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【百線一抄】011■漁火灯る夜の海原をなぞるー道南いさりび鉄道

和人とアイヌの接点であった松前や江差。それらと函館を結んでい
た2つのローカル線があった。松前線と江差線がそれである。途中
の木古内から分岐して両町を結んでいた路線は、トンネルの開通で
発展的解消を果たすかたちで半島の奥から次々と姿を消した。だか
らといって線路が完全になくなってしまったというわけではない。

夜間昼間を問わず、北海道と本州を結ぶ物流の道は太い。新幹線こ
そ開業して都市間輸送はそちらにシフトしたとはいえども、貨物列
車や地域輸送は在来線が引き続き担う。それらのうちの地域輸送を
まかなうために設立されたのが道南いさりび鉄道で、江差線の五稜
郭駅から木古内駅との旅客輸送を担うことになった。1時間ほどか
けて両駅を結ぶ列車は、基本的に1駅先となる函館駅まで乗り入れ
ており、これはJRから分離移管される前と比べて変わりはない。

個性を主張するかのように塗り替えが進められた国鉄形の気動車が
銀色の新型快速電車や特急形気動車とともに函館駅で乗客を待つ。
一番改札口に近いホームが主な乗り場だ。所要20分ほどの上磯ま
では本数もそれなりに多いが、終点の木古内まで行ける列車は通り
抜ける利用客が少ないせいか、大きく本数を減らす。実際は半数が
到達しているものの時間帯に偏りがあり、より少ない印象を抱く。

ひっきりなしに往来がある長い貨物列車の間を縫うように、列車は
トコトコと函館港を取り囲むような感じで松前半島をめざす。夕方
に時々車窓から見える港湾の風景は独特の味わいを醸し出す。夜間
は時期によって、会社名にもある漁火(いさりび)を想起させる魚
釣り漁船の灯火が対岸の街灯りとともに情緒ある風景を演出する。
現在は普通列車でのみ味わえるものとなったが、新幹線開業前は、
夜中に本州へ抜ける夜行列車からも満喫できる光景なのであった。

青森から北海道へ向かう場合、在来線メインならば津軽線の津軽二
股へ向かい、隣接する奥津軽いまべつから木古内へと北海道新幹線
の旅を少しだけ楽しむ。そして木古内から道南いさりび鉄道に乗り
継げば、函館や、さらに北へと足を延ばすことができる。途中で寄
り道せず青春18きっぷで通り抜ける場合は、別売のオプション券が
分割で乗車券や特急券を買うより安くつく。少し工夫することで、
値打ちをもっと高められる旅のネタが、ここにあるかもしれない。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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