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連載小説:How to 正しいsex.(重複生活)10

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お互いがお互いに、まっすぐに顔さえ見れないくせに、慣れていくとしか表現できない距離感。近づいている、それとも近づいた?そう呼べるのかよく分からない。

Uとこのアパートを借りるようになって、2年目になる。その間に知り合った男性と私は次々と関係を持った。今も付き合いが続いているのは、このあきらさんと、しーちゃんと、たっちゃん、この3人だ。3人とも条件をあらかじめつけたかのように既婚者だった。
しーちゃんは、成田の管制塔で働いていて52歳、たっちゃんは大手の食品会社の総務で41歳だった。しーちゃんとたっちゃんにはお子さんもいる。
あきらさんは、奥さんと良好な関係を保っていると自ら言う。ジムにも一緒に行くのだそうだ。対照的に、しーちゃんとたっちゃんは、奥さんとは男女の関係が終わったどころではなく、子供のためのみに夫婦を演じているにすぎないと言い切っている。

しーちゃんは、バイクの趣味を持っていて、すべての責任から自由になりたいという願望を満タンのビー玉の中の一粒二粒のパチンコ玉のように持っていて、いつもそれが音を立てているっていう風だ。
たっちゃんは人と暮らすことへの絶望を感じつつパンドラの箱には、一回の終わりを迎え、更にそこを超えるっていう希望「それでも人と暮らして終わるということへのすばらしさ」みたいなダイヤモンドがあるのだと信じていっていう風。
二人と話しているとそんな印象が伝わってくる。

お互いにお互いが何を考えているのか、窺う目つき。それらももう薄れた。3人とも付き合いは1年近くに及んでいる。けれど、どこか核心みたいなところには踏み込めないし、踏み込むべきではないっていう自覚が各々にあった。

3人に共通するところは、Uを悪く言いながらも…、私に「Uとうまくやりなよ」と言うところだ。

言い方はそれぞれ違う。
あきらさんは、「なんだかんだ言って長く続いてるんだから、合ってるんだよ、そのままがいいよ」と言う。
しーちゃんは「Uって人、子供っぽいよなあ、けど、ユミちゃんのことなんだかんだで好きなんだよ、面倒見てもらいな」と言う。
たっちゃんは「俺にはUさんって人、よく理解できないけど、ユミちゃんが好きならそれでいい。Uさんにとって、ユミちゃんがどういう存在かって、自分自身で意識していなくても、大切だって思っていると思うんだよね…」と言うのだ。

つまり、私たちは了解していたのだ。彼ら3人、特にあきらさん以外の、しーちゃんとたっちゃんがいかに奥さんの悪口を言おうと、なんだかんだと不満があろうと、別れたいという願望がたっぷりあったって、それは非常に困難な、とても別れがたい関係で、恋愛感情がなくとも必要な存在であること。つまりは別れないのだ。

そして私たちは、私があきらさん、しーちゃん、たっちゃんに対して、一歩、本当に小さな一歩を躊躇うあの感じがあり、それらは各々「お互い様」だっていうこと。言葉にはしないが、お互いに抱く、乾いているような妄想のようなイメージの中に内包している。 

例えば私はUに対して冗談めかしつつも本当の意味で、愛情を吐露し、表現する。
彼らには「ダイスキ!」と私はキスをせがんだり、腕を絡みつけたりするけれど、その「ダイスキ!」は私が照れながら、Uに言う「好き」と言う「好き」の意味とは違うのだ。
歴史が回って軍靴がおしゃれなショートブーツになることに似ている。
「ダイスキ!」という言葉は「好き」という言葉の内包する意味をわざと一回転させていることをお互いに了解している。それが私たちの間にある「躊躇い」なのだ。

そうとは言っても私たちは「正しいsex」をしているという自信がある。お互いに抱いてる愛情に近似値であるっていう感情。私は言った彼らを「可愛い」と思う。彼らは各々私に対して何かの感情を持っている。その「感情」と「性欲」はリンクしているんじゃない。一致しているのだ。

ただ、その中でもたっちゃんの「感情」は少しわからないときがあった。たっちゃんは、離婚予定年齢を下のお子さんが成人する53と言っていた。けれどもパンドラの箱、ダイヤモンドは大切に懐中にあるっていう風だった。それは明らかに矛盾だ。
奥さんと別れてしまうというのに、なぜパンドラの箱に絶望しないのだろう。あの中はきっと空っぽだぜ、何もありゃしない。あったとしても、それはとてもとてもありきたりな、道路によくある、アスファルトの欠片に過ぎないんだ。少し太陽の熱を吸い、熱くなったね。

たっちゃんは、そんな風に懐中に矛盾した「パンドラの箱」を抱きつつ、Uが間違いなくこのアパートに寄り付かないと決まっているそんな日、泊っていくこともよくあった。私の手料理を食べたがる。好き嫌いは多い方だ。私はだいたいそれらを把握している。奥さんには出張と根回ししてやってくる。

たっちゃんの匂いが、今日隣から香る。柔軟剤とか洗剤とか、シャンプーとかの匂いじゃない。たっちゃんの体臭だ。その匂いが心地よいと感じる。
人とコミュニケートする。それによって、様々な事々を感じ、優しさを傾け合う。音楽や小説を楽しむ。そんなことを脈絡なく、突然湧いてきたエンドルフィンなのか、幸福に感じてしまって仕方ない。

3人ともそういえば…、私の上で射精すると、「いっちゃった!」と言って笑顔を見せて、私の上で少し荒い呼吸をしてしばし、幼児期の無条件だった幸福の余韻ととてもよく似たものを味わっているかのような雰囲気を漂わせる。私は思わず、彼らの首や髪の毛を触ってしまう。汗ばんだ体。汗ばんだ首。髪の毛独特の感触、それを手の平に感じる。

たっちゃんは私の上で笑ってうめき声をあげる「あー、ユミちゃんって気持ちいいんだもんwww」

たっちゃんが寝返りを打った。さっきまで横顔を見せて、天井を向いて寝ていたが、今は私の方を向いて片腕を私の身体に投げ出して眠っている。

私は「いったいなんなんだ」と思う。この感情は、「いったいなんなんだ」。私は意識的に寝返りを打った。たっちゃんに背を向けたのだ。どうやらすぐに眠ったらしい。それ以降のことは覚えていない、そこからの帰結だ。

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ラヴィル
小説を書きながら一人暮らしをしています。お金を嫌えばお金に嫌われる。貯金額という相対的幸福には興味はありませんが、不便は大変困るのです。 ぜひ応援よろしくお願いします!