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40年以上続く「ビックリマン」シール制作秘話 ~イラストを手がける二人のクリエイターに聞く~

 ロッテの チョコレート菓子のおまけとして1977年に登場した「ビックリマン」シール。特に85年に「悪魔VS天使」シリーズが始まってからは、オリジナルのデザインとストーリー性が多くのファンの心をつかみ、40年近く経った現在でも36作目が出るなどして大きな人気を維持している。そのパワーをもって、「ビックリマン」はピーク時には年間4億個以上を売り上げたという。現代でも愛され続けるキャラクターはいかにして誕生したのか。イラスト制作を担う二人のクリエイターに聞いた。

おまけのビックリマンシールが手に入るビックリマンチョコ

 「ビックリマン」シールは当初、「天使・お守り・悪魔」の三すくみで展開して、紙などの上にまず悪魔シールを貼り、その上に半透明のお守りシールを、さらに不透明な天使シールを貼って悪魔を完全封印して遊ぶというコンセプトで企画された商品だった。しかし、ファンたちはシールを貼らずに集めることに楽しさを見出す。コレクションアイテムになったのだ。キラキラと輝く仕様の背景上に描かれた悪魔や天使のキャラクターは登場するたびに個性を表出している。両者の戦いにはいつも物語があり、ただ眺めるに止まらない楽しみ方ができる。貼らずに取っておこうという気持ちは、自然に発生したのだろう。
 シリーズの絵柄は、第1弾が出た当時のロッテの企画担当者が、ある印刷会社の展示会でイラストレーターの米澤稔氏が勤務していたグリーンハウスが作成していたキャラクターを見て「このタッチだ」と感じ、採用したのがきっかけだったという。

ビックリマンシールに登場する《ゼウス》の貴重な原画(モノクロ)

手塗りだった時代の感覚が生きている

 「ビックリマン」シールは48×48mmの正方形。3頭身のキャラクターを、小さな正方形のスペースに収めて描き込むのは容易ではないため、原画は拡大したサイズで描く。「シールになった際に見えにくくならないように、線の太さや細かさを意識します」と米澤氏。その結果として、絶妙なインパクトを放つ線や形ができているのだ。原色を多用したポップで鮮やかな配色も、「ビックリマン」の特徴の一つだ。米澤氏は、「手塗りだった時代に使用した画材の発色の名残りなのかもしれない」と話す。印刷物に手塗りで得た感覚が生きているのは、極めて興味深いことだ。
 米澤氏と一緒にこの仕事を担当しているデザイナーの兵藤聡司氏は作画の際、余白の活用を特に意識しているそうだ。正方形を目一杯使うと窮屈に感じるし、他のキャラクターと構図が被ってしまう。余白は何も表現しないようでいて、実は重要な存在なのである。また、刀や杖、楽器などの小さなモチーフも、それぞれのキャラクターを特徴付けるために欠かせない。子ども向けのため小さくても中途半端に仕上げることはせず、デフォルメをしても正確に表現するために、資料は入念に調べて描いてきたという。
 子ども向けと言っても決して手を抜くことなく、絵のタッチやキャラクターに対して真剣に向き合って、自分たちにしか描けない世界観に、二人はこだわり続けている。

《ネロ魔身》の原画(モノクロ)

お菓子売り場で子どもたちの反応を見る

 二人はどちらも、「ビックリマン」シールを描くまでは、本格的にキャラクターを描いたことはなかったという。「不特定多数の消費者が見る広告などの場合は反響が伝わるのに時間がかかりますが、お菓子売り場に出かけて見ていると、ひとりの子どもが手に取って、いい悪いが即判断される感じを生々しく受け止められます。こうしたグッズならではのことですね。広告をCDにたとえれば、ビックリマンはライブ演奏みたいな印象です」と米澤氏は話す。少なくとも第1弾の発売当時は今のようにネットが普及していなかったため、リアルタイムでの反響は分からなかった。兵藤氏は、商品発売後少しして「かなり売れているみたい」といった情報を取引先の担当者から聞いても実感はなく、新聞やテレビの記事やニュースで「社会現象になっている?!」と知ってから、売り場に確認しに行ったという。

《オカン坊》の原画(カラー・表)
《オカン坊》の原画(カラー・裏)

自分が楽しめるものを作りたい

 シリーズが始まってから40年間で、圧倒的な数のキャラクターを生み出した米澤氏と兵藤氏。制作の過程ですぐに発想が出る時もあれば、テーマが難しく数日経ってもキャラクターが浮かばずに苦労したこともあった。兵藤氏は「最後は締め切りに追い込まれていくプレッシャーと何年も戦った」と話す。しかし、それと同時に「『ビックリマン』の仕事は楽しんで描いていた」とも。米澤氏も仕事に手を抜かなかったもう一つの理由として、「大人である自分が見ても楽しいキャラクターにしたい」という思いがあったという。自分が面白いとか楽しいと思えないものは子どもにも大人にも楽しさが伝わらないからだ。真剣に制作を楽しんだ二人がいたからこそ、『ビックリマン』の40年の歴史が築き上げられたのだろう。

取材・文=中野夢輝
写真提供=米澤稔


プロフィール


米澤稔(よねざわ・みのる)
1954年兵庫県姫路市生まれ。株式会社グリーンハウス取締役兼アートディレクター。ビックリマン「悪魔VS天使シリーズ」の全キャラクターのイラストを制作。趣味は音楽鑑賞と阪神応援。

兵藤聡司(ひょうどう・さとし)
1963年兵庫県尼崎市生まれ。株式会社グリーンハウスに所属し、アシスタントデザイナーを経て、米澤氏とともにビックリマン「悪魔VS天使シリーズ」の制作に携わる。趣味は模型作り。

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