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連載小説:How to 正しいsex.(重複生活)14

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Uは前々から、早めにリタイアしたいと口にしていたけれど、リタイアっていうのは、私は定年みたいなものを想像していたし、私の乏しい社会的な知識であっても、現在の定年の年齢っていうのは、65歳だったから、早くて55歳、遅くて60歳ごろなのだろうと思っていた。また、それに対して、あまり深く考えることもなかった。だってそんなものだろう。

そんな、「重複生活」とでもいうのか、Uとはもちろんだけれど、
「あきらさんとも、しーちゃんとも、たっちゃんとも生活をする」
もしくはこういえばいいのだろうか?
「Uと生活する場の裏でほかの男たちと生活をする」
そのほうが的確なのか、それであっても、重複生活とは言いえるわけで、そんな生活ももう4年目に入っていた。
重複。幾重にも重なる。愛情と愛情の近似値。いいえ?それだってもしかしたら絶えず交換や移ろいを繰り返しているのかもしれないけれど。

Uと私は、ある意味とても近い距離にいて、もちろん一緒に暮らしているわけでもないのだが、とても安定した…そうとしか表現できない、信用できる関係となっていた。

半そでも着た長袖も着たネイビーのセーターも着たナイロンのダウンも着た。丁寧だったり怠ったりした。

突然なのだが、私は、Uにふっと聞いたのだ。私はベッドでイヤフォンを耳に、ローリングストーンズのファクトリーガールを聴いていた。Uは稲中卓球部をまとめ買いしてきたようで、読みながら、ステレオで何かを流し、聴いているようだ。

私はブルートゥースのイヤフォンをオフにし、
「ねえ、いつさあ、リタイアすんの?」
と聞いてみた。なんの意味もない問いに近いやつだ。今日って少し暑いよね?に似ている。

「再来月や」

「え?」

「2人、いい人材を見つけたしな。本業のほうはそいつと、あとまあ、周りの人間で回せるようにしてあるし、副業の方も、まあ、俺がいなくても大丈夫な人間に任すことにしたわ」

「へえー、で、サーフィンの旅っていうやつ?サーフトリップ」

「まあ、そうやな。それもそうだし、海の家の近くに引っ越すつもりや。家もだいたい決めてきた」

「一軒家?」

「そうやで。俺な、パッションフルーツ好きやろ。それを育てようと思って、土地も広い所を買ったわ」

ウソになる。
期待しなかった?それはウソだ。一瞬夜見る夢を見た。そう、それは夜見る夢だ。私にそんなことって起きるはずがないからだ。その夢の内容は、千葉の海の近く、小さな一軒家、広い庭。木になるパッションフルーツ。そこに…、死ぬまでUと暮らし、ご飯を食べたり、眠ったり、歯を磨いたりする。

「このアパートどうするの?」

「それだけど、ゆみこ、意味ないと思わん?ここ。俺が海に引っ越した場合。ゆみこは家にいてや。草加の。それで、俺は都内に週に一度は海から通うことになるから、草加のアパートにたまには寄ってもええか?」

「いいわよ」

「じゃあ、まあ来月のあまたにはここを引き払うで。準備しような」

「はーい」

えーと。私は再度ブルートゥースのイヤフォンをオンにし、ファクトリガールの続きを聴きながら…

えーと。えーと。えーと。えーと。えーと。えーと。えーと。

と脳内でリフレインを繰り返した。ファクトリーガールは流れ続ける。むかしふぁくとりーがーるのしをよんだおれはかみにかーらーをまいたじょこうをまっている

それ以外に、つまり、えーと。のリフ以外に何も考えられない。えーと。さっき、Uがステレオで流してた音楽ってなんだっけ~?

私は目をつむった。とても眠たかった。暑い所にずっと立っていて、とても疲労したっていうふうだった。もしくは熱中症になったっていふう。

あまりの眠気にそのまま眠ってしまったらしい。そしてその眠り方っていうのは少し常軌を逸していた。私は2日間半寝続けけていたらしい。Uは私が薬を飲んでいないことを知っていたし、いたずらに眠剤を大量に飲むとか、そういった行為から寝ているわけではないという理由から、波があるからな、という想像をし、たまに「おい、ゆみこ?」と声はかけたらしいが、それ以上執拗に起こそうということもせず、私を寝かせていたらしい。

起きるとUがすぐに気が付き、「ゆみこ、トイレ行ってこい。おしっこしてこい」というので、それに従った。

「なんか、寝てた?」

「そやで。2日間半」

「そっかあ」

私は起き上がると異常な肩の痛みに気が付いた。この方の痛みは、あの時の…、主人と別れてバスに乗り、終点まで行った時の肩の痛みにそっくりだ。

水をごくごく飲みながら、私はなぜか饒舌だった。口の端から水滴が筋となってこぼれていき、首筋を濡らす感触を感じながら。

「ねえ、なんかさあ、こういうことって恥ずかしいじゃない?お手紙 w、仮の住まいっていうものだから、そこまでのさみしさはないけれど。まあ、今までと大きく変わる点もないもんね。たまに会う。一緒にしばしの時間過ごす。セックスをする。www。これからは減るかもよ?だんだん私たちも歳を取る」

「なに、お前、紙に俺へのお手紙を書くん?www」

「やってみせるわよw。私文才溢れるからさ。縷々と書いたるわ」

その夜はさすがにUも自宅へ帰った。私はさて、有言実行と、コピー用紙にボールペンで、まず

「裕ちゃんへ」
と書いた。Uの名前だ。
本当は裕というのだ。本当は裕。本当は裕。本当は裕。

なぜかおかしなほど、筆圧が強くなってしまう。ボールペンが滑っていく。私は手近にあった、情報誌の上にコピー用紙を再度置いて、また、書き始める。

「自分を食べさせる、守るのは自分だけであるということ。

言いたいことやりたいことがあれば、言っていいしやっていい。自分で切り開くのなら。

人間は基本誰しもがひとりであるということ。

これらを裕ちゃんに教え育ててもらったことに心より感謝してます。

祐美子より」

そう、私はゆみこというよりは、ユミというよりは、祐美子という名前だ。そうだ。祐美子だ。


縷々と書いたると言ったわりに縷々としていないなと思った。
からっと笑った。心の中で笑ったっていうわけじゃない。からっと、乾いていて、意味さえなく、表情どころか、温度さえないっていう風に、笑ったのだ。

「意味?何の意味を聞いているの?
ああ、その笑いの、
からっという音をたてる、
笑ったっていう意味?
私が」

あなたの誠実そうな顔つきを見ていると、私も誠実な態度でもって正確に答えたいって思うわ。そうねえ、堤防かしらね?テトラポットのそば近く

小説を書きながら一人暮らしをしています。お金を嫌えばお金に嫌われる。貯金額という相対的幸福には興味はありませんが、不便は大変困るのです。 ぜひ応援よろしくお願いします!