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連載小説:How to 正しいsex.(重複生活)6

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俺には、何年も前の話をゆみこが蒸し返しているようにしか感じられなかった。
っていうのも、ゆみこが一人掛け用のソファに座り、何かの小説らしき文庫本に目を落としたまま、こんなことを言ったんだ。

「まあ、Uっていうのはセックスはしたい。けど誰でもいいわけよね。それを距離が近いとか言いやすい私としているのみであってw」

ゆみこも俺もバカじゃない。ゆみこはふざけているような何でもないような無意味という価値をまとったフレーズとして言ってはいるが、それが何かを意味している、何かを言いたがっているということはお互いに了解している。

俺は、少々言葉に詰まり、俺はいつも通りの言葉が出てこなかった。俺は人とのコミュニケーションにおいて忖度できる方だ。くつろいだ関係でいられる人間同士なのに忖度なしで発言しようや、なんていう愚かなまあ、比喩としてだが「パンクス野郎」とかいたら、俺はそいつから離れる(因みに俺はパンクも聴くw)

「相手が考えていることを考えるなんて無駄なことだ」

ゆみこはうつむいたまましばらく黙っていた。そしてまたうつむいたまま、

「ふーん」
「そう」
「Uはそう考えるのね。でも私はそうは考えないっていうのか、そうは感じない」
と答え、続ける。
「ある男女がセックスをする。現象としてそれはセックスをしたということに過ぎないわね。けれど特に女性側が『私って1番手かしら?2番手かしら?それともセフレ?』って考えちゃうのは合理的に言って無意味でナンセンスであっても、それはとってもナチュラルだって思うけど」
「男女の性愛っていうのは、人類愛だのアガペーだのっていうものじゃない。好きになったら、つまり選んだのなら選ばれないと性交すら成立しないわけで、はじめから『報われたい』という概念があるものだわ」
「まあ、Uは愛情を持ったことがない、持てないっていうんだからそれは理解できないんだろうし、そこは汲むけれども」

そして本のページを数ページ素早くめくると、

「はっきり言うけど、私は男女としてUとセックスしてきたし、そこに付随するナチュラルな感情を無価値、無意味、無駄!って切り捨てられることが私をどれだけ傷つけているのかわかっているの?」
「単に人との関りが煩わしい、考えるのが面倒、その思いから言っているだけのくせして!」

俺は何も言うことがなかった。反論ならできる。俺はゆみこに愛情なんて持っていない。恋愛しているからセックスをしているわけじゃない。ならば、俺の気持ちを考えてみても、ゆみこにとって逆にマイナスに働くだけじゃないのか?一般的に人っていうのはそう考える、思うもんじゃないのか?

けど、俺が言った言葉が現在結構ゆみこを傷ついているのはわかっていたし、それ以上言葉を連ねるわけにもいかない。するとゆみこはテーブルに置いてあった水をごくごく飲んで、態度を一変させカラっと言ったのだ。

「ま、ちょっと私も怒りすぎたわよねw、生理が近いのよwww。単にw。まあ、わたしだってねー、結構Uの言葉って普段スルーしてるとこあるしね。苦しいだのさみしいだのやけに訴えてさw、Uに。そしてUが人はみな苦しい、人はみなさみしい、それに対してね。感謝しつつも、それがUの経験に裏打ちされた感情だとか全く考えたりしてこなかったし」

俺は正確に言葉を言いたいから、こういう話をテキストでしたいとか思ってしまう。どうでもいい話を会話する、それを厭わないけれど、正確に言葉を発したいために、時間が欲しいんだ。けれど俺は瞬時にこう言ってしまった。

「ちなみに俺の過去に苦しみやさみしさがあったかといえばそれはないでw」

「そか。ふーん」

その最後の「そか。ふーん」というゆみこの言葉は平坦なものだった。俺は一瞬ゆみこを怖いと初めて思った。なぜなのか今はわからない。

世界恐慌が起きていた。ある種の病気が世界中で流行っていたせいだ。政府は銀行に融資をするように言い、銀行も融資しまくっていた。ある種の健康さを取り戻したとも平常時なら言えただろう。しかしだ、ある予測では6ヵ月先には6割の企業が倒産し、1年後にはそれらの融資の回収が始まるから、生きるか死ぬかっていう瀕死の企業にとってそれは不可能に近いだろう。倒産件数は増えるしかない。銀行も不良債権であふれるだろう。自営業者は当時、なんだかセックスばかりしていた。奥さんとしてよそでもするそんなふうだった。先のことなんてどうでもいい。考えても仕方ない。そんな刹那的なムードさえ漂い、今気持ちよければいいかwなんていうやつまでいた。俺の経営している事業相手もどんどん倒産していくだろう。ゆみこにこういう話はほとんどしたことはない。けれど、ある程度ゆみこも世の中の流れを把握はしていたと思う。俺の事業も第3四半期以降は目星が立っていなかった。俺は忙しかった。焦燥感もあった。食い扶持は一つでは足りない。いくつか見つけなければ。それなのに逆にゆみこと会う頻度は変わっていなかったと思う。つまり実感としては増えていたっていう感じだ。俺は「いく」ときにゆみこが俺の身体に少し力を入れて手や足を回す癖が奇妙に心地よかった。

「ゆみこ、ゆみこは考えすぎだ」

「そうお?そうかもwww」

「そや、気楽に行こうや」

「そうだね」

ゆみこの言葉は平坦な雰囲気も険悪な雰囲気もない。言葉も意味通りで嫌みとか皮肉でもなかった。そして明るいものだった。けれど表情は見えなった。なぜならゆみこはその時本を読んでいたからだ。うつむいていたからだ。

「相手が考えていることを考えるなんて無駄なことだ」俺はさっきそう言った。それは無駄なことだ。

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