見出し画像

【ルポ】パレスチナ自治区ベツレヘムで見たバンクシーのグラフィティアートの数々

 バンクシーは、日本で描いたとされるねずみの絵を路上で発見した小池百合子都知事がツイッター(現X)に上げたり、オークションで落札された作品をその場で額縁に仕掛けたシュレッダーにかけたりと、たびたび話題を巻き起こしてきた覆面アーティストである。人前に姿を現さず神出鬼没、作品は公式に認めていないものも多く、世界中に散らばっている。しかし、実は作品が密集し、さらにホテルまで存在する場所がある。パレスチナ自治区ベツレヘムだ。イスラエルとパレスチナ自治区の間での紛争が激化する前の2023年8月に訪ねた折に、多くの壁画を見る機会を得た。その時の様子をリポートする。



エルサレム旧市街~分離壁のグラフィティアート

 今何かと話題のイスラエルを経由してパレスチナ自治区を訪ねたのは、2023年8月のことだった。イスラエル・エルサレム旧市街付近のバスターミナルから出ているアラブバスに40分ほど乗ると、パレスチナ自治区との国境の検問所に着く。ここでの検問はイスラエルと敵対しているパレスチナの人々には厳しいらしいが、外国人だったからか、パスポートを見せると割と簡単に通過できた。出口付近では観光客目当てのタクシードライバーのしつこい勧誘を受けるが、今回の最終目的地の壁画《花束を投げる青年》までは、徒歩でも20分程度で着く距離だった。

入り口付近で迷っていたイタリア人の母娘と一緒に歩くことになった。フィレンツェに行ったことがないと言っていたのが印象的だった

 写真右に見えるのは、イスラエルとパレスチナを分断する「分離壁」だ。乗り越えようとすると監視塔から射殺されるらしい。壁にはたくさんのグラフィティアートが描かれている。眺めると、結構ブラックジョークがきいていて面白い。 

通称世界一眺めの悪いホテル「The Walled Off Hotel」

世界一眺めが悪いホテル「The Walled Off Hotel」

 分離壁沿いを5分ほど歩くと、「The Walled Off Hotel」に着いた。バンクシーが出資し、「世界一眺めの悪いホテル」と呼ばれているホテルだ。目の前に分離壁があって何も景色が見えないから、バンクシーが自ら皮肉っているのだ。しかし、その分離壁にはバンクシーの壁画が描かれており、バンクシーの絵を見たい人にとってはむしろ「いい眺め」とも言える。
 入り口で座っている係員に400円程度の入場料(クレジットカード対応)を払えば、宿泊しなくても内部の見学ができる。1階にはパレスチナ問題に焦点を当てた展示がある。分離壁モチーフのオブジェや戦いの中で殺される市民を撮影したショッキングな映像など、爆弾と政治問題を真っ向から取り上げた、バンクシーらしい内容だ。2階にはパレスチナ人アーティストの作品が飾られており、購入もできる。壁モチーフの油絵が多かった。

ホテルの目の前にも隙間をこじ開けようとしている天使を描いた壁画があった

ホテル〜聖誕教会

 ここからベツレヘムの一番の観光名所である、イエス・キリストが誕生した「聖誕教会」に向かう道の途中と教会付近に、バンクシーの作品が点在していた。聖誕教会のすぐ後ろの通りには、聖マリアが母乳をこぼした説話に由来するミルク・グロット教会がある。さらに10分歩くと、ついにバンクシーの代表作として知られる《花束を投げる青年》が見えてきた。あまりにも普通のガソリンスタンドの壁に突然現れたので、驚いた。

ホテルから5分ほど歩くと道端にある、バンクシーの《防弾チョッキを着た鳩》


聖誕教会

聖誕教会付近〜《花束を投げる青年》

 近くに停まっていたトラックの後ろの吹きさらしの壁に、《ハートを落とす天使》があるのを見つけた。世界的にはレアなバンクシーの壁画が密集しているベツレヘム。現在の政治情勢では、日本から行くのは大変だろう。治安も心配だ。一日も早く政治問題が決着し、バンクシーの壁画を「かつて起きたできごと」の象徴として誰もが不安なく見られるようになる日が来ることを願っている。

右に書いてあるのはタクシーの勧誘
バンクシー《ハートを落とす天使》

                    取材・撮影・文=岩田和花


いいなと思ったら応援しよう!