まほろばへの旅
おうち大好きな私は
コロナ禍でますます
出掛けないようになったから
この度は久しぶりの電車の旅。
最寄り駅までは車
あとは電車を2回乗り継ぎ
片道2時間以上かけて行く。
2回目の乗り継ぎ駅までは
訪れたことのある地。
同じ感覚で乗り換えのホームに上がると
非常に戸惑うことになる
そこから先は未知の世界
その名も「万葉まほろば線」
まずは乗るべき電車の
扉が閉まっている。
手慣れた様子で「開」ボタンを押し
扉を開けて乗車する男性のあとに
すかさず続いて私も乗る。
ほっとして一旦シートに座ろうとしてから
扉を閉めないといけないのかもと思い
慌てて戻って「閉」ボタンを押す。
これが正解だったのかどうなのか
私には知る術はない。
無事電車が発車すると
次は耳を疑うようなアナウンスが流れる。
後ろの車両の扉は開きません
前の車両一番前の扉からお降りください
2両編成のこの電車
私の乗った1両目の車両には
左右それぞれ
3つの扉があるにもかかわらず
一番前から降りる決まりのよう。
慣れないシステムに私が驚いている間に
電車は次の駅に停車した。
すると「開」ボタンを押して
3つ目の扉から降りて行く人を
多数目撃する。
え!一番前じゃなくてもいいの?!
ますます私は困惑。
さらには運転席の方を見ると
運賃表があり
扉の横には
何やら箱のようなものも。
運賃は別料金で箱に入れるのか?
いやでも目的の駅までの料金で
切符を買ったはずだよね
私の脳内は一人で会話に大忙し。
駅に停車するたび
他の乗客の行動を観察しては
正解を探す。
私は目的の駅で
ちゃんと降りられるんだろうか
ドキドキ不安を感じながら
途中映画のワンシーンに出てきそうな
風情あるひなびた駅を通ったかと思えば
駅前にビルが立ち並ぶ
かなり開けた駅に着いた。
その駅では
全ての扉が開きます
とアナウンスが流れる。
私の降りる駅も迷う必要ないよう
全ての扉が開くことを強く願う。
私の願いが通じたわけでもないだろうけど
目的の駅では難なく降りられ
普段通り改札機に切符を通して駅を出た。
目指すは駅から徒歩0分と
説明のあったcafe bar。
道を横断するため
信号のない横断歩道の前で
立ち止まると
優良ドライバーなのか
すっと車が止まってくれた。
道を渡って商店街のような
細い道を入ればすぐ
アンティークなランプや
少し古びた感じの急な階段を備え付け
なんともいい雰囲気の外観を持った
目的地に到着した。
ここに来たお目当ては
大好きな人の歌声。
「スーパーソーシャルディスタンス」
タイトルの通り少人数の定員で
空間を贅沢に使った会場でのライブ。
しかも2部制で
その合間にライブ会場下にあるお店で
食事までできちゃうという
贅沢極まりないプラン。
ライブでは
彼が振るわせる空気を直に体で感じながら
マスク着用で声も出せない分
拍手や手拍子で私も返す。
私の目の前で彼が笑顔で楽しむ姿に
私も笑顔にならないはずはない。
食事はすぐには手をつけられない
熱々アヒージョなど
盛りだくさんのコース料理に
お腹も時間もめいっぱい使って大満足。
夢のような3時間の幸せは
何文字使っても書ききれないけれど
この17行書くのと同じくらい
あっという間。
2時間以上かかる帰路に着く。
同じ横断歩道で
車が通り過ぎるのを待とうとすると
これまたすっと止まってくれる。
なんとも温かみあるこの街が
すっかり気に入ってしまった。
駅のホームで電車を待っていると
さきほどまで同じ空間で楽しんでいた
50代の男性ファンと一緒になる。
面識はあってもゆっくり話すのは初めて。
音楽の話、家族の話、地元の話と
話題は尽きない。
あまりにも楽しすぎて
私が乗り継ぎする駅に
到着したところで
彼の乗り継ぎする駅を
通り越してしまっていたことを知る。
「喋りすぎました!ごめんなさい!」
謝る私に
「いいよ、いいよ」
優しく返してくれる紳士な彼。
こども達が寝静まるわが家に帰って
旅の余韻に浸りながら
「まほろば」の意味を調べてみると
素晴らしい場所、住みよい場所、楽園
とある。
大好きな人に会いに行った
ドキドキの旅は
まさに「まほろば」への旅。
そして大切な人達の元に帰る
楽しすぎた旅も
同じく「まほろば」への旅。
たまのとてつもない幸せを
感じさせてくれたあの場所も
いつもちょっとした幸せを
感じさせてくれるこの家も
私にとっての楽園なのだ。