【百線一抄】006■両端とその間で表情が変わる―筑豊本線
かつて石炭輸送に総力を注いでいた路線は数多くある。例示すれば
様々な経緯を経てその役割を終え廃線となる路線や、僅かな乗客を
さらりと乗せた気動車が、線路の剥がされた構内の隅っこを通り過
ぎていく路線もあるなかで、眺める区間によって様相は異なるもの
の、当時とは違う意味で活気がある路線もある。筑豊本線である。
若松の港と折尾・直方を経由、飯塚・桂川・原田を結ぶ路線となっ
た筑豊本線は、表情によって3つの区間に分けることができる。複
線非電化の若松ー折尾間、大半が複線電化となる折尾ー桂川間、残
るは単線で非電化の桂川-原田間だ。順に若松線、福北ゆたか線、
原田線と現在は呼ばれている。石炭輸送が盛んだった頃は全線を通
しで走り抜ける列車も存在したが、現在はこれら3つの区間の実態
に沿う設定となり、あたかも別の路線であるかのように変化した。
折尾ー桂川間の部分は桂川から分岐する篠栗線と一体化して、数多
くの利用者を博多と繋ぐ通勤通学路線となっている。先に挙げた愛
称である「福北ゆたか線」はこの一体化した区間を指す路線名だと
も言える。終日運行される快速列車に加えて、朝と夜には特急列車
の設定もある。折尾・北九州への動きも含め、列車の本数も多い。
白い車体の新型車両が行き交う若松ー折尾間は、ここ数年前までは
ローカル線そのものの国鉄形気動車がのんびりと走る区間だった。
気動車とある通りこの区間には架線がないのだが、駅や沿線で列車
を見ると間違いなく電車が走っている。他線の電車と違うところを
見てみると、屋根の上にはパンタグラフがあるにはあるが、下げら
れたままなのである。では電気をどこで確保しているのか。答えは
バッテリー、つまり蓄電池に充電した電力で走っているのである。
弱い立場に追いやられた状況となっている桂川ー原田間は、今は想
像しにくいかもしれないが、本州と長崎や熊本を結ぶ夜行や特急が
複数走っていた時代もあった。途中駅の長いホームや広い駅構内に
気配を感じることはできるだろうが、常に移りゆく人やモノの動き
に取り残されたような感覚も伝わってくる。流れゆく車窓に目を向
ければ、むしろ石炭輸送たけなわだった頃の情景や空気感が味わえ
るという、ある意味で奥ゆかしい区間だといえるのかもしれない。
それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。