【SS小説】3人の男子大学生が闇餃子パーティーをした話
「闇餃子パーティーしようぜ」
と言ったのはタケルだった。K大学の新聞部の部室で、2年生だけで何か面白い企画記事を作ろうとアイデアを出していた時だった。
「中に何を入れるかは秘密でさ、食えそうなものを餃子の皮に詰め込んで持ち寄るんだよ。ホットプレートで一気に焼いて食べてさ、餃子の面白さで点数を競って結果を記事にするとかどうよ」
仕切りたがりの筋肉ノッポのタケルが説明する。1年生はタケルと、ぽっちゃりメガネのソウタと僕を含めた三人だ。闇餃子パーティーと聞いて、僕はゴクリと唾を飲んだ。それは果たして面白いのか。餃子の面白さを点数化とは。どこから突っ込むべきか。それより何より、
「あの、料理出来ないんだけど」
と思わず僕の口から弱音が出た。面白い以前に料理ができない。
「それがいい! 料理ができないツカサからどんなサプライズが飛び出すか絶対ネタになる」
タケルは自分のアイデアが優れている理由を主張する。続いてぽっちゃりメガネのソウタが、「いいと思いますよ。ククク、ワタクシの餃子で恐怖を味合わせてあげましょう」と呟いた。完全に乗り気である。
闇餃子パーティーは翌日の夜にタケルのアパートで決行することになった。一日で面白い餃子のネタを一種類考えて、それぞれ自分の家で仕込み、包んだ状態の餃子を持ち寄って一気に焼くことになった。
食べ物で面白さを競うなんて不謹慎だ。僕はお調子者のタケルに少しイラついていた。大人しくて真面目だと思っていたソウタも「恐怖を味合わせてやるぜ」なんて厨二病丸出しで、一体何を食わされるのかが憂鬱だった。せめて僕だけは意外な材料で美味しい餃子を作って、二人をあっと言わせてやろうと思った。料理ができない僕をネタにするのが前提なんて、気分が悪い。絶対美味いって驚かせてやろう。
日が沈む頃、タケルのアパートに着いた。1DKの和室のアパートで、男3人が集まると狭苦しい。卓袱台の上にはホットプレートとキンキンに冷えたビール缶が用意され、準備は万端である。先に着いていたぽっちゃりメガネのソウタが座っていた。
ルールは簡単だ。まず、3人が作ってきた餃子は1人1種類、10個ずつだ。それらを誰が作ったのか分からないように、一度大きなトレーに入れてランダムにシャッフルする。餃子の形が崩れないように要注意だ。それを一気に焼きあげて、一人ずつ順番に食していき、品評をするのだ。自分の作った餃子が当たった時は、何も言わない。あくまでも自分以外二人の餃子が当たった時にレビューをする。その食レポの内容で、どの餃子が一番面白いかを後日上級生に決めてもらおうという話になった。
筋肉ノッポのタケルがホットプレートに油を敷き、十分に熱された所で餃子を並べる。1個、2個、3個。長方形のホットプレート全体に30個の餃子を敷き詰め、ジュウジュウと音が立ち上る。餃子の形で誰が作ったかが分かりそうなものだったので、共通の餃子の包み方のユウチューブを見て、餃子のヒダの数まで揃えて可能な限り3人とも同じ形の餃子を作るよう工夫した。大きさこそマバラだったが、一度混ぜてしまうと誰が何を作ったか分からなくなった。餃子の皮の表面がよく焼けて、少し透明になった所でホットプレートにタケルが水を入れた。ジャーン!と油が踊り、タケルが手際良くホットプレートに蓋をして蒸し焼きにする。餃子の焼ける音が静かになって蓋を開けると、いよいよ僕らの闇餃子パーティーが始まった。
食べる順番はジャンケンで決め、僕が一番に食べることになった。冷や汗が箸を持つ手に滲んだ。何が出てくるんだ。一番手前にあった餃子を一つ摘んで、熱々だったので息をフーフーかけて口に運んだ。パリッとした皮を噛みちぎると、甘さが口の中に広がった。これはチョコレートか。
「普通に美味い」
僕がそう言って、「チョコ入れたの誰?」と続けるとタケルが「俺だよ」と自信満々で言った。その後、二人連続でチョコレート餃子が当たり、新たに僕の順番になった。どうか自分の餃子が当たりますようにと願った。恐怖をテーマにしたソウタの餃子に当たりたくなかった。手を伸ばし、餃子を食べる。チーズだ。溶けたブルーチーズと蜂蜜のコントラストが絶妙に美味しかった。なんだ大したことはない。
「なかなかツカサの作品が出てきませんね〜」
とソウタが言って、次の餃子を口にした。「うっ」と唸って、「これはツカサですね」とソウタは僕を睨んだ。モグモグと咀嚼をしている。あまりの美味さに言葉を失っているのだろうか。
「柔軟剤を、使いましたね?」
ソウタが言った。タケルがビールを吹いた。
「肉を柔らかくするために使ったけど、ちゃんと洗ったよ」と僕は答えた。
「料理ができない奴は味見しねえんだよな!」
タケルが大声で笑った。