2024.12月 第2週の日記② 12/14(土)
12/14(土曜日)(熊本にて)
東京の朝より寒い。
風がややあって冷たい。
昨夜、飛行機はときどき揺れたけど、アナウンスの声や機内で配られたコンソメスープの温かさに安心して、いつの間にか寝ていた。
目が覚めると兵庫のあたり、明石海峡や小豆島の上空まで移動していた。速いなぁ。
遅れもあって、空港バスでホテルに着いたのは22時すぎ。
東京と同じテレビ番組がやっているけど、ニュースで地方放送局に移り変わると天気予報で映る地形がぜんぜんちがうことで、遠くへ来たんだなぁ、とハッとさせられる。
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今朝は自分のいびきの音で目が覚めた。
(いびきのしっぽを捕まえた、と私は呼ぶことにしている。)
どんな状態で寝たらこんなになるの?と言いたくなるほど、ベッドの様子が荒れていて寝相のわるさを思い知った。
朝食後、桜町バスターミナルまで歩く。
信号待ちで、うしろのひとが電話で話しているのが聞こえる。
そこで待っちゃきます
これは熊本の言葉なのかな。
バスの一日乗車券を購入して熊本城へ。
ガイドさんをお願いしてお城の周りを一緒に歩く。
お城の防御の工夫が面白い。
地震の影響による石垣の積み直し用の石もたくさん置かれていた。
石の面と面が合うように番地を振ってからコンピュータに取り込んで図にするそう。気の遠くなるような作業だと知る。崩れてしまった同じ材料を使って、そこに新たな技術も加えて再興されるのだそう。
ガイドさん、友だちのお母さんみたいな親しみやすく優しい方で、私のことにも興味を持って色々聞き出してくださった。
お別れするとき
寒くなかった?大丈夫?
と心配して肩のあたりをさすってくださった。
ご自身は手作りの資料を指差しながら、ふわふわのファーが付いた温かそうな手袋をしていらした。ひとり旅の心細さを紛らせてくださった。
再びバスに乗り、市役所前まで。
いちょうの葉がまだ色付いていてきれい。晴れてきて車内に差し込む光もきらきらしている。
停車する駅名、通りのことを筋と呼ぶんだ。大阪もそうだよね。
お昼は知り合いに教えてもらったお店でイタリアンをいただいた。
路地を入った、老若男女が集うおしゃれなお店で活気があった。
一旦ホテルに戻って気分を整えて。
今回の旅の目的地、
坂口恭平さんのMUSEUM、その近くにある橙書店さんへおじゃました。
宿からあまり遠くないはずなんだけど、少し迷ううち、古い建物の入り口に名刺くらいの大きさの小さな貼り紙を見つけた。
MUSEUMでは椅子の展示や分厚い画集を見せていただいた。椅子は金具を使わずにくり抜いてはめ込んで組み立ててあって、肘置きや背もたれも付いている。形は似ているけど少しずつ様子がちがっていて、ふたりで座れそうなものや腕のあたりの木が一本飛び出しているものもあって、手すり?立ち上がる時につかまるためのもの?それともカバンの持ち手をかけられるのかな?と想像したりした。金属を溶接して作ったようなものもあった。
静かで無骨でかわいらしい雰囲気の椅子たちで、向かい合ってなにか会話をしているようにも見えた。手作りなのがすごいな、と思った。
室内では、山の朝みたいな気持ちが良い音楽が流れていた。
MUSEUMと同じ建物の3階にある「FU」さんで、小さなビーズで作られたアクセサリーを旅の思い出に。
会話しながら小さな箱に丁寧に赤いリボンを結んでもらえて、心がぬくまった。
寒いですね、と声を掛けられて
熊本の方々にとっても今日はいつもよりも寒い日みたい。
時折、建物の中に路面電車が通る音が響いて、ここでの日常はこんな風に続いているんだなぁと少しだけ触れられた気がした。
橙書店さんでは、カウンター席に並ぶ常連さんと思われる方々の楽しそうな会話が聞こえた。たくさん並んだ本棚から東直子さんの『朝、空が見えます(ナナロク社)』という詩集を選んだ。
店内は次第に混み始めた。
店主さんに、東京から来ました、とか何か話してみようかなと思いながら何も言えなかった。
自分の道を歩んで世界をつくって表現しているひとたちの強さや積み重ねてきたもの。吹けば飛びそうな自分は怯みそうだった。それでもこんな風に時間が交わってうれしかった。
本も包まれた紙袋も栞もぜんぶ私にとってこの旅の宝物。
駅ビルのそばではクリスマスマーケットが開かれていて、何度か通り過ぎた。胸がいっぱいになり、うまく言えないこの気持ちはなんだろうな、と言葉を探しながら歩いた。なんだか晩ごはん食べなくてもいいかも、と思いながら。
(いずれちゃんとお腹が空くことも知っているのだが。)
またホテルに戻って気分を整えた(もはや巣穴のよう)。紅茶を飲みながら、ぼーっと過ごす。
しばらくして、そういえば今朝、
市役所の14階にある展望室からも熊本城を見ることができますよ、とガイドさんに教わったことを急に思い出し、夕方再出発。
行きがけに橙書店さんの前をもう一度通って、明かりが灯った店内の窓際の席で過ごすひとたちの様子を見上げた。
サンロード新市街アーケードをくぐり、下通りアーケードの方へ曲がる。屋根のある太い通りで若いひとたちで賑わっている。またも大阪の商店街の様子が重なった。
商店街を抜けると、辺りはすっかり暗くて、市役所のエレベーターを見つけるのに少し手こずった。
エレベーターの前でご家族連れと一緒になり、展望室一択だよね、と思いながらボタンを押すと、やっぱり同じ行き先だった。
無事に間に合って、遠くに白くライトアップされた熊本城を見ることができた。和やかな会話が聞こえるなか、なんとなくご家族連れと一緒に見て回った。
商店街へ戻り、晩ごはんに行きたかったお店、「紅蘭亭」さんへ。
お客さんがどんどんやってきて、やわらかい方言で接客するお姉さんが、
寒いなか入口でひとりがんばっていた。
お目当てだったタイピーエンは野菜やキクラゲがしゃきしゃき、春雨はつるつるして、海鮮のスープもとても美味しかった。
季節の牡蠣入りを選んだので、ゆずの千切りも乗っていて香りが良かった。
タイピーエンは、熊本では給食にも出てくるような定番のお料理なのだそう。
からだが冷えていたので、温かいお茶や食事はやっぱり良いな、と思った。
商店街を引き返して、駅ビルでお土産を購入してからホテルへ戻った。
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夜の時間はたっぷりあるので、部屋では顔のパックなどした。
テレビで観た、博士ちゃんの夢の紅白歌合戦がとても面白かった。
好きなことを語る博士ちゃんたちの表情が輝いていた。