くるまの娘 感想
宇佐美りん 「くるまの娘」
たったいま読了した。かなりくらってしまったのでつらつらと感想を書く。
苦しい小説だった。生み出した著者にとってもそうだろうし、読者にも同様に。
内容にはあまり言及しないが、話が進むにつれて自身の家族との記憶が否応なく引きずり出される。無意識に蓋をしていた記憶。その記憶によって何度も話が切断されては主人公に感情移入していく。その記憶は痛い苦しい悔しいなど自身が被ったものもあれば、加害しまったものもある。
全てが事実であり、避けられなかった衝突。楽しい思い出だけではないのが家族である。
私は実家を出て、一人暮らしをしている。今の彼女と近い将来結婚するだろうし、子供も授かりたい。
家族になる、家族が増える、家族が老いる。今後様々な問題に直面し悩むだろう。辛く逃げ出したくなる時もあるはず。そんな日もなんとか乗り越えて生きていく。
理想や良いところだけ切り取り、取り上げるこの世の中で、家族の不穏さを描き切った本作には非常に救われたし、今後何度も救われるだろう。
家族という組織と車という乗り物に共通する閉鎖性や連帯感を重ねる構成と、著者の確かな文章力、特に負の感情や人物の機微をリアルに描写しているところに魅力を感じた。
デビュー作から3作とも読んだが、社会の陰をこれほど鮮烈に描く作家はいない。この時代に著者がいないことを考えると恐ろしくなりさえする。
不安な日々を送る人にとって拠り所になる、苦しい一夜を乗り越えさせる、そんな力を持つ傑作であった。