連載小説:How to 正しいsex.(重複生活)4
俺は、 ゆみこに即物的俗物と笑われることがあると先に言っているが、それだけではないんだ。俺のセックスに対し、最初はさすがになんのコメントもなかったゆみこだったが、人と人との関係とか、かかわりあい方っていうのは、徐々に本音の割合が増えていったり、また、徐々に遠慮がなくなっていったりであるとか、自然体でいられるようになるとか、そんなもので、ゆみこはある日、いつもの冗談を言う顔つきと言葉遣いで、あんたのセックスってなんて即物的物質的なの!?wwwと笑った。
「なんだよ、そうかなあ?w」
「そうよ。さて、とか言っちゃってズボンもパンツも脱ぎ捨ててさあ、頼む、的なw。もうええで、ゆみこ、顎も疲れるだろ?wは置いといてもよ?次はなんだか私のとこといじくり、舐めてみたり吸ってみたりして、そろそろええやろw、これを即物的物質的と呼ばないわけ?www」
「なるほど。ほかの男は違うんかもしれんなw。そやな」
なんていう会話もあった。けれど、俺自身そうは気を留めなかったし、ゆみこから、「もっとこんな感じでしてほしい」だの、「こんな雰囲気がほしい」だの、要求もされなかったし、また、俺はゆみこと親密で親しいセックスをしていると思っていた。
また、同じ部屋で一緒に過ごすとき、俺は最初、ゆみこに「気を使いすぎである」との指摘を受けた。
「今まで同棲の経験もあるんでしょう?そんなんで疲れたりしないわけなの?」
俺はその言葉に多少うろたえたのは本音だ。女にそこまで気を使っているつもりもない。けれど、確かに今まで女と長い時間一緒の部屋にいて「へとへとに」ならなかった経験などないのだ。
もちろん特に最初のほうだ、ゆみこと一緒にいたって疲れた。頭の中で早くひとりになりたいなとか、あー、家に帰って音楽聴きたいなあとか、そんな思いが脳裏を去来しまくっていた。
けれどだんだんそういった気持ちが薄れていったのは、ゆみことホテルにいても、ゆみこの部屋にいても、ゆみこは平然とケータイでイヤホンを装着して音楽を一人で聴いていたり、ベッドに寝っ転がって本を読んでいたりするっていうところがあったから、俺自身もそのまねをするというか、経済書を本気で読んでみたり、ケータイで音楽を聴いてみたりするようになって、特に大きなストレスもなく、欲望がわきいずれば、ゆみこのまんこをしげしげ見てみたりして、ときには突っ込んでみたりして、(また、俺のこういった言葉遣いをゆみこは俗人め!と言って笑うのだが)、なんとなく過ごすっていうのが、一か月に1回であるとか、2ヶ月に一回のペースで最初は続いていたのだが、慣れっていうのも手伝うし、疲れない相手だし、別に俺は、ゆみこに恋愛しいているとか、恋慕したっていうわけではないけれど、毎日カカオで何らかの会話をし、週に一回とか二回とか、会うようになっていった。
しかしそこには難題があり、俺とゆみこのアパートは離れすぎていた。だから、上野あたりのホテルで会うことが多かったのだ。すると、さすがに金銭的に高額になってしまう。
そこで、西日暮里に8畳のワンルームの部屋を借りたっていうわけだ。なにも俺たちの愛の巣なんていう意味はこれっぽっちも含まれちゃいにない。なぜならしつこいようだが、俺はゆみこに恋愛感情などないし、もともと、恋愛に対し興味もなければ、愛情を持つなんていう経験もなかった。ゆみこは…、とても親しい間柄の人間であって、セックスをしたいと思う女である、そういう対象に過ぎない。
つまりそのワンルームはホテル代わりに過ぎないんだ。
ゆみこは俺を好きで好きで仕方がないと言ってよく泣いたし、また俺に報われたいと言ってよく泣いたし、また俺に報われていないと言って、悲嘆にくれて、よく泣いていたのだ。
しかし、その直後、その波をティシュで拭ってみれば一瞬で涙も乾いており、それまで読んでいた本にまた目を落として、真剣にページを繰ってみたり、イヤホンを装着したかと思うと、脚でリズムを取り出したりして、まるでそこに俺がいないかのように一人でビールを飲んでみたり…そんなふうだった。
ある晩俺たちは寝しなにこんな会話をした。
「あーあ、俺、ただの老害をまき散らすのみのたいして動けないような老人になったら、死にてえなああ。変な延命とかされたくないよ。ゆみこ?いいかな?」
俺自身、その言葉に偽りはなかった。そう考えていたんだ。以前から。けれど俺自身大いに戸惑った。そのセリフの最後にくっ付けてしまった「ゆみこ?いいかな?」という言葉が何を意味したがっているのか、俺にもよく理解ができなかったからだ。
ゆみこも理解できなかったのだと俺は想像するね。
「うん。わかった」
そうとだけ言って寝返りを打ち、しばらくとてもとても部屋は静かで、そして外の酔客の笑い声さえ、そう俺を不快にさせず、そんな時がしばらく流れると、ゆみこは俺に背を向けたまま、小さないびきをかきだした。俺は何とはなしにゆみこの首に触った。産毛の感触が暗闇の中でも伝わってくる。
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