請だ。説明するからみんな聞いてくれ。」
 愛知県警からの要請内容は次の通りだ。
――エルムと名乗る者からファックスのような手紙が署に送られてきた。署に送られてきたことから、28年前に管轄地域で起きた事件について調査し た結果、唐真剛という地元の老人が変死した事件が浮上した。当時は事故死ということで処理されたが、当時の関係者がほとんど離ればなれになってしまい、管轄地域に居住している者は養女の霜降琴乃のみになっているので、大阪に移住している人物に対して、エルムという人物に心当たりはないか、また、新たな事件に巻き込まれる可能性があるかどうかを捜査してほしい。
「28年前というと、仮に殺しだったとしても時効ですよね」
若手の松田翔が口を挟む。
「うむ、だからこそ気味が悪いということだろう。他に該当する事件が思いつかないが、あちらの地元では関係者がほとんどいないということだからね」
「では、私たちはどのように動けばいいのでしょうか」
中堅組の高橋と鈴木が手帳を取り出しはじめる。
「まあ、その前にファックスに目を通してもらおう」

ここから先は

12,309字

¥ 100

期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

サポートをお願いいたします。いただいたサポートはたまなび倶楽部の運営費として活用いたします。