冬のある日のこと
冬の風は、太平洋から押し寄せて、川岸の葦の群れを大きく揺らしている。
玉虫が執政官として大きな権勢を持つようになって、数日が経った頃のことだった。玉虫は部族の政治を取り仕切るようになり、世話しなく宮殿を右往左往しては、あれこれと指示を飛ばしていた。一世一代の出世とあっては張り切るしかない。
そんな冬であった。
珍事が起こったのである。
族長は趣味として、よく出かける。様々な場所で野営をしては、狩りをして肉を食らう。大抵、侍従長のおうか将軍を伴うので、安全には配慮されていた。
1月のある日、族長はいつも通りおうか将軍と数十名の近習を連れて、野営に行った。冬の山を十分に楽しみ、宮殿に帰る途中で事件は起こった。
道の真ん中に、浮浪者と思わしき怪しい者が、伏せて待っている。族長の行列は止まらざるを得ない。おうか将軍が進み出て、「何者ぞ」と声をかけると、
「某は陸前の地侍、渋蔵と申します。族長にお伝えしたいことがあり、こうして待っていた仕儀」
その地侍の手には文が握られている。
おうか将軍は「ならぬ、族長はお休み中である」と言ったが、族長は牛車から顔を出して「オイ、時間がかかるから、手紙だけでも受け取れ」と面倒くさそうに言った。
その場は、それで済んだ。
しかし、族長が宮殿に帰り、その事が宮廷で噂になると、玉虫執政官が激怒したのである。
すぐさま検非違使別当が呼び出された。
「その無礼者を捕らえ、私の前に引き出せ」
玉虫の命令の元、警察部隊が動かされ、直ちに先ほどの地侍が捕らえられた。
玉虫は縛られた地侍に告げた。
「火急の用であろうがなかろうが、族長の縦隊を止めたこと、さらに私の目を通さずに手紙を手渡すなどは先日出された執政官令に背いておる。相違あるまい。」
「そのような令は存じ上げませぬ。どうかお助けを!」
「このような事が二度三度と起こっては、私の沽券にかかわる。頭と胴体が分かれても同じ事が言えれば許してやろう。執行官、やれ」
「あああお助けください!お助け
夜になると、族長は玉虫を呼び出した。
「かの者は?」
「処刑致しました」
族長は頷き、続けて言った。
「その者の首をここに持ってまいれ」
玉虫が首級を見せると、族長はそれを見ながら夕食を摂り、酒を飲んだ。
「もう満足した。下がってよいぞ」
玉虫が下がると、族長は手紙を読んでいる。
「陸前の・・・」
風が吹き、宮殿の扉がゴトゴト揺れた。
春は、まだ遠い。
インターネットを渡り歩いてまだ6年、色々なカテゴリを楽しみ、「消費者」として生きています。 そんな文化の消費者の毎日思ったことアレコレを書いていきます。雑記。