【百線一抄】033■あかがねの里に差す光ーわたらせ渓谷鐵道
一つの市町や県ですべての区間が収まる第三セクター路線が多いと
されるなかで、40キロほどという距離の間に県境を越えるという
数少ない路線に今回は触れてみたい。群馬県と栃木県との2県にま
たがるわたらせ渓谷鐵道がそれである。国鉄やJRでは足尾線と名
乗っており、現在は社名と同じく「わたらせ渓谷線」と呼ばれる。
左へ右へと急カーブが続く路線は、ほぼ全区間でひたすらに高度を
稼いでいく。両毛線の接続駅である桐生、東武桐生線や上毛線の乗
り換え駅である相老、大間々辺りまでは比較的緩やかな印象もある
のだが、ほとんどが曲線ばかりの線形のため、現代の気動車でも速
度はなかなか上がらない。その分だけ、四季折々の山野の雰囲気や
渓谷ののどかな風景をじっくり楽しめるともいえる。ダム建設でで
きた草木トンネルを抜けて沢入を過ぎると、さらに坂は急になる。
はるか昔、江戸時代初期に幕府直轄地として足尾銅山の採掘が始ま
ると、採掘は一気に活性化し、国内最大級の産出量を誇った。明治
のはじめに民間の手が入るとともに採掘が再び盛んとなるが、鉱毒
被害を周辺の山村にもたらすという問題も引き起こした。この地域
に線路が引き込まれたのは大正初期、ほどなく国の路線となった。
私鉄であった時期はかなり短く、鉱山の路線としての歴史が長くつ
づられることからも、重要な役割を担っていたようすが窺える。戦
後も貨物輸送中心の路線として推移してきたが、鉱脈の枯渇による
鉱山の閉山後は輸送量も減少した。他地域と同様、第三セクターの
路線転換が決まると、旅客輸送のみに特化して貨物列車は消えた。
名残を感じさせる施設跡の一部は公開されており、坑道跡の見学や
国の当時の取り組みなどを知ることができる歴史館も通洞にある。
腹を空かせてわたらせ渓谷線に乗るならば、途中で駅弁を購入する
流れを組み込んでおきたい。レストラン清流に電話で何時の列車に
乗るかを前日までに伝え、どの弁当を買うのかを注文するのだ。現
地では大部分の列車が数分停車するので、すぐ受け取ることができ
る。トロッコ列車に乗る場合は車内で買うこともできる。間藤駅か
らは市営バスで日光へ抜けることもできるので、首都圏からならば
無理なく日帰り旅行も楽しめる。渡良瀬の風景を味わいに、ぜひ。
それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。