春季大祭に向けて
水仙の群れが咲いたと思ったら萎れて、今度は梅の花が小さく咲いた。
「春が来るんだねぇ」
ウンバボの面々は、春に植えるタロイモなどの野菜の準備に追われている。
部族の春の祭りは、こうした農作物が沢山実るようにと、創世神に血を捧げて祈るのである。
血を捧げる、とは文字通り生贄のことであり、昔は処女の血が~とか言われていたが、余りにも残酷なので、最近は罪人の血を使っている。
玉虫は忙しかった。大祭に向けて準備をしなければならないからだ。
「酒と、肉と、あと血」
大祭の後の直会では、多くの部族が酒を呑み、肉を食う。
人が集まるので、今年は感染症対策も重点的に気を配らなければならない。
肉を手配し、あとは罪人の血だけとなった。
「生贄になってくれそうな罪人がいない」
これは大問題であった。玉虫が警察組織を強化してからというもの、大きな犯罪は起こらなくなり、首府は平和であった。少なくともここ一か月はそうだった。
宮殿の南側に、臨時の執政府が設けられている。
春から宮殿の耐震補強工事を着工し、新たに政所を築く予定であったが、それまでの仮の建物として、貴族の屋敷を借りて政務を行っているのだ。
この執政府には様々な役人が出入りするほか、最近は他国の使者なども来訪して、多くの人がいる。
玉虫が罪人不足に悩んでいたこの日も、執政府は来訪者で溢れていた。
昼過ぎころ、次官室に居た玉虫が、「おーい」と大声を出すのを、誰もが聞いた。
近習が駆けつけてくると、玉虫は目の前にいた見知らぬ男を指差して「こいつを捕らえろ」と言った。
当日の皇宮守備当番であった、はっちーびーが衛兵を30人ほど連れてきて、その男を捕まえた。
他の国籍の男であった。
はっちーが「罪状は?」と聞くと、玉虫は「収賄である」という。
その男が言うには「部族と戦闘で出くわしたが、自分は自走砲に乗っていたので、いたたまれない気持ちになり、お詫びの品を献上したい」と申し出たのだという。
はっちーが「収賄には当たらないのではないか」と問うと、玉虫は「そうかもしれない」と言った。
そして玉虫は「わかった、お詫びの品であれば受け取る」と男に向けて言った。
次に玉虫は衛兵に向かって「これから春季大祭に向けて、その男の指を毎日一本ずつ切り取れ。その指を生贄として捧げる。」と告げた。
男は「お助けください」と嘆いたが、玉虫は「指がなくてもWoTはできるぞ」と言って取り合わなかった。
以後、執政府の気分は更に引き締まり、罪を犯す者も、玉虫に私事で話しかける者も出なかったという。
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