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音楽写真家という道の途中で ~ photographer 平舘平氏インタビュー【part3】

 音楽写真家の平舘平(たいらだて・たいら)さんインタビュー part3。
 part1 では芸大声楽科を卒業するまで、part2 ではコンサートマネジメントの会社で1年働いた後、カメラマンになるために退職し、先輩のアドバイスで撮影スタジオを受けて合格したところまでをうかがいました。
 今回はスタジオマン時代からフリーランスになるまでのプロセスと、現在の音楽写真という仕事の特徴についてお話しいただきます。【全4回】

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平舘平(たいらだて・たいら)
音楽写真家。1988年、横浜市生まれ。東京藝術大学音楽学部声楽科を卒業後、複数のコンサートマネジメント会社、スタジオエビス勤務を経て独立。
クラシック音楽を専門にコンサート、ポートレート、ドキュメンタリーを撮影している。音楽祭、音楽関連誌などで活動中。

部活のようで楽しいスタジオマンを経てフリーに

----- スタジオエビスでは、最初は見習いからだったんですか?

 最初は研修期間でしたね。セットが残っているスタジオに行って器材の名前や扱い方を教わりながら片づけるところからでした。その他には普通に掃除や洗濯をしてました。

 しばらくして、スタジオに入って仕事をするためのテストを受け、合格して晴れてスタジオマンとしてちゃんと入れました。

----- スタジオエビスには広告の仕事で何度も行きましたけど、いつもスタッフのみなさんが楽しそうだったのが印象に残っています。

 エビスにいた時はめちゃ楽しかったですね。短い間でしたけど、毎日ほんとうに楽しかったです。スタジオマンってちょっと青春的な要素もあるじゃないですか。みんな同年代で自分より少し若い人たちもいて、仕事だけど部活みたいな感じもありました。

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スタジオエビス時代(写真提供: 平舘平氏)

 毎日楽しく勉強しながら働いて、土日などの休みの日には友達に頼まれたりして撮影してました。スタジオで仕事をすることでストロボを炊くとこういう光の写真が撮れるといったことが何となくわかってきたので、エビスの機材を借りてプロフィール写真やコンサートの写真を撮ったりしてましたね。

 そういう撮影の依頼が増えてきたのと、結婚するためにちょっと急いでいたのとで、入って7ヶ月くらいで「そろそろ出ようと思います」と上の人に言いました。

 撮影スタジオは、2年間勤めた後に外に出て、2,3年師匠についてから独立するのが昔からの通例なので、まだ7ヶ月のアシスタントでいきなり独立するのは珍しいんですよね。

 ただ、僕の場合は元々コンサートなどを撮るつもりで、ファッションや広告をやるわけじゃないから、そんなにスタジオワークを極める必要がなかったんですよね。それは最初から理解してくれていたので、快く送り出してくれました。名刺の作り方などの細かいことも含め、フリーでやっていくのに役立つことも色々教えてもらい、とても感謝しています。

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スタジオエビスの同僚たちと(写真提供: 平舘平氏)

 スタジオエビスを出た時は、月に2,3本、撮影の仕事がもらえるのを見込んでいて、あとはバイトしようかなと思っていました。でも結局、これまで先輩カメラマンの手伝い以外のバイトはせずに済んでいます。

----- 最初から撮影の仕事が充分にあったということですか?

  そうですね。フリーでやりますと言った時から、芸大の時の友達やその繋がりで色々声をかけてもらえて、コンサート撮って、プロフィール撮ってってことで、まぁまぁちゃんと仕事ができました。エビスを出た次の年に無事結婚もしました。

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結婚式(撮影:藤井清也氏、写真提供:平舘平氏)

----- ちょっと話が逸れますけど、「平舘」は奥さんの方の名字で、ご結婚されたことで思いがけず、「平舘平」という印象的な名前になられたんですよね。

 そうなんですよ。僕の旧姓は『西巻』で結婚後もそのままだと思っていたんですけど、いざ結婚するとなった時に「『平舘』を残したい」と言われて「えっ?」となりました。男性側の名字にするべきとかは全く思っていませんでしたが、「『平舘平』かぁ...」ってなりましたね。

 奥さんには「フリーなんだから覚えてもらいやすくていいじゃない」と言われ、祖父や両親にも相談した上で、『平舘平』になりました。結果的には、初対面で名乗って名刺を渡した時点で「おっ!」となってもらえますし、よかったと思っています。

音楽写真という仕事の特徴

----- 現在はクラシックのコンサート撮影を中心に活躍しておられますが、カメラマンの仕事の中でも、クラシックコンサート撮影ならではの特徴はどういうところにあるんですか?
 
 まず撮影の目的ですが、オーケストラは公益財団法人が多いからか、活動の記録を残すことが義務付けられているらしいんですよね。写真撮影もその一環なので、僕たちは記録撮影という形で撮影を依頼されます。

 文字通りの記録写真以上のものをどこまで求められるかはクライアントによりますね。かなり具体的な要望をいただく場合もあるし、「任せるから自由にやってください」と言われる場合もあります。

 実際の撮影にあたっての一番の特徴は、現場でのコミュニケーションがあまり取れないことですね。みんなで紙面を作るとか広告媒体を作るのと違って、基本的に一人でやるんですよね。現場で相談や確認ができないので、事前に「この人たちが欲しいのはどういう写真なんだろう」というのを通常のクライアントワーク以上によく考えて把握しておく必要があると思っています。

 当然ですが、クライアントさんは写真に関してはカメラマンほどは詳しくないので、イメージを言葉で言ってもらって、なるべく本質的なところを掬い出す作業が必要になってきます。参考になる写真を見せてもらったり、いろいろ工夫しています。

 その他にコンサート特有のこととして、フラッシュが使えない、客席内でシャッター音を立ててはいけないなどがあります。クラシックのお客さんはデリケートなので、カメラが置いてあること自体が許されないこともあります。消防法的には問題ない場所でも、演奏者やお客さんが気にするからダメと言われることもあるんです。

 そういった制約とクライアントさんの要望のバランスを取るためにも、事前によく相談して詰めておくことが大事ですね。

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日本フィルハーモニー交響楽団(写真提供: 平舘平氏)

----- コンサート撮影の事前準備のひとつとして楽曲を読み込むと言っておられましたね。

 そうですね。演奏の間、一人でホール内を移動して撮影していきますが、その移動計画を立てるために楽曲を知る必要があります。わかりやすい例をあげれば、オーケストラの場合、全員が同時に音を出すタイミングってそんなに多くないじゃないですか。シンバルがバシンと鳴らすのは一回だけとかありますよね。その時は必ず正面から狙えるように、万が一そのタイミングで撮りそびれた場合のために次点のタイミングでも全体を撮るように考えます。

 どのシーンで誰がソロを弾くのかを把握して、そのタイミングでソロ奏者を撮るにはどこにいたらいいか、指揮者が一番入れ込むであろう楽章では指揮者のアップが撮れるようにポジショニングするとかもありますね。

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指揮者 山田和樹氏(写真提供: 平舘平氏)

 曲だけでなく楽器に関する知識が必要な場面もあります。例えば、バイオリンの場合、高い音を出す時と低い音を出す時では楽器の位置や傾き、弓の角度が違いますよね。縦位置の写真が必要なら高い音を出している時の方が撮りやすいです。曲のクライマックスに高い音を出すことが多いので、カデンツァの最後に高音の聴かせどころがあるなら、そこをカメラを縦位置に構えて待っていることになります。

 ヴィオラ奏者などでは逆に、横のスイングの動きがグルーヴィでよかったりするじゃないですか。それを写すために中低音からグワンとくるようなタイミングで横位置に構えて待ちます。

 簡単なことで言えば、そういう知識がシャッターチャンスに繋がり、写真に反映されます。

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シャネル・ピグマリオン・デイズ2019 北川千沙氏 (ヴァイオリン)
(写真提供: 平舘平氏)

----- 曲と楽器の両方の知識が必要で、そこに芸大での学びが生かされているということですね。

 そうですね。でも、それは実は大学とはあまり関係ないのかもしれません。スコアを全部読めなきゃいけないわけではなく、パラパラ捲りながら youtube を観ればできることでもありますから。

 極端なことを言えば全員が音を出す時に正面から撮るなんてことはAIまでもいかない自動撮影でいいと思うし、コンサートのキチッとした記録写真を撮ることは誰にでもできるんじゃないでしょうか。そこからどこまで踏み込むかによってカメラマンの個性が出る気がします。

----- 踏み込むというのは具体的にはどういうことですか?

 ひとつは演奏中に撮影する時に何をどう撮るかですね。

 現場では事前に立てた移動計画を頭に入れて、結構フィジカルに動きます。その時に考えているのは、演奏者に呼吸を合わせるとか、どういうバイオリズムで音が出ているのか、演奏している曲と本人の波長が合ったタイミングを探すとかなので、そこには撮る人間の個性が出ますよね。

 もうひとつは、僕の場合ですけど、演奏中以外のところ、演奏家自体にも興味があるんです。コンサートが氷山の一角だとしたら、その下には演奏家人生があるわけじゃないですか。ずーーーと深いところまで。その部分は生生しくて魅力的なので、そこをもう少し追いかけたらいいと思っています。

 例えば、コンサート本番当日なら、楽屋にいるシーンとか、舞台袖からステージに上がる前の彼らに触れたいという気持ちがあります。当然、今から演奏を始めるという人たちなんで凄くピリピリしている人もいるんですよね。ナーバスなシーンだからほんとにデリケートなんで、事務所の人も見ていて、中には近寄らせまいとする人もいます。そこでタイミングを探って、より演奏者の内面というか、コアに近いところに触れようとするっていうのは凄く、人がやらなきゃいけない作業だと思いますし、人によって感覚の違いが出るところだと思います。 

----- 昨年の初個展もピアニストの川口成彦さんのドキュメンタリー作品でしたね。

 ええ。この時は本番の日だけでなく、練習に行く道のりや楽屋での姿も撮りました。それを見てもらうことで、クラシック音楽家のステージ以外の姿というものも伝えたいと思いました。例えば、渋谷のスクランブル交差点で信号待ちしている時、隣に立っている青年が世界的なピアニストかもしれない。カフェの隣のテーブルでコーヒーカップを持っていたその手が凄い音楽を生み出す手かもしれない。そういうことに気づいてほしかったんですよね。

 展示期間中はたくさんの方に来ていただき、毎晩語り合えてほんとうに楽しかったです。

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初個展「受け取るもの」#1
2019/9/25-10/14  於 Bar 108-トウハチ- (写真提供: 平舘平氏)

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個展会場にて。ご両親、川口成彦さんと。(写真提供:平舘平氏)

タイトル・プロフィール写真: Ikuko Takahashi

続きはこちら >>>> 【part4】「曲と演奏家の躍動を写す」

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