いつか、失くなってしまうかもしれない、きらきらした学童の毎日 2日目
2日目 4/20(木)
「やだ!!やだやだやだやだ!やだ!や!だ!」
「こうきくん。先生のお話し聞いて?」
「やあだ!やだ!やだやだやだやだやだあー!」
やだやだしか言わなくなってしまった。
さてと。一体、どうすればいいんだろう…。。。
「こうきお帰りー」
「ただいま!」
相方の指導員につれられ、こうき君が帰ってきた。新1年生なので、帰りが他の子よりも早い。
「ねえねえ。紙飛行機で勝負しよ?はやくはやく!」
少し、舌足らずな声が私を遊びに誘う。
「いいよ。紙飛行機?ひとみん持ってないから作るわ。調べるからちょっと待って」
「僕が作ってあげるから!」
まず、こうしてね、こうして、ここを折って、こうして…といいながら、あっという間に紙飛行機を作ってしまう。
「おお。上手に作るねぇ…」
満更でもなさそうなこうき君。出来上がった紙飛行機に(なぜか)スタンプを押して、完成。
「じゃあ、早く勝負しよ!はやくはやく!」
「わかったからわかったから」
半ば引きずられるような形で部屋の端っこに立った。
「先生、お先にどうぞ?」
「いいの?投げちゃうよ?」
すい~と、遠くまで飛んでいく飛行機。なかなか、良いのではなかろうか。
「じゃあ次、ぼくね」
こうきくんが飛ばした飛行機は、惜しくも、私が投げたのには及ばなかった。
「あー惜しかったね。でも、この勝負は私の勝ちだ」
「違うよ!飛ばなかった方の勝ちだもん」
そう来たか。
彼は、出来ないこと、負けることに対しての抵抗感がすごいということが、この数日でわかってきた。だから、自分が勝つために、ずるい手も使うのだ。お兄ちゃんと、それでしばしば喧嘩することもあるらしい。
「えーーそう言うこと?じゃあ、私の負けだなあ」
そうぼやくと、途端に嬉しそうな表情になる。勝ったことが嬉しいのか。それとも、『自分が勝ったことを認めてくれた』のが嬉しいのか。
「ねえねえ。次は、アイロンビーズやりたい」
昨日、アルバイトのあいちゃんと作っていた立体ミニオンのことだ。
「いいけど…。。私、作り方わからないよ?」
そう言いながら、資料を引っ張りだし、検索をかけながら組み立てを開始する。
「ここを、こうするんだよ」
こうき君は、設計図を全くみないで、記憶のミニオンを頼りに自分で組み立ててみている。私は、足りないパーツをアイロンビーズで作っていた。
「できた!」
え。足りないパーツあるのに。もう?
そう思って手にしたミニオンを見てみると、確かに、ミニオンっぽい形には組上がっている。記憶を頼りにしているのに、よくここまで組み上げたものだ。
「できたじゃん!確かに、ミニオン…」
ふと、パーツの入っていたケースに目をやると、そこには、いくつものパーツが残っている。
「パーツ残ってるよ?」
「いいの!もう1個作れるの!」
いや、作れんて。
よく見てみると、こうき君の手にしたミニオンは綺麗な長方形ではなく、縦長な台形になっていた。微妙に、組み立てかたが違うらしい。
こんなとき、どうしたらいいのか。指導員としても未熟な私はいつも迷ってしまう。
本人が完成した。と言っているのだから、それで『完成』としてあげて良いとは思う。けれど、そうなると、残ったパーツはどうするのか。確かに、足りないパーツを作り直して、『もう1個』作ることは可能だが…。。。
うーん…と悩んだ結果、こうき君に許可を得て、最初から作ってみることにする。嫌がるかな…と思っていたが、手の付け方がわからなかったこともあってか、すんなりと受け入れてくれた。と、そんな矢先。
「こんにちはー。こうき君、いますか?」
そう言って現れたのは、放課後デイサービスの職員。こうき君は、普段ここともう1つ、デイサービスにも通っている。
「あーーー。作り終わらなかったね。どうする?これ」
すっごく嫌そうな顔。完成したの、見せたかったんだろうなあ…。
「じゃあ、袋にいれてあげるよ。パーツ全部。そしたら、向こうで完成できるよね」
そう言うと納得したらしく、「袋いれる」と、私を急かし始めた。
と、ここまでは良かった。
あの、些細な出来事が起きるまでは。
「あ」
デイサービスの先生がそうもらした。見ると、こうき君が持っていたミニオンの手が完全にとれてしまっている。
絶句するこうき君(ちなみに、アイロンビーズだかはアイロン使えば速攻で直る)
「とれちゃったね。でも大丈夫。うちにもアイロンあるから、向こう行ってからつけてあげるよ」
先生が、そう言ってくれる。が。
「やだ」
こうき君からの完全な否定が入った。
「そんなこと言わないで。これから、ひかちゃんとか、あゆくんとか迎えに行かないといけないの」
「やだ。やあだー!」
もどかしそうに、地団駄を踏みながら、『やだ』を繰り返す。
「ね。向こう行ったら、ちゃんとつけられるからさ」
「つけられなかったらどうするの?時間なかったら?」
「あるよ。絶対にある。大丈夫だから」
「やだ。やだやだやだやだ!」
そう言いながら、こうき君は壁に張ってあるチラシをぐしゃぐしゃにしてしまった。(まあ、処分する予定だったからいいけど)
「やだ!!やだやだやだやだ!やだ!や!だ!」
「こうきくん。先生のお話し聞いて?」
「やあだ!やだ!やだやだやだやだやだあー!」
やだやだしか言わなくなってしまった。
さてと。一体、どうすればいいんだろう…。。。
こんなときも、どう導いていいのかわからなくなってしまう。正直、一番早いのは、この場で手を直してしまうことだろう。けれど、そうすると放課後デイさんの方は『こうきの言うことを聞いてくれなかった人』と認識されてしまうのではないだろうか。少なくとも、放課後デイさんでは、『向こうで直す』ことを提案しているのだから。そこに、学童クラブの私が口出しして良いのだろうか。
そう思うと、ただ、こうき君の側にいることしかできない。何も口を出さず、見守ることしかできない。
結局、『やだ』の猛攻に折れたデイの先生が、「すみませんが、直していただけることは可能ですか?」と問いかけてくださったので、動くことができた。
それなら、最初から提案してすぐに直してあげれば良かった。
後悔後先に立たずとは、まさにこの事だ。
思った通り、秒で直すことができた。それをもって、問題なくこうき君もデイに向かってくれる。
ふう。と、ため息を1つついた。
まだまだ、私は未熟だ。
余談だが、次の日、デイの先生に訪ねると、結局、デイでは全く作らず、そのまま家に持ち帰ったらしい。そこから、私は、こうき君の心情を考えてみた。
こうき君はもしかしたら、デイでやりたいことが決まっていたのかもしれない。デイでアイロンビーズに手をつけてしまったら、他のやりたいことができなくなってしまう。
あるいは、ミニオンを『完成させることができない』未来が怖かったのかもしれない。『今』やれば、自分の納得いく形で持っていくことができる。
こうき君は、常に『今』を見ている。よくそれを、『見通しができない』と言われるが、もしかしたら、『ある程度の見通しは立っているが、その中に今やりたいことが入っていない』が正しいのかもしれない。
結局、彼の『今』やりたいことを後回しにして欲しいというのは、時間に縛られた大人の都合だ。彼らは、彼らなりに考えて、『今』やりたい。と結論付けているのでは、と思う。
さてと。その思いと、大人の思い、考えや予定と、どう折り合いをつけていくのか。
それが、これからの課題で、ずっと考え続けていくことなんだろうな。と感じた出来事だった。
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