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朗読キネマ「潮騒の祈り」と日本語表現
言葉の楽譜を奏でるという「idenshi195」さんの朗読キネマ公演を観てきました。
台本を「楽譜」と称する演目がどんな音を奏でるか、大変興味がありました。
日本語の母音
日本語は母音が5つしかなく、それがランダムに聞こえる言語です。私はその5つの母音をどれだけ自由に扱えるかが、声優レッスンをする上で重要と考え、指導しています。
人が咄嗟に気持ちを伝えようとする時に発するものは母音です。母音にこそ、気持ちは込めやすい。だから、セリフの中の「音」つまり母音に敏感になってほしい。
しかしながら、基礎練習時には母音を気にしてくれても、いざ台本に向かうと「音」のことを忘れ「文字の説明」になってしまうレッスン生が多いです。肝心なのは、気持ちを載せた「音」を聴かせることなのに。
朗読における母音と演技における母音の使い方
私は演技のために感情むき出しの母音を練習させます。ここ12年ほどは感情優先で声を出してもらいたいと、ボイトレ中心のカリキュラムで母音を鍛えることが多いです。
感情まみれの汚い音や、意図せず出る音を求めて練習しています。
ただ、25〜13年前の間は、アナウンスや朗読のための発声・発音指導もしていました。「潮騒の祈り」を鑑賞して、その頃に学んだことや気をつけたことを様々に思い出しました。朗読を練習したい方にはアナウンス基礎を含めた指導を行っていました。また、朗読の世界には明確な評価基準がありましたので、当時、朗読そのものも改めて勉強したんですよね。
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採点項目は写ってない箇所を含めますと、この四倍あります。朗読には明確な「万人に聴きやすく、理解しやすく」伝えるための基準がある。情報を扱うアナウンスよりも、朗読の方がこだわりが細かいと感じます。
なぜか。それは「音読する人間の主観を排除し、書いてある情報を聴きてに渡すのみ」「湧き上がる感情や風景は、読み手ではなく、聴きての中で自由なものとする」ためです。
私はいま、若い役者に表現の自由を与えています。しかし、朗読では、自由を得るのは観客であり、演者は「読まれる台本」そのものなのです。
日本人が発する「音」で表現をするidenshi195
「潮騒の祈り」はまさに朗読と言える演目でした。3人の役者がそれぞれに役割を持っていますが、3人でひとつの朗読を完成させています。しかも、BGMや効果音に場面の説明を任せることもありません。波の音は声で表現します。「ざざあぁ」等、日本語のきちんとしたオノマトペです。その波音が物語を綴る音と綺麗に重なり、音楽のような語りになります。
3人の声以外に何もない空間ですが、私の脳内には、アパートもスナックも海辺も見えていました。それこそ映画のように。観客が10人いれば、10人ともそれぞれの思い描く夜の海を、満月を思い浮かべていたでしょう。
なんというマジック。でも、そう。これこそが朗読の本質なのです。
仮名は音を表す記号
中ザワヒデキさんという芸術家がおられます。その方の「二声のポリフォニー」という音楽作品があります。演奏者2名が特に音の高低をつけず、日本語を朗読するようにひらがなを声にするというものです。
ナレーションや朗読の稽古で、私はこれを受講生に勉強させたこともあります。
楽譜の掲載はできないので、下手な真似ですが、いま書いたものを画像としてお見せしましょう。赤い枠で囲った中が楽譜です。
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Aさんが「こーーー」と4拍発音している間にBが「かきすせ……」と入っていくのです。
中ザワ先生の書かれたものは、どの音がどの音と重なると美しいか、拍数はいくつだと響きが美しいか、吟味されています。
その美しさを完成させるためには、子音と母音の発音が両者とも整っている必要があります。
「潮騒の祈り」はまるでこのポリフォニーのように、日本語の1音1音の重なり、つながりの美しさを吟味して書かれた朗読劇でした。
波の音すら人間の口から出てくる音で表現する。それにより、限界まで「人間」を感じ続ける、生々しい世界をみた感じがします。
改めて日本語って美しいな、奥が深いな、アートに向いている言語だなと思ったのでした。
日本語での芸術表現に興味のある方は、機会があれば、ぜひidenshi195さんの公演を体感してみてください。