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モネの《睡蓮》を目と耳で見る

 2024年秋、国立西洋美術館に国内外のモネの作品が、連作《睡蓮》を中心に集結した。企画展「モネ 睡蓮のとき」に出品された70点近くを見歩くと、モネがなぜ睡蓮をこれほどたくさん描いたのかという気持ちが、鮮やかに浮かび上がってくる。音声ガイドを借りると、作品解説だけでなく、ナビゲーターを務めている石田ゆり子が歌う楽曲も聞くことができた。

 さざめく木々、光があふれるようにきらめく水面──。自然の様子を臨場感たっぷりに描く印象派絵画は、世界で人気を博している。現代の日本でも印象派絵画は人気のジャンルで、展覧会が開かれる際には多くの人々が訪れる。
 現在、東京・上野の国立西洋美術館で開かれている「モネ 睡蓮のとき」展も、連日盛況ぶりを見せている。本展でクローズアップされているクロード・モネは、「印象派」の名の由来となる作品を描いた巨匠だ。印象派の画家の中でも特に人気があり、これまで日本でも何度も展覧会が開かれてきた。

自然を写す

 本展ではモネの代表作シリーズである《睡蓮》が、展覧会名で使われている。50歳頃のモネはフランス・パリから近郊のジヴェルニーに引っ越し、睡蓮の池をしつらえた庭園を作った。モネは庭園の空、草木、そして睡蓮が咲く池の様子を、さまざまな角度から何度も描いた。当時のモネには大きな睡蓮の絵画を「大装飾画」として展示する構想があった。その考え方を伝えるかのように、今回の展示でも9点の睡蓮で囲まれた展示室があった。見渡す限りの睡蓮は、まるで自分がモネのジヴェルニーの庭にいるような感覚に没入させてくれる。

クロード・モネ《睡蓮》1916年 国立西洋美術館蔵(松方コレクション)

 加えて印象的だったのは、晩年の作品から伝わる、画家としての強い生命力だ。モネの作品からは、自然の移り変わる様子や光そのものをカンヴァスの上に写し取ろうとしたことが一貫して伺える。だが、晩年の作品から感じられるのは、ただの美しさだけではない。家族の死や自身の眼の病と戦いながら描かれた絵には、大胆な筆遣いと強烈な色合いで、苦しみに立ち向かう迫力がある。晩年の作品にしかない「力強い」モネがじっくりと味わえるのも、この展覧会の見どころではないだろうか。

クロード・モネ《睡蓮》1914〜17年頃 パリ・マルモッタン美術館

音楽と共に絵画を見る

 本展で用意されていた音声ガイドのナビゲーターは、同展のアンバサダーに任じられている俳優の石田ゆり子だ。映画「もののけ姫」の主要人物、サンの声優としても知られ、今回も優しくやわらかな声で鑑賞者をモネの庭へと連れて行ってくれる。ガイドの内容に美しい音楽が加わって、より臨場感がある心地よい鑑賞ができた。
 ガイド内で流れるサウンドトラックは、5曲のうち4曲が作曲家クロード・ドビュッシーとモーリス・ラヴェルによる楽曲だった。彼らは西洋音楽史において「印象派音楽」の代表的な作曲家とされることが多い。「印象派」という言葉が最初に用いられたのは美術界だったが、ドビュッシーらの音楽は印象派絵画とどこか似た雰囲気があると感じる。細かく流れる音の数々と絵画上の一つ一つの筆跡。和音と不協和音のハーモニーと溶け合う色彩。まるで絵画が音楽になって耳から流れ込んでくるようだ。

クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》1916〜19年頃 パリ・マルモッタン美術館蔵
クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》1916年 国立西洋美術館蔵(松方コレクション)
2016年にルーヴル美術館で発見され、旧松方コレクションであることが判明した後に国立西洋美術館に松方家から寄贈された作品。上半分が破損している

 特に注目したいのは、ボーナストラックに使われたドビュッシーのピアノ曲『水の反映』である。モネの作品には《睡蓮、柳の反映》と題された作品もある。だからなのだろうか、『水の反映』は《睡蓮》の展示室を見るときにぴったりで、水面の揺らぎのように上下する音色、大小さまざまな波ができるように変化する音は、自然そのもののようだった。

 また、本展のために描き下ろされたテーマソングも、音声ガイドで聴くことができた。大橋トリオが楽曲プロデュースをし、石田ゆり子がアーティスト「lily」として作詞をし、歌った『私のモネ』という楽曲だ。優しいアコースティックギターのハーモニーと穏やかな歌声、そしてどこかから聴こえてくるような水音。「睡蓮の庭」をテーマにした本展でないと生まれなかった一曲だろう。

取材・文=岩﨑良子
撮影=小川敦生

展覧会情報
展覧会名:モネ 睡蓮のとき
会場:国立西洋美術館
期間:2024年10月5日〜2025年2月11日


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