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連載小説:How to 正しいsex.(重複生活)12

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オレハU

その流行り病が収まったころ、都市はまた動き出した。けれどその流行り病が世の中を席巻した前と後では明らかに社会の構造は変わり始めていた。

俺は元々海が好きだし、サーフィンもする。しかし徐々に趣味を持つ人間が増え始めたのもこのころだ。そのもう20年以上前からウォーキングは社会的に推奨され、1日に1万歩歩けだの、いや?8000歩程度が適当だろう、だの、色々と諸説あったが、統計を見て言っているわけでもないけれど、ジョギング人口と共にウォーキング人口は確実に増えているような実感が俺にはあったし、海のスポーツをする人も増えた。ロードバイクやサイクリング用の自転車も売れていた。キャンプの道具が、ドン・キホーテなどでも多くのスペースをとって売られている。

ソファであるとか、ベッド、布団、イス、その他にもそこまで高級志向ではなくても、あらゆる家具であるとか、そういったものも売れていたし、包丁や鍋もある程度値の張るものも売れていたのは、おそらく独身の男性が料理を始めるときや、今まで料理をしてこなかったOLなんかが、料理を始めるときに買うやつ、そんなふうに俺には思えた。

つまり、自宅でどんなふうに過ごせば、人は生きやすいのか、それを意識的にも無意識的にも考えている人が増えていたっていう気が俺にはするのだ。

というのもリモートワークやテレワークが増えたため、一回はサラリーマンは絶望に落ちたやつも多かったらしい。仕事の合間のジャブのような砕けた会話、昼食の時のコイバナとかいうやつ、上司の悪口でうっぷんを晴らす、そういった人間らしい?って言われていた事々ができなくなっていたからだ。それを正直に言えないまま、他の理由付けをしてストレスだと言い張り、酒を煽り、睡眠薬や抗不安薬に依存し、違法薬物に手を出す奴までいた。
俺は元々、会社の飲み会、新年会なども含めて参加しないし、そんなもの時間の無駄でしかないって思っているから、そいつらの実感を何ら理解できない。

そんなふうに一回は人は病み、病気であるからその病気を治そうというセルフネグレクトの癖がない人間なら思うっていうのか、だんだん人はその病を治していく方向にあるらしかった。人は自分のやっていたことに少しだけ気が付き始めていたのだ。分業というやつ。

そしてこれからも分業での作業をして人は食べていく。そうせざるを得ない。歴史は不可逆だ。通貨が消える日が想像できないみたいに。

苗を植える、肥料をやる、花が咲き受粉させ、実がなり、それを収穫する。そういう作業を仕事としている人はそうはパーセンテージとしていないし、それはもう仕方のない事だった。誰にもそれらを変革するようなよいアイディアなど浮かばないのだ。

それで、人はバランスを取りたがるかのように、趣味を持ち始めたのだと思う。ゆみこは相変わらず、その流行り病の前と同じ生活をしているように見えたから、俺は、
「なあ、ゆみこ、お前も趣味持たんの?」聞くと、

「なんか、私ねえ、趣味って現役感なくって嫌いなの。まあ、それってさ、自分でも古臭い考え方だって思ってる」
「それにさ、皆さんが持つ趣味なんて一過性よ。きっと。いや?一過性ではなくともUのように人生の根幹みたいなものには触れてない種類のもんなのよ。おそらくね。人は弱い。分業を孤独にやり続けるなんて、そう長い時代は続くはずないわよ」

「現役感?今、趣味を持っているほうが現役やろ」

「そういう意味じゃなくってさ」

そういう意味じゃなくってさ、とゆみこに言われても俺にはわからない。

「まあ、ね、私だって、最近落ち着いてるでしょう?これでも工夫はしてんのよ?よく寝て、食べたいときに食べたいものを食べて、何か悲しいことが脳裏をかすめたら、目をつぶって深呼吸するか、散歩するわけよ。それだけだけどw」

「何のための工夫や?仕事もしてないからそう抑圧感もないやろ?」

「死なないための工夫。それだけ」

ゆみこは…確かに壮絶な幼少期を送っている。基地外の両親。家族総出のいじめ。今は親戚一人すら、連絡先を教えていないし、ゆみこも知らないらしい。父親は死んだ。それは病院に連絡があったらしいし、それだけは知っている。「死なないための」。

「最近はさあ、悲しいことってなんもないのよね。つまり疲れてないのかなあ。よく寝るとか、サクランボ食べるとかって大きいんだよ。きっと。悲しい事なら…、そりゃ日常的にいくらでも起きてる気もする。それを拡大しそうになったら、目をつむって眠るコツも覚えたし、散歩だってする。やらざるを得ないことってたくさんあるじゃん?手続きとかさw、けど、人には使命なんてないわ。そう錯覚して幸せに生きることを否定するわけじゃないけど」

その勢いのある断定口調に、俺はもう何も言う気にならないっていうよりも、両手も縛られ口も封じらてるっていう気分になった。
悲しいことはなにもない。悲しいことがあれば目をつむり眠り散歩する。人には使命なんてない。
その言葉が含む「不幸さ」みたいなものに縛られ封じられているのだろうかと、黙ったまま俺は考える。ゆみこがある種の自分自身に対する欺瞞や「ずる」をしているではないかっていう感じが脳裏をかすめる。イライラするほどではないのだが。

そして、ゆみこはすんなり立ち上がると、窓を開け、夕暮れの太陽がほぼ沈んだ地平線を眺めてから、シャッターを大きな音をさせながら、閉めながら、その騒音に負けないほどの大声で、

仕方ない仕方ない仕方ない仕方ない仕方ないしっかたない!死なないための工夫

と叫ぶような、大きな声で呟くっていうような、何ともいえない言い方で言った。

しばらく眺めていた夕日は相変わらずだ。平凡なだいだい色。それが紫にせよ、例え真っ赤っかにせよ、昨日と微細な変化がある?ゆみこにとってはどうか知らないが、俺にとってはそれは変化のうちに入らねえな。今晩も俺はゆみことやる。

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