「パートナーとはどう?」と聞いてくる、私の自慢のおばあちゃん
今日は、私の大好きなおばあちゃんの話。
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おばあちゃんの作るドーナツが好き。
おばあちゃんの作る天ぷらが好き。
おばあちゃんの作る甘いカフェオレが好き。
おばあちゃんが、今でも亡くなったおじいちゃんを大好きな所が好き。
今でもお菓子が大好きなおばあちゃんが好き。
私の話を楽しそうに聞いてくれるおばあちゃんが好き。
おばあちゃんとする子供みたいな痴話喧嘩が好き。
おばあちゃんの好きな所は、たくさん。
ただ、おばあちゃんの一番好きな所は(本人に自覚はないだろうが)、彼女がフェミニストであるところだ。
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彼女は、今年で88歳になります。
島生まれ、島育ち。
彼女が結婚したのは、1950年代。
その時代に珍しく、恋愛結婚でした。
彼女は、その後、6人もの子供を産みました。
(のちに、そのうちの一人が私の母になります)
そんなに子供がいるなんて!
じゃあ、彼女は専業主婦だっかのか?
否。
大工さんでした。(片割れに農業も)
男性たちに混じって、足場を作ったり、建物の基礎を作ったりしてたそうです。
祖父はタクシー運転手として働き、祖母と2人で、6人の子供を育てあげました。
それから、忘れちゃいけないのが、祖父母は敬虔なクリスチャンということ。隠れキリシタンの末裔ですね。
祖父母はもちろん、母たちも洗礼を受けたクリスチャンです。朝と寝る前にはお祈りするし、日曜日にはミサに行きます。
そんな社会で育ってきた祖母。
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祖母が産んだ、6人の子供たちは、長女 次女 長男 三女 四女 五女という構成です。
その彼女ら/彼らの今を知れば、祖母をフェミニストだと感じる理由もお分かりいただけるのと思うので、話していきましょう。
6人いた子供たちのうち結婚をしたのは、私の母を含めて4人だけ。
もう少し細かく話すなら、結婚していたのが2人と、結婚しているのが2人。
過去形の2人が、私の母(四女)と長女。
そして、現在進行形が、長男と今年(56歳)に結婚した次女。
島は、本当に閉鎖的です。
よく言えば、ご近所づきあいが濃厚?とかでしょうか。
そんなコミュニティで、長女が結婚した相手は、幸か不幸か同じ島の人でした。詳しく理由は知りませんが、結局、すぐに離婚することになったそうです。
島民同士の離婚は、かなり面倒です。イエ同士の利益最大化問題を解くのが結婚だ!という風潮が残っていますからね。
それでも、祖母は長女に言ったそうです。「そんな無理して一緒にいなくてもいい。イエ同士のことなんか気にしなくていい。だから、離婚しなさい。」と。
祖母が、恋愛結婚だったからなのか「愛」や「家族」に対する考え方が、ステレオタイプを素直に受け入れるような人じゃなかったんでしょう。
あくまで想像ですが、祖母は祖母なりに「結婚」への考え方を持っていたから、長女にそんな言葉をかけられたんじゃないのかなと思うんです。
その後、長女は島を出ましたが、祖父母はそのまま島に住み続けていたわけですから、きっと面倒なことがたくさんあったはずです。
それでも、それを長女に話してきたことは一度もなかったそうです。
私が、当時のことを聞いても、「そんなことは、この歳になったら忘れてしまった!」と言います。「かっこいいなぁ」と思います。
それから、田舎ほど「結婚こそ女の幸せ」という風潮があることはご存知の通りかと思います。
しかし、祖父母の口から「いつ結婚するの?」「孫の顔が見たい」なんていう典型的な嫌味を、叔母たちにかけているところは一度も見たことがありません。それに、叔母たちも「そんなこと、お母さんから言われない。」と言います。
「結婚していなくたって幸せ」という言葉を、叔母たちは、まさに体現しているような人たちです。
そんな叔母たちのおかげもあって、私は「家族」「結婚」「出産」に関しては、子供の頃から、広い視野を持てていたと思います。
「なんで結婚しないの?」なんて聞いたこともあるけど、「今、幸せだからだよ」「今、これで楽しく生きてるからね」この言葉で、上手く言葉にはできないけどなんだか納得できました。
そして、そんな叔母たちの生き方を応援した祖父母が大好きです。
きっとこれも、祖父母が一番、世間の無意識な嫌味に晒されてきたと思うんです。ご近所さんや、親戚から「いつお宅のお嬢さんは結婚するの?」ってね。
それでも、それを叔母たちには絶対に口にしなかった。
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さて、島では、何かの集まりごとがあるたびに、親戚やらご近所さんが地区会館に集まって、みんなで宴会をします。
さぁここでは、お決まりの男女の構図が待ち受けています。
男性陣は、宴会になると、お箸とコップを持つ握力しかないようで、顔を真っ赤にして楽しそうに、ご馳走に舌鼓を打っています。
一方、女性陣は、宴会の時は万能の神にでもなるようで、エプロンをつけて食べ物の準備やら配膳やら、お酌やらにせっせと働いていました。彼女たちは、お腹も空かなければ、足も疲れないようでした。私から見たら、神でした。
私は、親戚の中では一番遠いところに住んでいたので、数年ぶりに私たちが祖父母の家に帰るたびに、この理解不能な宴会が行われます。
私は、この通りひねくれているところがあるので、帰省する度に行われる宴会で、「お手伝いして!」「まだ、ご飯食べちゃダメ!」なんて怒られても、「意味わからん!なんで、帰ってきたからご馳走を出してくれてるのに、温かいうちに食べたらあかんねん!」と、頑固に座って、もぐもぐご飯を食べ続けているような子でした。(あっ、これは現在進行形です。)
それでも、祖母には宴会を手伝わなくて怒られたことが一回もありませんでした。(そりゃあ、孫だから可愛いだけかもしれないですけど。)
「気にしなくていいから、たんと食べな。」といってくれるような、おばあちゃんなんです。
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話は、今年まで進みます。
病気になったのもあって、ひたすらゆっくりしたくなった私は、今年の5月に祖父の葬式ぶりに祖母の家に帰りました。
祖母は、祖父のことが大好きでした。無口だった祖父だけど、二人は言葉を交わさなくたって愛を与え合っていたんです。
だから、祖父が急に亡くなってからというもの、ただでさえ小さな背中が、一段と小さくなりました。
「おじいちゃんがいなくなって寂しいよね。」と私が聞くと、「そんなの寂しいに決まってる!」と怒ってきます。
そして、机の下に大事そうに置かれた茶封筒を見せてくれました。
その中には、二人が結婚したばかりの頃に撮影されたモノクロの写真が入っていました。(カバー写真がその写真です)
「この頃のおじいちゃん、イケメンだね」というと、「よく言うよ〜!」といいながら、嬉しそうに照れて笑う祖母がとっても可愛かったです。
こんな会話から、おばあちゃんと私の近状報告と恋バナが始まりました。
私が大学院に進学したこと。どんな会社に就職するか。どんなことに興味があって、どんな勉強をしているのか。私の恋人がどんな人なのか。恋人との将来はどう考えているのか。
そんな話をしました。
どんな、返事がくるんだろうと思っていました。
祖母の返事はこんな感じでした。
「(私)は、勉強が楽しいんやね。好きなだけ好きなことをしたらいい」
「今は、フェミニズムに興味があるんか。難しくてよくわからんけど、「旦那」「主人」「彼氏」じゃなくて、「パートナー」って言う方がいいんだね」
「あばあちゃんには、なんで夫婦同姓がそんなに嫌なのかわからんけど、好きな方を選べる方がいいって言うのはわかる」
「周りになんて言われても、(私)とパートナーが幸せな道を選んだらいい」
てっきり、「そんな話はよくはわからん!」で終わりにされるかと思っていたので、なんだか意外でした。
それからも、恋人について聞くときには、
「あれなんだったかな。あ、そうそう!パートナー!パートナーとはうまくやってるの?」と聞いてきます。
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彼女は、中卒です。それに、ずっと仕事と育児に追われてきた人だから、フェミニズムなんて勉強したこともなければ、私が軽く説明したことくらいしかフェミニズムについて知らないと思います。だから、自分がフェミニストだなんて全く自覚がないはずです。
それでも、
・お見合いではなく恋愛結婚を選んだこと
・男性に混じって立派に仕事をしてきた姿
・典型的な結婚観を押し付けない姿
・自分の意思はもちろん、私や叔母たちの意思を精一杯理解し、尊重しようとしてくれる姿(一生懸命“パートナー”って使ってくれるんです)
その全部が性別というラベルを押し付けた差別をしないし、そんな差別に負けないぞ!という言動に感じます。
そして、それをずっと実践してきた彼女は、立派なフェミニストです。
こんな祖母も、こんな祖母に育ててもらった母や叔母たちも、私は大好きです。
そして、尊敬しています。こんな素敵なフェミニストが、私のおばあちゃんだなんて、私の自慢になるかもしれません。
いえ、これは断定形ですね。
「私の自慢のおばあちゃんです」
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お年寄りには、「老害」と言いたくなるような人も少なからずいます。
電車で、「席は、年寄りに譲って当たり前だろ?」と怒鳴る元気のある老人
セルフレジのスーパーで、上手く使えないことを店員に怒る老人
何につけても「これだから、最近の若者は、、、」と言ってくる老人
「昔は良かった」と嘆く老人
だからこそ、私は「若者」とか「性別」とか「時代」とかそういうラベルを言い訳にせず、真正面から「今」の「私」に向き合ってくれる祖母は、本当に素敵な人だと感じます。
祖母のような素敵なお年寄りもきっとたくさんいて、私たち若者も、彼女ら/彼らから学ぶべきことがきっとたくさんあります。
若者もお年寄りも、みんながきちんと向き合える社会になるといいな。
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こんな文章を書いていたらおばあちゃんの声が聞きたくなりました。
今から、電話でもかけてみます。
まだまだ、長生きしてもらって、たくさん私の話を聞いてもらわなきゃいけないから。