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第一章 早春北帰行と帯広弾丸&四国フリー獲得旅(その3)

10 新函館北斗→本八戸

 夜が明けて間もなく、チェックアウトを済ませて新幹線ホームに降り立つ。あとは帰路とはなるものの旅程には相応の余裕があることから、早春の弘前城と八戸の町の散策を想定していたところ、天候と列車の組み合わせから後者を選択することにした。
 まずのお楽しみは新幹線。何度も乗っている東北・北海道新幹線だが、今回乗車する「はやぶさ10号」は1日数往復だけ運用に入るH5系新幹線電車が担当する列車なのである。H5系はJR北海道の車両で、現在は4編成がデビューしている。外観こそ多数派のE5系(JR東日本の車両)とほぼ同じなのだが、E5系が東北新幹線用E2系の帯色を引き継ぐ桃色の帯であるのに対して、H5系は紫色の帯を纏う。側面のマークも北海道をイメージさせるものであることがその個性をアピールしているのだが、いざ車内に入ると、内装はE5系のそれとは異なる雰囲気を醸し出す。床面には雪の結晶があしらわれており、窓のブラインドも独自のものが採用されている。デッキに立つと違いはより顕著で、H5系の普通車の場合、客用扉が特急「ライラック」に使われている789系の先頭部分と同じような緑色(萌黄色)になっている。さらに普通車にも全席にコンセントがついていることも話題となったが、この点についてはこの後に製造されたE5系も同様となった。
 本日は北海道新幹線と青い森鉄道がメインとなる行程となることから、北海道フリーパスは一休み。北海道&東日本パスと特定特急券の出番となる。新青森―新函館北斗間の特急券は特定特急券(立席)利用で3,930円の投資となるが、1時間ほどで青函間を結べると考えるとコスパは決して悪くはないと考えている。実際、1駅間の利用もそれなりの利用があるようで、奥津軽いまべつから乗車する用務客や高校生と思われる顔ぶれが手慣れた感じで座席に着く様子からもそれが窺える。北海道新幹線でも新幹線定期券「FREX(通勤定期―フレックス)」・「FREXパル(通学定期)」の設定があり、指定席の利用はできないが、全列車が全席指定となる盛岡以北の各駅間や仙台―盛岡間の一部駅に停車する「はやぶさ」については空席の利用が認められている。
 新青森からは八戸まで青い森鉄道を利用し、八戸からは本八戸まで八戸線に乗り換える。八戸線には先ごろ新型車両が投入され、水戸と郡山を結ぶ水郡線や房総半島の久留里線で活躍しているキハE130系が戦列に加わった。それまでは非冷房のキハ40系列ばかりだった路線の近代化が一気に進んだことになる。両開き3扉となったもののボックス席もドア間に設けられており、中長距離の利用客にとっても好ましい設備と言える。東北では3扉ロングシートの車両も相当数増えたが、青い森鉄道の車両をはじめとしてこのようにセミクロスシートの車両が運用に入る路線もある。地元の日常使いにも旅人にも使い勝手のよい設備というのはなかなか難しいと思うが、各社の取り組みに期待したい。

11 本八戸→三沢→伊丹空港

 本八戸駅からは路線バスを使って八戸駅へ戻る。北海道や東北に限らず、初めて足跡を記す土地でちょっとした冒険感を味わえてしまうのが、見知らぬ土地での目的地調べ。正確に言えば「そこまでどうやって行くか」を自分本位で完結できるかどうかが焦点となる。八戸のように、主要幹線の拠点駅と地域そのものの中心駅、もしくは官公庁街やランドマークが主要幹線から離れていると、どの交通手段を用いるのが有効か思案に暮れることがある。駅員や案内所で尋ねればよいと言われそうなものだが、曜日や時間帯によっては係員不在であったり、肝心の係員氏が地元の方ではないばかりに不案内であったりすることも数度ではない。唯一頼りになりそうなのが交番かタクシーの運転手となるのだが、これも相当困っている状況でない限り、声をかけるのは勇気が要る部分もあるだろう。都市部は特にそうなのだが、タクシーの運転手だからといって地元の地理に通じているとは限らないのが現代なのである。
 その意味では八戸市街地のバス路線はわかりやすい方で、周辺各地域のバスの大半が本八戸駅と八戸駅を経由するようになっていることがわかる。こちらの目的はまさにその両地点間の移動なのだから、大きく迂回する系統でない限り懸念は少ない。
 八戸から三沢へは快速「しもきた」に乗る。交流電化の青い森鉄道において数本設定されているディーゼルカーの快速列車で、野辺地から分岐する大湊線へ直通する列車なのであった。東北の非電化区間ではおなじみとなったキハ100形の2両編成で、この車両はJRの車両としては車長が少し短いのが特徴である。標準サイズのものはキハ110系として別に形式がある。窓が大きく車内中央部はボックスシートになっているのが好みである。北海道のキハ150形はこのシリーズを北海道形にカスタマイズしたものと考えることもできるだろう。
 三沢駅からは空港へ向かうリムジンバスに乗るのだが、30分ほど時間もある上にちょうど昼メシ時。というわけで路線廃止後もそのまま残る十和田観光鉄道(十鉄)旧三沢駅舎で営業を続けるそば屋に入り、ミニカレーときつねそばをいただく。実は朝食として青森駅の駅そば店で同じメニューを食べているのだが、どうしてそば屋のカレーはこうも馴染んでくる旨さなのだろう。三沢駅周辺はこの時点でも再開発が進んでいて、この十鉄旧駅舎も去就の道をたどる。店舗の移転などで引き続きこの味が楽しめるとよいのだが。
 三沢空港は自衛隊と米軍の基地も近接しており、独特の轟音を発する飛行機の往来を間近に感じることができる。搭乗しているJL2164便は離陸に少し時間を要したが、その後は順調に飛行を続け、ほぼ定刻で伊丹空港に到着した。これで全行程が終わった……わけではなく、もう少しこの章は続くのである。

12 大阪→東京→帯広

 さきの渡道から中3日、今度は土曜日に羽田空港から再び飛び立つ。夜行バスで早朝に東京駅前に到着、品川経由で京急にて羽田空港国内線ターミナル駅からエアドゥADO61便に乗るべく第2ターミナルへ向かう。今回は一連の渡道旅の中ではおそらく最もシンプルな構成で、羽田→帯広→東室蘭→新千歳→神戸空港という、とんぼ返りというにしてもあまりにもあっけない旅程である。実際のところ、道内の上陸時間は時刻表通りと仮定して6時間半。状況をうかがい知らぬものからすれば、まさに「何しに行っとんねん(何をしに行っているのか)」というところだろう。
 そんな状況の旅程の中で、こなすべき課題はことのほか多く、北海道フリーパスの特典である限定カードのコンプリート、四国フリーきっぷの購入、東室蘭駅のキハ183系入場券の入手と、滞在時間をフル活用して臨む内容となっている。なお、道内でこの時かかっている交通費に関しては帯広空港のリムジンバスのみであり、JRは指定席も含めて北海道フリーパスを活用している。というか、活用しなければならないのであった。
 その理由は現時点でのメインテーマとなっている限定カードにすべて集約されていく。今回の限定カードの入手条件はなかなかハードルが高く、次の条件が求められている。
 ・JR北海道の限定カードは「JR四国で購入した」北海道フリーパスの所持者に渡す。
 ・配布場所は函館、新函館北斗、札幌、旭川と帯広か釧路のいずれか。
 ・新函館北斗駅はみどりの窓口、他の4箇所はツインクルプラザで配布。
 ・先着100名の配布で、北海道フリーパスの有効期限内に限る。
 北海道フリーパスの有効期間は7日間で、この間に5箇所を回ることができれば一気に獲得できるのだが、配布地点のちらばり以上に課題が大きいのがツインクルプラザの営業時間であり、これが壁となって1日で回すのは至難に近いのである。また、配布箇所ではフリーパスの有効期限はもとより、発行場所(この乗車券はJR四国以外でも購入できる)や券番も記録しているようで、その「敷居の高さ」ゆえの限定数なのだろうと心得た次第である。つまるところ、限定カードのコンプリートを軸に旅程を組みつつ、他の目的を絡めるとこうなったといったところである。当人はそれはそれで楽しんでいるのだから、好ましい行動なのだろうとくみ取っていただければ幸いである。
 道東の気温はこの時期になってもなかなか上がらないというが、この日は帯広空港で6℃、帯広駅前で9℃と地域のことを考えると暖かめだったと言えよう。リムジンバスで近くを通る旧幸福駅のあたりも露地の部分は根雪が残っているものの、ところどころとなっていた。帯広駅に到着したのが9時15分。さあ、一気に課題の片付けに取りかかるとするか。

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