音楽だけで生きていく！ ～フルート奏者 藤原雪氏インタビュー（第２回）

フルート奏者　藤原雪さんインタビュー　第２回です。（全４回）

音楽は生きる力になる

--- 短大の栄養科に進むにあたって、音楽はすっぱり諦めたのですか？

実は、その学校の夜間部に音楽療法士のコースがあって、昼は栄養学、夜は音楽療法を学ぼうと思いました。誰にも言わずに、絶対両方勉強しようと思いました。

それで音楽療法科に申し込みましたが、却下されました。校長先生に宛てて原稿用紙10枚くらいの手紙を書いて頼みましたが、それでもダメでした。音楽療法は栄養学と接点がなく、（栄養学の）勉強の負担になるから許可できないという理由でした。

---- なかなか厳しいですね。

その学校には音楽関係のサークルがハンドベルサークルしかなくて、そこには入りましたが、もっと音楽に触れる時間が欲しくて、サークルの顧問の先生にお願いして校長先生に一緒に掛け合っていただいたりしました。すっごい迷惑かけたなぁと思います、今では(笑)

それでも断られて、でも諦められずにいたら、そのハンドベルサークルの顧問の先生が見かねて、「わかった。こっそり聞きにきな」と言ってくれたんです。それでお金も払わずに講義を聴かせてもらいました。聴くだけでしたけど、当時の私にとってはほんとうに貴重な時間でした。

--- 学んでみていかがでしたか？

私にとって 「音楽は生きる力になる」と漠然と思ってきましたが、それが医学的にも証明されていることがわかって嬉しかったです。 やっぱりそうだよね、と。 

インタビュー会場に飾られた絵本の原画を眺めながら（神保町ブックハウスカフェにて）

「そうだ、東京へ行こう」

---- それで短大は無事に卒業されて、その後は山形で就職されたのですか？

はい、無事に卒業して、山形に戻って栄養士として就職しました。しかし、とっても忙しい職場で次々と社員が辞めてしまい、まだ二十歳過ぎの新人なのにいきなり事実上の責任者になってしまいました。

--- 大変でしたか？

大変でした。過労と心労で鬱になりながら仕事をしていましたね。

--- 何年くらい続けられたのですか？

３年です。親を喜ばせたいという気持ちがまだあって、３年は続けようと思っていて３年続けました。

そこで、震災が来たんです。2011年の震災の時に、電気も水道も止まって、食材も宮城や福島から仕入れていましたから何も入ってこなくなって、何もできなくて。

その時、疲れ果てて、そして…なんか急に思ったんです、「やりたいことをやろう」と。

--- それは、震災を体験して「いつ人生の終わりが来るかわからないから生きている間にやりたいことをやろう」という感じだったのですか？

後から意味をつければそうですが、その時はそれほど明確に意識したわけではなく、急にそう思って急に辞めちゃったんですよね。

神保町で見つけた楽譜を手に眼を輝かせる雪さん（神保町ブックハウスカフェにて）

私の失敗談が誰かの役に立てば

--- それで翌年に東京へ来られたのですね。それまでが暗黒時代だったというのは栄養士をされていた時のことですか？

それもありますが、実は高校生の時、お弁当をトイレで食べていたりしたこともあったんですよ～。

--- 最近、大学生や社会人でトイレでお弁当を食べる人がいると聞きました。それは一緒にお弁当を食べる人がいなくて、一人でお弁当を食べているところを見られるのが嫌だからだそうですが、雪さんの場合は逆に一人になりたかったということですね？

はい、そうです。中学高校と指揮者もやっていまして、尊敬される人間でなければならないと思っていたんです。「あいつにならついていこう」と思われるような。だから、困った顔とかしちゃいけないと思っていて。

でも、部活なんてうまくいかないことだらけじゃないですか？女ばかり100人もいて。休み時間の度にトイレに行って、お弁当もトイレで食べていました。

今にして思えば、指揮者だって人間なんだから弱いところを出せばよかったんですよね。でも「明るくしてなきゃ」っていうのが凄くありました。明るくしていると人が寄ってきてくれるじゃないですか。休み時間とか、登下校とかでも。それも実はしんどかったんです。一人の時間が欲しかった。

今は「ランチタイムは一人になりたい」と言ったりできる時代になってきたと感じていますが、その頃はそんなことは言えませんでした。

今でも、トイレでお弁当を食べていたなんてイメージが悪いと思われるかもしれませんけど、同じ境遇の人が勇気づけられてくれるなど、そういった自分の失敗談が誰かの役に立てばと思って、今はこうして話しています。

（第３回はこちら）

関連リンク：
藤原　雪　https://www.facebook.com/yukiflutist/