連載小説:How to 正しいsex.(重複生活)8
その男と…、そのアイコスを吸う、東京タワー、スカイツリー、浜離宮ごっこをした男だけど、その人とは、もう一回会ったけれどそれっきりになってしまった。私がラインに、お互いの目的って一致してないみたいよね?と、いちゃもんを付けたのが始まりだった。
「どういうこと?」
「私は…、本当はあなたの本当の名前とか、あなたの部屋に行ってみるとか、そういう普通のことがしたかったし」
「俺の名前?ごめん、じゃ、言うよ・・○○○」
「そか」
「今度遊びに来てよ。俺さ、ユミちゃんが、てっきりこう俺と同じく、セックスをともにエンジョイできるのみの割り切った相手を探してるんだと思ってて。名前を教えなかったのってわかるだろう?俺の名前って古典にしか出てこないようななんだか…恥ずかしかったんだよ。ごめんね」
「ちょっと…なんていうかなあ、違ったんだね。私たち」
「わかった」
これは単に強制終了だ。けれどなぜそんなことをしてしまったんだろうと自分を振り返る。別にフリーズもしていなかった。動いてはいて、息もしていた。まあ、単にその○○○とまたセックスしたいと思えなかったんだろう。それだけのことだろう。自分の思っていることを考えてみたって仕方のないことだ。
そんなふうにもう、数えることも少し面倒くさいかなって風に、幾人かの男とホテルに行った後、いいかなって思えたら、このアパートに招いた。
「男と同棲してる。けど…なんたらかんたらかんたら」
けど…の後のフレーズは相手に合わせて変えていたのかな…?私が持っている過剰な迎合精神。本音を言うと彼とは別れたいと思っている。彼とsexが合わなくて。彼と一緒にいても何かさみしくって。ううん、彼ひとりじゃ満足できないの、私ってとことんどすけべなドMだからさ。本当言うとね?
まあ、男性がセックスをスポーツだのエンジョイだのそれに似た類の言葉を言った瞬間に、ああ、って思うには思うけれど。ああっていうのは、悔恨の情ではなくって、「だめだこりゃ」っていう気持ちが湧いてくるっていうことだ。この人とのセックスつまんないなあ。この瞬間飽きた感wっていう。
この今言った男も「エンジョイ」という単語を口にしたわけだし、飽き飽きしただけなのかもしれない。セックスの快?そんなもののみに依存していたら、とっくに死んでた。私。
駅前のマックで待ち合わせをした。私は当然と言った風に「中にいてね。今日ちょっと朝と比べると暑いよね?だから」とメッセージを送ると、「そうなんだよ、結構俺厚着(笑)、けど、ほら、今イートインはやってないから」「あー、そっかあ、ごめん、急ぐね」
ある種の病気が流行っていて、イートインはマックでさえもお休みしているのだ。Uの事業だって本当は大変なんだろう。最近になってもUのこのアパートに来る頻度は変わらない気もする。急いだセックスだけれど、回数は増えた。その大変さをUは口にはしない。けれど私になんら伝わっていないつもりだろうけれど、本当は痛いほど私自身辛かった。Uが可愛そうで仕方なかった。正直借金もなければ、本業だって持っている。食べられなくなるとか、破産する可能性がある他の自営業者に比べて、比較ならないほど楽な立場かもしれない。U自身、そんなふうに人にもふるまっているだろう。けれど…本来のUの性格から言って、注ぎ込んだ資産を失うことは辛いだろう。そして本来とても負けず嫌いな人なのだ。
あきらさんの格好は確かに暑そうだった。私は半そでなのに、あきらさんは体にフィットした厚手のスウェットのパーカーを着ている。色はグレーベージュ?これから向かうアパートのカーテンの色に似ているなって思った。
部屋に着くとあきらさんは、
「へえ、シンプルだよね。二人で暮らしている割に荷物が少ない」
私はドキッとした。それはこの部屋がシンプルだからじゃない。私の住む埼玉のアパートがシンプルすぎるとよく言われるからだ。反射的にこう答える。
「私たち病気。一種の。捨てちゃうっていう」
「けど、彼は病気ではないんでしょ?俺たちみたいなさ。俺たちっていうのは、俺とユミちゃんのこと。俺たちは完全に何かを失ってるっていうか、欠落している病気だよね。俺にもなんて言っていいのかわからない。けど病気だ。会ってその日にホテルに行って、セックスができるっていう病気」
「そうだね」
私は思わず、頭を上げてあきらさんの顔を見てしまった。今まで男性の顔をそんな風に見たことはない。目の下に薄くシミがある。白い顔。端正で整った顔つきと、清潔そうな髪型。ジムで鍛えているっていう体。
私たちはキスを始めた。単なるキスっていうのではなくって、セックスを始めるときの正しいキスだ。
小説を書きながら一人暮らしをしています。お金を嫌えばお金に嫌われる。貯金額という相対的幸福には興味はありませんが、不便は大変困るのです。 ぜひ応援よろしくお願いします!