徒然なきままに
#短編小説 #動物
都会の喧騒から離れ、山々が広がる自然豊かな小さな町。
春になると桜が舞い、夏には蝉の鳴き声と澄んだ風鈴の音。秋になれば紅葉が山々を彩り美しい。冬は寒く澄んだ空が、星の輝きを引き立たせる。
四角くて薄い箱の中にいる人間たちは、こぞってコロナという見えない何かについての話をしている。人間の体の中に入って悪さをするらしい。
僕らは気にしなくていいらしい。主に人間がターゲットだという。
でも、毎日こうやって似たニュースばかりだと、あくびが止まらない。
僕は野生で暮らす1歳の黒猫。ワイルドだろ?(笑)
人間に飼われなくても、これだけ虫や小さいネズミがたくさんいれば生きていける。このあたりの人間たちとも顔見知りだ。
縁側に、人間が入っている四角い箱を置いているおばあさんの家に行けば、人間界の情報は大体手に入るし、雨だって凌げるさ。
つまり僕は流浪の黒猫。定住しているわけじゃない、この町に来たのだって人間が動かす鉄の箱の後ろに乗っかったからだ。到着地にこだわりはない。
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母も黒猫だった。一人っ子で生まれた僕は母以外の家族を知らない。
生まれたときは綺麗なブルーの瞳で、大人になるとヘーゼル色になった。
大人になった証だと母は言った。そして、僕が旅立つときが来たと。
兄弟がいなかったから、山の中での友達はニホンザルの子供だった。利害関係なかったからいい遊び相手だった。獲物も被らないし。
母から旅立ちを促され、あいつだけには挨拶に行った。ニホンザルは大人になっても群れで暮らし、男の場合は群れを新しく作るから、僕の事情はあまり理解してなかったみたい。だけど翌日、母のもとに餞別の木の実が届いていた。
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僕だって出会いと別れの輪廻の中にいる。
会いたいと思うことはあっても、振り返らず生きている。
僕の強さはどこでも生きていけること。コロナにもかからない。
12月の寒空の下、普段なら暖かくして寝ているけど、風のにおいが変わったから外に出てきた。空を見上げると、澄んだ空に綺麗なオリオン座。北斗七星。
コロナとやらがきっかけで、人間たちの生活は変わった。
仕事が…、家庭が…、僕のところまで色んな声が聞こえる。
でも大丈夫じゃないかな。目を閉じて風のにおいを嗅げば、どこに行けばいいか分かるはずだから。
僕もそろそろ次の町へ行こう。