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ハチミツはお好みで 短編小説
ハチミツはお好みで
とアサイーボウルの作り方に書いてあって、焦っている。
お好みの量が知りたいから、わざわざ検索してまで作り方を調べているのに、これじゃ何も解決しないじゃないか。困る。
しかもこのレシピだけが特別にそうやって書いているのではなくて、人気レシピのランキングトップ5全てに、ハチミツはお好みで、と書いてある。
だから、自分の考えが間違っていて、ハチミツはお好みなのがアサイーボウル界隈の常識なのかと思い始めていた。
今度後輩にアサイーボウルの作り方を教える時も、ハチミツはお好みでって伝えてあげようとさえ考え始めていた。(そんな後輩はいないんだけどね)
それでも当初の目的を果たしたい欲がまだ残っていたし、もう少しだけ調べてみることにした。
そしたらランキング8位のレシピで念願叶った。
ハチミツの分量を明記してくれていたのだ。
そこにはこう記されていた
ハチミツ、小さじ一杯(甘いのお好きな方は)
…え、という声と同時に両目は見開いていた。鼻の穴も見開いていた。これはあれだ長期連載漫画の20年来の伏線が解明された時と同じ時の表情だ。それくらい驚いた。
甘いのお好きな方でさえ小さじ一杯なのか。
大さじ
の間違いかと思って、何度か同じ箇所を見てみたが、そこには間違いなく小さじ一杯と記してあった。
ふざけんな
甘いのお好きな方が小さじ一杯のハチミツで満足できるわけない。
あーわかったわかった
俺が真の甘いのお好きな方を代表して手本を見せてやるよ。
そうして俺は大量のハチミツを自作のアサイーボウルにかけてやった。そしてすぐさま食ってやった。
ヘルシーな果物やグラノーラたちはハチミツでぬりたぐられた。
そんなアサイーボウルは甘さの限界を突破していたが、実に美味しかった。
こうして、ハチミツたっぷりのアサイーボウルを堪能した俺は、歯を磨こうと洗面所に立った。
そしたら、お気に入りの寝巻きがわりにしているアディダスのジャージにハチミツがこびりついていることに気がついた。
その時、久しぶりにアディダスのロゴを見た。
俺のアディダスロゴは着すぎてほぼロゴが消えかかっていた。
文字で表現するなら、adidasでもアディダスでもなく、ふにゃふにゃな、あでぇだぁす。
なんて情け無いロゴだ。
そしてその時もう一つ気づいた。
ハチミツの分量なんて気にせずに食パンにありったけのハチミツを塗って食べていた直近の彼女とさえ別れてから10年も経つことに。
そりゃアディダスのロゴだって変化する。
変化してないのは俺だけだった。
いや、
いやいや、違った。
ハチミツも10年前もハチミツだったよな。
食パンにかけるか、アサイーボウルにかけるかは変わってもハチミツはハチミツのままだ。いつでも甘くて栄養もあるらしくて美味しい。
ハチミツのおかげで、なんだ変わるのってそんなもんで良いのかって気になった。
そう思えた俺はユニクロで新しいスウェットを購入し、長年連れ添ったアディダスジャージを燃えるゴミに出した。
鏡の前には10年前と変わらずドラゴンボールの絵の入ったスウェットを着た俺。
ただ新しい。
人は中々変わらないけど、変わることはできるってのは、こういうことか、と妙に納得した。
次はこの真新しいスウェットを着て近所のスーパーに出かけてみよう。
そう決心した俺の後頭部あたりで春の鳥が鳴く気配がした。
終
◇余談◇
アサイーボウルにハチミツたっぷりかける派です。ドラゴンボールのスウェット今日買ったのも、アディダスの服捨てたのも実話です。DRAGONBALLのロゴの下に小さく白くカタカナでドラゴンボールって書いてあるのが可愛くってお気に入りです。日本人は漢字、カタカナ、平仮名、ローマ字って色んな言葉を組み合わせ使えるから良きです。
良き三連休をお過ごしくださいませ。
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