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いつくしむ

朝夕涼しくなってきた9月最終日に
ポストに届いたクリーニング屋のチラシ

羽根布団30%オフとある。

冬を気持ちよく迎えられるよう
これを機に
羽根布団をクリーニングに
出すことにする。

そういえばコロナ禍を言い訳にして
8月に遅ればせながら
クリーニングに出したコート達を

まだ引き取りに行ってないことに
2ヶ月経った今気づく。




翌日布団カバーをうちで洗濯しながら
羽根布団を送り出し
コートを迎え入れるため

クリーニング屋へいざ向かおうとすると
つい先ほどまで目にしていた
割引のチラシが見当たらない。

自分の動線を可能な限り思い起こし
リビングもキッチンも
洗面所まで確認しても

捨てたはずはないのに
どこにもない。

恥ずかしながら
こんなことはよくあること。

しばらく探した後に諦めて
割引が受けられず損した気分になってでも
今行こうとした意思を尊重して
家を出ようとしたら

リビングのベンチと壁の隙間に
落ちているチラシに気づき
間に合ったとほくそ笑む。

執着するのを止めた途端
手に入るのもよくあること。



うちから車で15分ほど
コインランドリー併設の
クリーニング屋。

駐車場で車を降りたら
隣に停まっていた車の運転席で
お姉さんが揚げ物を
頬張っているところを目撃する。

私にそんなところを見られて
恥ずかしいかなと思いながら
車から羽根布団を抱え出し

店内に入った途端
私の足は止まる。

コインランドリーの洗濯機は
稼働しているけれど
クリーニング屋の受付は
シャッターが下りている。

10月より当面の間
木曜日を定休日とさせていただきます

そう書かれた案内を
私が見ているその日は
10月1日木曜日。

ポスティングされた翌日10月初日から
突然始まった定休日。

クリーニング屋への文句の独り言を
思わず声に出してしまったあと

もしかしてチラシにお知らせが
載っていたかもと思い直し
確認してみるも
年中無休の表記のみ。

入口から羽根布団抱えたまま
すぐに引き返す私の方が
さっきのお姉さんより
よっぽど恥ずかしい。

そんな羞恥心と
落胆からくる苛立ちと
したかったことが達成できない
フラストレーションで
私の心はいっぱい。



しかしふと冷静になって
考えてみると

昨シーズン活躍してくれたコートを
2ヶ月も預けっぱなし放ったらかしの
私の方がよっぽどひどい。

これが恋人だったら
2ヶ月も音信不通の上
突然会いに行ったところで
そっぽ向かれても当然。

妙に納得して出直すことに。



翌日最低限のおうち用事を
さっさと済ませたら
またクリーニング屋へ向かう。

クリーニング屋に行く道中
こんなにわくわくしたことは
今までない。

寒さから私を守ってくれるコート達と
久しぶりのご対面。

長い間預かってくれていたお店に
心からありがとうを言う。

長い間待っていてくれたコート達には
愛しさが溢れる。

愛しのコートにくるまれて
会いたい人に会いに行く日を思い描くと
その人への愛しさも溢れてくる。

大の寒がりの私が
冬を越すために欠かせない羽根布団は
すぐに迎えに行くぞと
心に誓う。



家に帰ったら掃除嫌いの私が
狭い隙間に埃がたまりにたまった
浴室のドアを掃除し始める。

そんな無機質なものでさえ
その存在がありがたく思えて
きちんと手入れしたくなったのだ。

あるものいっぱいもて余していた
私に足りなかったのは
いつくしむ心と感謝の気持ち。

なくてもいいもの手放して
好きなものと必要なものだけに
囲まれたなら

きっと心は愛しさとありがとうで
埋め尽くされて
あるもの一つ一つを
大切にしたくなるんだ。



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さいちゃん
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