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【DCP】 DCPは自分でも作れる、けれど(1)データ作成編

 映画館で上映される映画は「DCP(Digital Cinema Package)」というデジタルファイルで作成されています。
 そのDCP、よくわからんし、なんか業者に頼むとめちゃ高いし、と障壁になっていたり、こんなん自分で作れる!と作成してみて実際上映してみると思い通りに行かなかったり、と、常々色々な話を聞きます。
 筆者は、自身が関わる映画の多くで、上映用のDCPの作成までをお仕事として行います。最近では色々な情報もインターネットで集めることもでき、少しはDCPへのハードルが下がってきたかなと思いますが、それでもまだまだトラップは残されており、多くのインディーズ映画制作者が困っているのかなと思います。
 自分の仕事が減るかもしれないけど、解説してみようかなと。


DCPとは

 エジソンやリュミエール兄弟の名前を出して、長々と映画の起源から解説してもいいですが、そこは他の方に任せます。長らくフイルムで上映されていた映画は、2000年代に入ると、徐々にフイルムではなく、DCPと言われるデジタルデータでの上映に置き換わっていきました。現在では新作映画のほぼ99.9%がDCPで制作・上映されています。(フイルム撮影でも)

 では、DCPとはどのようなものでしょうか?

 DCP、Digital Cinema Packageは映画館で映画を上映するデータです。従来のフイルムに映像を記録する形と違い、パソコン上で作成できるデジタルデータであることからも、多少のお金(パソコンやソフトウェア)と時間があれば誰でも作成できるようになりました。

 しかし、デジタルデータと言えど、何をどうすればいいのか。実際作ってみても、劇場からこれじゃダメと言われることも。

 DCPとは

DCPの中身、いくつかのファイルで構成されたフォルダ構造
  • 映像ファイル

  • 音声ファイル

  • コンポジション・プレイ・リスト(CPL)DCP内のデータの上映順などを記載したファイル

  • パッキングリスト(PKL)ハッシュリストを用いてデータが壊れていないか確認

  • アセットマップ どんなデータがDCPに入っているかの目次のようなファイル

  • ボリュームインデックス 複数メディアに分かれているデータなどの参照情報

などのファイルで構成されたフォルダ単位のデータです。KDMや字幕などなど、これ以外にも必要に応じてデータは増えます。

 映像の部分に注目してみますと、XYZという色空間、白色点約6300K、ガンマ2.6、12bitのJPEG2000でエンコードされた静止画連番をMXFでラッピングしたファイル。フレームサイズは、2Kの場合、2048*1080(フルコンテナ)を最大に、ビスタ(Flat)で1998*1080、シネスコ(Scope)で2048*858、フレームレートは24.00fpsが基本(48.00fpsもあり)。この3種と違う場合は、上下もしくは左右に黒帯が入った状態。

 音声は、48KHz24bitのWAVをMXFでラッピングしたファイル。多くの作品が5.1chで制作されています。(ステレオ、7.1ch、最近ではDolby ATMOSなども)

 この映像と音声をもとに、CPLやPKLなど他ファイルが構成されます。(付随するこれらは作成ソフトが自動的に生成することがほとんど)

 ちなみにデータレートは2Kでも4Kでも最大250Mbpsと規定されています。

IOP? or SMPTE?

 データの中身は以上ですが、DCPの規格自体にも種類があります。大きく分けて、「Interop」「SMPTE」の2種です。
 長くなりますので、ざっくり簡単に解説しますと、「Interop」が古く、「SMPTE」が新しい規格です。DCPの出てきた当時は「Interop」でスタートし、トラブルや機能が増えるに従って新しく「SMPTE」規格が登場した、と理解していただくと早いかもしれません。
 海外では、ほぼ「SMPTE」に移行したと言われていますが、日本ではまだまだ「Interop」が主流のようです。昨年(2024)末に、懇意にしている試写室の方と話をしていましたが、まだほとんどが「Interop」で作られているようです。
 ミニシアターなど機材の更新が遅いこともあり、確実に上映できて実績のある「Interop」が良いというのは、なんとも日本的ではあります。2025年の現在、「Interop」で制作しておくのが無難なのかな、というのが個人的な見解です。悪名高き、D93問題と比べると、単純にパッケージの規格の話なので、制作する映画自体に画質や音質でデメリットがあるわけでもなく、自身でDCPを作る上ではマスターファイルさえ保存しておけば、いつでも再作成は可能ですので。

DaVinci Resolveで作る方法

 さて、ここまでDCPのデータ自体を解説してきました。ここからは実際に作る工程を解説していきます。
 他のソフトでも作ることは可能ですが、ここではやはりDaVinci Resolveでの作り方を解説します。

(1)Studio版

 有料版のDaVinci Resolve Studioは、標準でDCPを作成できます。Version 14までは、(2)で説明する、easyDCP Pluginを導入しないと書き出せませんでしたが、Version 15より、Kakadu JPEG2000コーデックで暗号化のないDCPの作成が可能になりました。暗号化しKDMの発行などなどを行うには引き続き、easyDCP Pluginが必要ですが、インディーズ作品の公開や海外映画祭出品を目的としたDCPの作成には十分です。
 続いて、プロジェクト設定です。
 先ほども解説しましたが、DCPの規格上フレームサイズ、フレームレートは厳密に決められています。解像度は2Kの場合、フルコンテナ2048*1080,フラット(ビスタ)1998*1080,スコープ(シネスコ)2048*858の3種類です。フレームレートは、24.00fpsもしくは48.00fpsの2種類となっています。
 これ以外の解像度の場合は、上下、もしくは左右に黒帯が入ったデータを作成する必要があります。フレームレートに関しても、23.976fpsや29.97fpsの場合は、そのままではDCPにはできませんので、何かしらの方法で24.00fpsに変換する必要があります。
 各種変換や二次利用などを考えると、編集しているタイムラインから直接ではなく、1本化されたマスターファイルを出力し、そのファイルを新規プロジェクトを作って読み込んでからDCPを作成することを強くオススメします。

 DCP作成のためのマスターファイルはDCPの解像度に合わせた12bitのTIFFの静止画連番ファイルで作成することが標準とされてきました。(DCDMと呼ばれるもの)しかし、非圧縮の2KサイズのTIFFは120分で2TB近くになることもあり、運用的にも容易ではありません。
 現在では非圧縮でなくとも、DCPのJPEG2000より圧縮率が低く、12bitで画質が維持できるものであればマスターファイルとしては十分ではないかと考えられるようになってきています。Appleが2014年にProRes 4444 XQを登場させたのはこのDCDMの代わりに使用できることが一つの指標としてあったようです。macOS環境であればProRes 4444XQ(120分で500GB以下)、Windows環境であればDNxHR 444(120分で400GB以下)がマスターファイルのコーデックとして最適ではないでしょうか。

 では、1本化マスターファイルが作成できている状態からスタートすると仮定して、プロジェクトを設定していきます。
 プロジェクト設定、「マスター設定」タブ、タイムライン解像度、フレームレートを設定します。タイムライン解像度は、出力するDCPのフレームサイズ(DCIとつくもののどれか)。フレームレートは24.00fps(48.00fpsの場合は、48.00)。

タイムライン解像度をDCI準拠のものに。

 次に「カラーマネージメント」タブ。カラーサイエンスは「DaVinci YRGB」(「DaVinci YRGB Color Managed」でも構いませんが、あえて選ぶ必要もないです)。そして一番重要なのが「タイムラインカラースペース」この選択がDCP作成の場合、とてつもなく重要です。

タイムラインカラースペースが最重要

映画のカラーグレーディングの環境、マスターファイル自体の設定を反映させましょう。いわゆるハイビジョンのRec.709環境で作成したものであれば、「Rec.709 Gamma 2.4」色域、ガンマ共に正確なものを選択してください。(709だけど、ガンマ違う、白色点D93でやってるなどはその都度別の設定が必要)
 この「タイムラインカラースペース」の設定を参照して、DaVinci Resolveが自動的にXYZ色空間、ガンマ2.6のJPEG2000へと変換してエンコードします。
 色空間は間違いにくいかもしれませんが、ガンマ設定を間違うと、予想より明るく、暗く、想定外の変換がかかってしまいます。ご自身でグレーディングしていない場合は、担当された方にきちんと確認をとってください。
 色空間、ガンマ、フルレンジか、ビデオレンジか白色点は規格通りかなどなど、きちんと確認することで、想定通りの変換結果が得られます。

 プロジェクト設定が完了したら、映像と音声を読み込みます。

(2025.2.12.22:46改訂ここから)
3回目に解説しようかなと思っていましたが、検証の結果、この回で解説しておいた方がいいかなと思いまして、この部分改訂させていただきます。
 
結果として、Kakadu JPEG,easyDCP Plugin,DCP-o-matic使用時どれでも23.976fpsの映像を読み込んでDCPを出力すると、自動的に24.00fpsに変換され、音声も0.1%のプルアップが適用された状態で24.00fpsのDCPが生成されることが確認できました。

 1フレームのズレもありません。

 手動で23.976から24.00にしなきゃいけなかったのはもはや遠い昔のようです。。。失礼いたしました。
 テストで出来上がった、24.00fpsのDCPと元の23.976fpsのデータを聴き比べても差異に気づく耳は持ち合わせておりません。厳密な音質の検証をしたわけではないので、保証はできませんが、23.976fpsのプロジェクトに読み込んだ23.976fpsのマスターファイルから、DCPを作成すると、映像と音声のズレのない24.00fpsのDCPが作成できることは確認できました。(改訂ここまで)
(以下自戒のためにも残します。この方法で23.976fpsと24.00fpsの変換がきちんとできます、という意味ではありな情報ではあります)

 マスターファイルも24.00fpsの場合は、特に何も行う必要がありませんが、23.976fps(それ以外の場合はもっとややこしい)の場合は、読み込んでからMEDIAページ、EDITページでファイルを右クリックし「クリップ属性」からフレームレートを変更しましょう。23.976fpsの場合は24.00fps(29.97fpsの場合は30.00fps)に変更します。

クリップ属性からフレームレートを24.00fpsに変えましょう

 再生速度を0.1%速度を上げることで23.976を24.00として扱います。画質の劣化はありません。しかし、音声はそのままではピッチ(音程)がすこし高くなってしまうので、映像ファイルに音声が入っている場合は、そのままでは使えません。

 音声は、映画の場合、ProToolsで音を仕上げることが多いので、ProToolsで0.1%のプルアップ処理をおこなって、24.00にした際にぴったり合う音声ファイルを作ってから持ってくることが多いです。

ぼかし多めですみません、ProToolsでは音声、映像ファイルを読み込む際にプルアップダウンが可能です。これで読み込んでから書き出すことが多いです。

 Resolve上でも速度変更でピッチを維持にチェックを入れたり、Fairlightページでエラスティックウェーブで行うことは技術的には可能だとは思うのですが、実績が。。。。
 音声を専門の方に処理してもらっている場合は、そちらの方に相談してもらった方が確実です。ご自身でなさる場合は、24.00fpsに変換した映像をタイムラインに置いて、その尺に合うようにEDITページかFairlightページで時間伸縮を行なって合わせましょう。
(ここまで、自戒のため認識の古い情報、すみません、次行からまともな解説に戻ります)

 ステレオの場合は、デフォルト設定のまま、5.1chや7.1chの場合は、Fairlightメニューの「バスのフォーマット」で適切なフォーマットに変更しておきましょう。

音声トラックに適切なバス設定を行なってください

 タイムライン上はDCPに含まれるもののみを載せてください。カウントダウンマークやクレジットなどは必要ありません。

 各種設定やタイムラインができあがれば、あとはデリバーするだけです。

 デリバーでは、DCP用のプリセットはありませんので、カスタムで設定していきます。


 「単一のクリップ」にチェック。

  • ビデオタブ

  • フォーマット:DCP

  • コーデック:Kakadu JPEG 2000

  • 種類:解像度アスペクトが適切なもの 

  • Interopパッケージを使用にチェック

  • 最大ビットレート:200-240の範囲で設定

 ここまではまだ普通なのですが、次にビデオタブの中にDCP特有の「コンポジション設定」というものがあります。これがややこしい! 
 「コンポジション名」というのを設定しなければいけないのですが、ようはDCPとしてのファイル名なのですが、このコンポジション名には結構ちゃんとした決まりがあります。
 もともとは暗号化されているDCPはそのままでは中身の確認ができないから、ファイル名で読んだだけである程度の技術情報がわかる必要がありました。さすがに規則を覚えるのも大変で、コンポジション名の欄の編集ボタンを押すと、コンポジション名を作るための「コンポジションジェネレーター」ウインドウが開きます。

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