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【百線一抄】002■奈良盆地をめぐる万葉まほろば線(桜井線)

8世紀の間に都として栄えた平城京と7世紀の後半に朝廷が置かれ
る藤原京のエリアを結ぶように、奈良盆地の南東側を走る桜井線は
スタイリッシュな電車が最近導入されたローカル線だ。過去は酷す
ぎると言ってもいいほど年季が入った旧型の電車が走っていたが、
テコ入れが進み、ここ数年で最新型の電車へ一気に入れ替わった。

奈良の地名には特別な読み方をするところが多く、桜井線の駅にも
次々と見なれない地名の駅が現れてくる。奈良から桜井線に乗ると
京終(きょうばて)、帯解(おびとけ)、櫟本(いちのもと)と単
に見たらわかるとは言えない駅が続き、天理から2駅ほど進んでい
けば、巻向(まきむく)が出てくる。この先は読みやすい駅がしば
らく続き大和三山も眺められるかと思っていると、漢字も読みも難
しい畝傍(うねび)に遭遇し、ほどなく終点の高田にたどり着く。

知る人ぞ知るレベルの難読地名が多く出てくるだけで終わるような
路線であるわけでは当然なく、沿線には安産祈願で有名な帯解寺や
たくさんの信者が訪れる宗教都市である天理、纏向遺跡には卑弥呼
への繋がりも話題の箸墓古墳があり、大和国の一宮である大神神社
のご神体が三輪山と、大和三山とともに文字通り枚挙に暇がない。

このように寺院・遺跡・神社などとパワースポットが多くの見どこ
ろとなる桜井線だが、この国の歴史の由緒を誇る場所としては畝傍
も取り上げておかなければならない。大和八木駅や八木西口駅が徒
歩圏内にあるため目立たない印象があるが、畝傍駅には全国でも数
少ない施設である貴賓室が駅舎にある。駅員無配置駅である現在も
丁重に管理されている。橿原神宮や神武天皇陵などがあり、皇室の
節目における巡幸の重要な経由地となっていることが垣間見える。

「青丹よし」を枕詞とする奈良大和の風景をなぞる桜井線は、愛称
「万葉まほろば線」として駅や乗り換え放送で案内されている。緑
のアクセントを纏ったステンレスの電車は、近隣を走る通勤電車と
格好はほぼ同様なれど、高田で接続・直通する和歌山線とともに待
遇が一気に上がったように見受けられる。日中は本数が少なく、た
やすく気軽に乗れる路線とは言いにくいものの、朝夕は本数も増え
街の通勤通学路線としての表情も見せる、奥ゆかしい路線なのだ。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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