演奏ベクトルについて(2)
前回のテーマを引き継ぎ、演奏における“引っ張り”の感覚についてお話ししたいと思います。
「ピアノを弾く」というと、鍵盤を押し込むイメージを持たれるかもしれませんが、セミコン・フルコンといったコンサートホール仕様の大型ピアノを弾きこなすためには、鍵盤を押すのではなく、鍵盤を斜め方向のベクトルに引っ張る感覚が必要です。
では、「引っ張る感覚」を実践してみましょう。
まず鍵盤上で和音を掴む形に手を構えて、それを、親指と小指の打点が鍵盤ギリギリのラインにまで来るように手前に引っ張ってきます。そこで止めて下さい。止まったら、指の先が鍵盤に吸着しているイメージを持って下さい。吸着しているということは、くっついて離れないのですから、その状態で身体の方に斜めに引っ張れるはずです。同時に、手のひらの筋肉が稼働している感覚を持てると良いです。奏者の「腕の付け根」と「鍵盤」を斜めに結ぶベクトルがありますが、その方向性を自然に生かすとうまく引っ張れると思います。結果、手のひらの中心点は、鍵盤の外になります。
この「手のひらの中心点が鍵盤の外にある感覚」、とても大事です。
力の方向性=演奏ベクトルは斜めです。斜めに引っ張り、斜めにパワーを注入です。(手指の動作が全部鍵盤上で収まっているのは、非常に弾きにくいはずです)
これはロマン派奏法に要求される演奏動作のひとつですが、時代別の奏法については、ロマン派を含め次回お話したいと思います。
ピアノは樹木で出来ています。文明の発達とともに大自然の営みとは少しずつ離れた人間ですが、そんな私たちに懐かしい樹木への記憶を思い出させてくれるのが楽器なんですね。