真夏のサンタ帽🎄
2020年夏。世界中に不思議な光景が広がった。
クリスマスでも無いのに町の全ての皆がサンタの帽子を被っているのだ。
この現象の発端は8月24日の夜に起こった。世界中の人類一人ひとりにプレゼントが配られたのだ。
その中身はサンタクロースの帽子。
そしてサンタ帽と一緒に手紙が添えられていた。
1週間の魔法。8月25日から8月31日まで、このサンタ帽を被っていればコロナにかかりません。今コロナの人もこの期間だけは人にうつすことはありません。苦しみに耐え忍んでいる皆さんへの少し早いクリスマスプレゼントです。--世界サンタクロース協会より
日本人の健もこの手紙を25日の早朝に読んだ。初めは信じなかったが、SNSやTVを見て驚く。速報がどんどん流れているのだ。
TVの中のキャスターが平然と語り出す。
えー本日25日から31日までの1週間はスペシャルウィークです。様々なイベントも用意されているようです。皆さんお手元に届いたサンタ帽を必ず被って思い思いに過ごしてください。仕事は全てサンタが作ったおもちゃ達が変わりにしてくれるので気になさらず。
よく見ればこのキャスターもおもちゃの人形だ。
キャスターはその後も淡々と読み上げる。
そして本日は25日ですので、クリスマスが開催される模様です。
各街の駅周辺で開催しますので是非参加してみてください。
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健はこのニュースを聞いてすぐに遠距離恋愛中の舞に連絡した。
見た?あのニュース
そうそう。にわかには信じかたいけど騙されたと思って今日君に会いに行くよ。
健は大阪に住んでいて、舞は東京に住んでいる。コロナが猛威をふるいだして半年間二人は一度も会うことができていなかった。
舞は言う。うん、待ってる。
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その後、健は最低限の身支度とサンタ帽を手に取り外に出ようとした。外に出た瞬間、手に持っていたサンタ帽が勝手に頭に移動した。
健はつぶやく。うげぇ、サンタってすげぇな。
そして健は新幹線に飛び乗り東京へ。
道中会う人全員がサンタ帽を被っていた。
車掌も警察もだ。
ともすれば異様な光景だが、健は前だけ向いていた。東京にいる舞の姿だけを思い浮かべていた。
そうしている間に東京駅に着いた。そこからまた電車を乗り継ぎ、喜多見駅に着いた。そうここが舞が住む街だ。なぜこんな所に住んでいるのか聞いたことがある。
健くんここはね、新宿にも、私の好きな下北沢にも電車一本でいけるのよ。それに隣駅はあの成城学園前よ。セレブの気分にも浸れるのよ。
そうやって田舎から出てきた舞が東京を語る姿がなんだか可愛いかった。
しかし改札を出ても舞の姿は無かった。焦って舞に電話をかけながら駅を飛び出した。
そこに立っていたのは見たこともない大きさのクリスマスツリーだ。普段は無機質なこの喜多見駅周辺がこのクリスマスツリーの存在により、一気にムード満点になっている。
そんなクリスマスツリーを眺めている子がいた。
舞だ。夢見心地でツリーを見ている。
僕はそっと舞の隣に立ち、優しく手を握った。
舞は一瞬びくっとしたが、僕の存在に気づき優しく手を握り返してきた。
この半年間届かなかった1ミリの壁が打ち破られたのだ。
TV電話越しに何度手を合わせたか、何度舞の顔を撫でたか。その一瞬は少しだけ気が紛れたが、電話を切った後に寂しさの反動が津波のように襲ってきた。
たった1ミリなのに。1ミリ先に君がいるのに、触れることができないのだ。
それが今、やっとこうして触れ合うことができた。決して力いっぱい手を繋いでいるわけではない。でもそれで充分だ。触れ合っているだけで愛が、愛が流れ込んでくるのだ。なんて温かいんだ。
サンタさんありがとう。
健と舞はクリスマスツリーのさらに上空を眺めながらそう囁いた。
後方では、山下達郎ではなくサザンの曲が優しく鳴り響いていた。
🎄続く