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壊れかけの途中

長年当たり前みたいにそこにあった駅前の商業施設が閉鎖した。

外から店内の隙間がチラッと見える。
ご愛顧感謝セールの張り紙がプラプラしてるのや、空っぽの古びたウィンドーが妙に悲しい…。
特別愛していた商業施設でもなかったのに。

人気のなくなった建物はなぜあんなに物悲しさを抱えているのだろう…。
それがつい数日前であっても、急にピタリと呼吸が聞こえなくなるから不思議だ。
役目を終えると建物でも、人でも、急に静かになってしまう。

だからわたしは、さよならがきらいだ。

静かになると余計なことを考えてしまう。さわがしさや忙しさはある種の救いなのだ。じっとできない性質に秘められ自己防衛なのかもしれない…。

閉じた商業施設の前を横切りながら忙しく去っていった今日に重ねてそんなことを考えていた。

夜になっても壊れかけの途中の余韻がなかなか消えてくれない。
ずっと駅前の施設がチラつく。

役目を終えた建物は取り壊されるまで幕引きの寂しさを漂わせるためだけに存在するかのようで虚しい。

縁もゆかりもないどこかの町のシャッター商店街をみるのもこれまた切ない。
思い出の一つもわたしの記憶にころがっていないのに沢山の思い出を吸収した商店街が泣いているように見えてしまうから。

壊れかけのものをみるといつも作りかけのものを勝手に想像してしまうクセがる。

サヨナラをむかえた駅前の商業施設の作りかけのころはどうだった?

それはそれは希望に満ち溢れていただろう。
駅前はいわゆる一等地だ。

そこに出店ができるはすでに勝利を半分得たに等しい。
各店舗のオーナーや店長、そして彼らの家族はきっと作りかけのお店に何度も足を運んだはずだ。夢や希望を心に挟んで。 

それが作りかけの希望。
どれほど携わる人の心が馳せただろう。

町中で一軒家が取り壊されているのを見るときもいつも同じことを思う。

この家が建てられとき家主はどんなにウキウキしていたことだろう。
長年の夢のマイホームだったかもしれない。
大好きな家族を迎え入れる大切な場所だったかもしれない。

家は夢だ。

その夢だった家が壊されるとき…。
建てるときに馳せたあの気持ちは遥か彼方に風化して、どこかの家族の幸せを支えた家が、夢が、なくなる。

家の寿命を全うしたのかもしれない。
更地にしてさらに新築へとステップアップするのかもしれない。
必ずしも悲しみを伴う解体だけではないだろう。

だけど悲しいのだ。形あるものがなくなるのが。
それが建物や店や家だと、とたんに悲しくなるのだ。

展望の方が強い解体であったとしても
形あるものがそのお役目を終えてなきものになるのがやるせない。

半年ほどまえ。
我が身にそれがリアルの起こった。
今の家に引っ越す前の家が取り壊されている現場を目撃した。

前の家はわたしたちが3代目の持ち主だったので、築年数はそりゃかなり経つ。壊されても特別驚くものでもない。

それに売った時に4代目の買主は今はそのまま住むけど、お金がたまって家族が増えたらたて直すと宣言していた。 

築年数の古い家だから当然の選択である。それが中古物件を買うメリットでもあるでしょうよ。

だけどいざ消えゆく元家をみたときキューーとなった。

主人と結婚して3年。長女が6か月の真冬に手にいれたわたしたちのはじめてのマイホーム。
背伸びして、無理して買ったのは家というよりはまさに夢!

中古をいいことにどうせならとその夢を大胆にリフォームをした。

各部屋の壁紙をふりきろうを合言葉に
リビングは青。天井は水色。
キッチン、ダイニングは黄緑。
洗面所、脱衣所はショッキングピンク。
トイレはAnna Suiのパクリっぽい黒字の花柄。
階段の壁は紺色。
二階の和室は抹茶色。
に、仕上げた。

2階にあるあと2部屋の和室は黄色にしたかったけど予算が足りなくてごく普通の和室だったのが唯一の心残りだった。

買主はしばらくしたらたて直すつもりで古い家を承知でかってくれた人だったから壁紙を白には戻さずそのまま住みますとまるごと引き受けてくれてのもうれしかった。

トリッキーな家ゆえ、中々買い手が見つからず内見のプロになるほど内見を何組も受けいれた。
自分たちの趣味に走りすぎた内装を呪った日もあったけど、とにかく売れてよかった。


子どもたちが小さいころの家の中での写真がド派手ででカラフルなのは今でも良き記念になっている。
20代だからできた無謀だ。

普通なら買い手が見つからないような家だったけどちょうど駅ができるできないの期待値がピークに高まっているころで土地の値段が高騰。売ろうとしたきっかけはそこにあった。

結果的に土地の価値に助けれて購入当初よりかなりの利益をだして売ることができた。
実父には詐欺だと言われた。 
でも不動産屋さんに相談して決めた価格なので詐欺ではない。
運がよかっただけだ。

土地を転がして不動産で儲ける人はこの要領で利益の生まれる土地をめざして投資して資産を増やすことを実体験ベースで学んだ。

ただわたしたちは駅のパワーに後押しされて土地売買のビキナーズラックの恩恵を受けただけである。
残念ながら得た要領を活用はできないだろう…。それに土地の売買はくたびれる。審査に監査、書類と捺印の多さに思い出しただけでも目眩がする。もう2度とごめんだ。

今の家もとても気にいっている。
これまた中古で購入。
フルリノベーションで販売されていた今の家。
白の壁紙では満足できないわたしたちのクセ強めの欲を見事に満たしていた。

だから販売をはじめてから半年以上も買い手がつかなかったらしい…。
我々にしてはラッキーなことだけど。その間、売りたい不動産屋さんによりジワジワ値下げされていたのもさらについてた。
リビングは黄色とストライプのツートンの和洋折衷。
和室はオレンジ。
外壁は緑と一部ピンク。
寝室と子ども部屋とトイレは白だけど…。

この家もいつか、いつか、いつの日かとり壊されてしまうときが来るだろうか?

いつかはいつか来てしまうだろう。 

子どもの誰かが引き継いで、たとえ最高の建て替えが行われることになったとしても心がつぶれそうに痛むだろうな。

そして、気になっていた解体されてしまった前の家!
どんな素敵な新築がたつのだろうか?楽しみにしていたのに…

まさかの駐車場!!!!!!! うそーーー。

取り壊されたのはつらかったけどすでに他人様のもの、何をしようが自由だ。

数年でもそのまま住んでくれてただけでも十分思い出を守ってくれたみたいでうれしかった。ありがたかった。

でも、まさか駐車場になる未来は想像していなかったので驚いた。

んん?それにしても買主さん?家いつか立て直すんでなかったのか?
離婚して売ったか?
今年駅が完成してまさか土地がさらに高騰して手放したか?

しらんけど、わからんけど。

真新しい駐車場にうまれ変わった元家の前を通るときちょっぴり切ない。

形あるものが、壊れる様は途中でもその後でもやっぱりキライだ。

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