【企業分析2】企業の評価(定量分析)

・前回は良い企業の定義と、良い企業であるための必要条件を説明しました。

良い企業:「長期で稼ぐ力を向上し、企業価値を高める」
良い企業の必要条件
①各事業の生み出す利益水準を維持・向上できる何らかの参入障壁がある
②長期で稼ぐ力の向上に貢献する事業の入れ替え・人への投資、設備投資など資源配分を行ってきた結果、今後も高い収益を生み出すことが期待できる
③今後も適切な事業の入れ替えと設備投資の決断を下すことが期待できる経営陣がいる・次世代経営陣が育っている

・ここでは、良い企業の必要条件を満たすかどうか、確認するための分析プロセスをご紹介します。

・具体的には、以下の一連の分析を通して、仮説(良い企業としての必要条件を満たすかどうか)に立ち返り、都度修正していくことになります。
※財務諸表が確認できる上場企業を前提としています。
・事例として、モスバーガーを展開する(株)モスフードサービスを取り上げます。

定量分析

①財務諸表

・まずは足元2期分の財務諸表から、企業の足元の収益力と財務内容を評価します。

足元の収益力

・直近期の有価証券報告書(2021/3期)を見てみましょう。以下の通り財務諸表の欄には2期分の数値が記載されています。

・まずは、定常的な当社の収益力のイメージを把握します。
・ここでいう収益力とは、損益計算書上の利益ベースではなく、事業から手に入れる現金ベースの数字です。
・そもそも、損益計算書上の利益ベースの収益力とは、次のようなものです。

売上高総利益:製品の生産・販売で獲得した利益
営業利益:売上総利益からマーケティングや本社機能(総務、人事や経理)の維持など、会社運営のために必要な費用を差し引いた、事業から獲得できる利益
経常利益:営業利益に、事業以外で発生する定常的な収益(親密取引先など保有株式からの受取配当金、不動産の賃貸収入)や費用(借入金の支払利息)を足し引きした利益。会社が主張する定常的な収益力(利益ベース)と見ることができます。
当期純利益:経常利益に、その年に発生した一時的な収益(保有株式の売却益)や費用(保有固定資産の売却損)を足し引きした利益。会社が主張する「その年」の一時的な収益力と見ることができます。

・ですが、これらの損益計算書の利益の金額がそのまま当社の懐に現金として入っているわけではありません。
・例えば、営業利益や売上高総利益の算出に際しては、実際に現金として出ない費用項目(減価償却費・のれん償却費など)が差し引かれています。
・減価償却費とは何かということですが、会社が将来の収益に貢献する資産(生産設備、店舗など)を購入したとき、その費用は現金として会社の外に出て行くことになりますが、損益計算書上は費用として計上しません。というのも、会計上は、この資産が、将来の収益に貢献すると想定される期間に按分して、費用計上することになっているのです。
・この費用計上したものが減価償却費なわけです。例えば、2015年に600万円の車(耐用年数6年)を一括払いで購入した場合、600万円は現金として2015年に支払う必要がありますが、損益計算書上は、2020年まで毎年、減価償却費として600万円÷6年=100万円を計上することになります。

・のれん償却費も減価償却費と同じような考え方の項目です。そもそも「のれん」とは何か、ということですが、会社が将来の収益に貢献する企業を買収したとき、その購入金額が買収対象企業の純資産より大きい場合、「のれん」として固定資産に計上されることになります。
・例えば、100万円の純資産を持つ企業を200万円で買収すれば、200万円ー100万円=100万円がのれんとして計上されます。
・この「のれん」は実際に現金として企業が支払うわけですが、損益計算書上は、減価償却費同様、「のれん」が将来の収益に貢献すると想定される期間に按分して、必要計上することになります。この費用計上したものが「のれん償却費」なわけです。
・例えば、2015年に100万円で「のれん」(耐用年数10年)を計上した場合、100万円は現金として2015年に支払う必要がありますが、損益計算書上は、2024年まで毎年、のれん償却費として100万円÷10年=10万円を計上することになります。

・ようするに、実際に企業が手にすることができるのは、利益ではなく現金です。現金を固定資産などの投資に回すことができるから、収益力を維持・向上できるわけなので、現金ベースの収益力を把握する必要があります。
・また、現金ベースで収益力を把握することで、この数値をもとに財務内容の評価に役立てることができます。

・では、どうすれば現金ベースで把握できるかというと、具体的には、
①定常的な当社の利益(経常利益)をベースとして、一時的に発生した収益を除き、恒常的に発生する収益と費用を加算します。
②そこから、現金として支払う必要がある税金を控除します(税率はざっくり35%とします)。
③最後に、減価・のれん償却費を足し戻します。

・また、ざっくりとした規模感の把握が重要なので、金額の小さな項目はよほど気になる場合以外は考慮しなくて大丈夫です。
・では、実際に先ほどの2021/3期の連結損益計算書を見てみると、まず、経常利益は14億円ですね。
・その下の特別利益と特別損失の項目で、本来は定常的なものが含まれていないか確認しましょう。
・それぞれ13億円計上していますが、これはどちらも新型コロナに伴う一時的な項目ですね。
・その他に特別利益・損失で大きな項目はありませんので、定常的な収益として考慮する必要があるものはなさそうです。
・次に、営業外収益・営業外費用の中に本来一時的な項目が入っていないか確認します。2020/3期と比較すると、金額の大きなものでは解約違約金(116百万円)が気になりますね。有価証券報告書の記載によると店舗の閉店に伴い発生した費用とのことですから、一時的なものですね。
・つぎに、減価償却費・のれん償却費ですが、連結キャッシュフロー計算書の営業活動によるキャッシュフローの欄に記載があります。減価償却費で39億円を計上していますね。

・以上から、当社の定常的な収益力は(経常利益(14億円)+解約違約金(1億円))×(1-税率(35%))+減価償却費(39億円)=49億円と言えます。

・見方を変えると、キャッシュベースで見た定常的な収益力49億円の売上高719億円に占める比率は6.8%になります。
・単純に見た利益ベースの収益力と比較してみましょう。売上高営業利益率・経常利益率はともに2.0%、売上高当期純利益率は1.4%なので、キャッシュベースでみると異なる収益力の姿を確認できますね。
・ところで、当社の利益率において、売上高総利益率は47.5%と非常に高い水準といえます。チェーンの飲食店の多くは、自前で商品を提供する店舗を抱えるよりも、フランチャイズビジネスにより収益性を高める傾向にあります。
・フランチャイズビジネスとは、食材の調達や調理方法、料理の提供を標準化して、その運営ノウハウを他の企業(フランチャイジー)に提供して対価をもらうビジネスモデルです。
・つまり、店舗・土地等の不動産や従業員といった固定費のかかる資産はフランチャイジーが抱えることになりますので、モスバーガーはこうした固定費を負担することなく、フランチャイジーから受け取る対価で収益を獲得することが可能になり収益性を高めることができます。この結果、モスバーガーの売上高総利益率は高くなっていると推察されます。
・ですが、モスバーガーとしてのマーケティングにかかる広告費用や商品開発費用はモスバーガー本体が負担することになりますので、こうした費用が販売費及び一般管理費として計上されます。その結果、売上高営業利益率が低くなっているのでしょう。

財務内容

・次に、貸借対照表から足元の財務内容を評価します。財務内容の評価とは、先ほどのキャッシュベースで見た定常的な収益力をベースとした場合、長期・短期の目線から当社の事業が継続可能なのか、という点を中心に確認するというものです。

長期目線

長期目線で財務の安定性を評価するためには、①固定資産をベースに考える方法、②長期借入金をベースに考える方法の2つがあります。順に解説いたします。

①固定資産をベースに考える方法

・まず、そもそも貸借対照表とは、借方である右型の負債・純資産の部で調達を行い、借方である資産の部で運用を行なっていることを意味しています。
・財務の安定性の観点から重要な点は、まず、借方の資産のうち生産・販売設備など収益を生み出すための固定資産を何で調達しているか、ということです。
・というのも、固定資産とは金額が減少するリスクのあるものなので、その分対応する純資産で調達できているのが望ましい、というわけです。

・どういうことかというと、この収益を生み出すための資産というのは収益力がある、という前提で固定資産(有形固定資産・無形固定資産)として計上されています。
・逆に言うと、仮に収益力が落ちた場合、固定資産として計上する金額を減少させる必要があります。
・この際、この減少分の金額は損益計算書上で特別損失として計上されますので、当期純利益(損失)を通じて貸借対照表の右側である純資産の部を減少させることになります。
・また、固定資産は土地を除いて毎年償却する必要があります。
・この償却というのは、実際に現金としてどこかに支払うわけではありませんが、その年に収益を稼ぐために固定資産を使用した、という観点から固定資産の金額を一定金額減少させることになります。
・この減少分は減価償却費またはのれん償却費として売上原価または販売費および一般管理費において計上し、やはり当期純利益(損失)を通じて純資産の部を減価償却費分、減少させることになるのです。

・当社の固定資産は385億円なので、純資産485億円の中で十分賄えており、むしろお釣りがくるくらいとなっています。
・純資産比率(純資産÷総資産)も70%なので、純資産は十分な厚みがあると評価できます。

・参考までに、仮にこの固定資産が600億円あったとすると、純資産485億円では賄えていませんね。この場合どう考えるかというと、固定資産から純資産を差し引いた115億円はどこからか調達しないといけませんよね。
・そこで、定常的な状態を想定し、銀行からの借入で調達する必要がある(実際の借入金とは別で考える、あくまで定常的な状態を想定するため)と考えます。
・この場合、先ほどの定常的な収益力49億円を利用し、固定資産ー純資産の115億円を49億円で割ります。すると2.3になりますが、これは先ほどの定常的な収益力を借入の返済に仮に回すとどの程度の返済年数がかかるか、という指標になります。
・一般に、10年以内(固定資産の一般的な償却期間)であれば問題ないと評価できますので、先ほど算出した2.3年はあくまで仮想のものですが、問題ない水準といえるでしょう。

・以上の議論に別の見方から入ると、財務の安定性ではなく、当社の投資余力を判断することもできます。つまり、当社の定常的な収益力である49億円の10年分である490億円に純資産453億円を足した943億円(つまり、558億円の投資)までは、債務償還年数の観点からは固定資産を膨らませることができる、ということです。
・仮に固定資産をここまで積み増した場合、純資産比率は70%から38%まで低下することになります。
・あとは後ほど行う事業性評価次第ですが、収益の変動が大きくない事業と判断できるのであれば、純資産比率は一定程度下げることも合理的と言えます。つまり、当社は財務上は投資余力が十分にある企業と言えます。

②長期借入金をベースに考える方法

・また、この借入の返済年数(債務償還年数)の考え方を実際の借入金に適用し、現実ベースで財務の安定性を検討します。
・この場合、短期借入金は後ほどご説明する通り運転資金見合いで借りていると見なして、長期(借入期間1年以上)の借入金に絞って検討します。また、この場合の借入金にはリース債務も加えます。
・リース債務とは、中途解約できない契約でリースした設備や物件の未払金のことです。返済する必要がある借入金として取り扱います。
・以下に記載されている通り、当社の長期借入金は47億円ですので、先ほどの定常的な収益力49億円で割ると1年未満です。実態ベースで見ても安定性は十分と言えます。

・先ほどと同様、定常的な収益力から判断する債務償還年数から当社の投資余力を判断します。
・つまり、当社の定常的な収益力である49億円の10年分である490億円までは長期借入金を増やすことができると見なします。この場合、長期借入金は現状の47億円から443億円積み増すことができます。この調達した443億円が全て固定資産に投資できる金額と考えるわけです。
・仮に固定資産をここまで積み増した場合、純資産比率は70%から42%まで低下することになりますが、逆にみればここまで大規模投資を行っても、高い水準の純資産比率を維持できていると評価できます。
・つまり、長期借入金をベースに考えても、当社は財務上は投資余力が十分にある企業と言えます。

短期目線

・次に、当社の短期の資金繰り、運転資金の観点から評価を行います。

短期の資金繰り

・まずは、短期の資金繰りの観点についてです。負債の部の流動負債131億円に注目します。流動負債とは1年以内に返済する必要のある項目です。
・ですので、この返済する必要のある131億円を何らかの形で現金として確保する必要があります。
・では何で確保するのか、ということですが、同じく1年以内に戻ってくる予定の債権である流動資産がありますので、この金額が流動負債を上回っていれば、年間を通じてみれば問題ないと言えます。
・流動資産は262億円ですので、この観点からは問題ないと言えます。
・じゃあ、これでもういいかというと、一方で、流動資産の項目を保守的に見ると、商品及び製品や原材料及び貯蔵品といったものは、売れ残ってしまうリスクがあります。
・そこで、現金及び預金に、より現金化の確度が高い受取手形及び売掛金、有価証券を足したもので評価すると、より慎重に評価できます。計算すると193億円になりますので、先ほどの131億円を十分に上回っていますので、短期の資金繰りに問題はないと言えます。

・参考までに、仮に当社の流動資産が流動負債より少ない場合はどう考えればいいのでしょうか。
・その場合は、先ほど確認した長期の財務の安定性が高いかどうか(純資産の保有が十分な水準にある、債務償還年数も問題ない)という論点に戻ることになります。
・財務の安定性が長期で高い会社であれば、銀行も喜んで資金を融通してくれる、つまり短期の融資に応えてくれると考えるわけです。(企業によっては、有価証券報告書にコミットメントライン(手数料を支払うことで一定期間の借入の約束を銀行と取り付けること)○億円確保しています、と記載しています)。

運転資金

・次に、運転資金をどのように調達しているか、多くないかという点を確認します。
・運転資金とは何かというと、例えばドーナッツを作って売ろうと思えば、原料の小麦粉や油を買う必要がありますが、もちろんドーナッツが売れる前なので、先に原料の代金を支払うための現金を用意する必要があります。これが運転資金です。
・また、どういうときに運転資金が増えるかというと、ドーナッツがたくさん売れることを見込んで原料もたくさん仕入れるときに必要になりますし(棚卸資産の増加)、仮にドーナッツをツケ払いで販売した場合、ツケ払いの回収期間を1週間、1か月と先延ばしにするほど運転資金が必要になります(売上債権の増加)。
・あるいは、原料の仕入れの支払い周期を逆に1か月から1週間と短くすれば、その分現金の支払いを短期で行う必要がありますので(仕入債務の減少)、運転資金が必要になります。
・運転資金が多いほど、現金をどこからか調達する必要がありますので、原則としては運転資金を抑えたほうが効率的な経営ができていると言えます。

・つまり、運転資金とは売上債権+棚卸資産ー仕入債務で算出できます。この運転資金をどのように調達しているか、という点を確認するわけです。
・当社の場合、運転資金は売上債権(51億円)+棚卸資産(36億円)ー仕入債務(45億円)=42億円になりますが、先ほど見た通り純資産が固定資産を大きく上回っています(115億円)ので、短期借入金(5億円)もありますが、自己資金で運転資金を賄っている構造といえ、財務的に全く懸念はないと言えます。

・参考までに、仮に純資産が固定資産よりも少ない企業の場合は、借入金で運転資金を賄うことになりますが、資金繰り上は全額短期借入金で賄っていることが望ましいです。
・というのも、運転資金は事業を継続している以上一定額発生する性質のものなので、一定額を借り続けることができる当座貸越契約やコミットメントラインといった短期借入金の形で対応することになります。
・これを長期借入金で賄うと、通常借入金を一定額ずつ返済していく必要がありますので、返済した分を銀行から借り入れる必要がありますから、都度銀行との交渉にかかる負担や事務の発生で資金繰り業務が繁忙になります。ですので、運転資金の調達の原則は短期借入金になります。

財務諸表分析のまとめ

・以上の財務諸表分析をまとめると、当社の収益力は利益ベースで見ると少ないものの、現金ベースで見ると若干改善はしますが、それでも低い水準にあり、事業の収益を確保する優位性のある参入障壁があることは伺えません。一方で、財務内容については長期の目線からは安定性は高くむしろ投資余力があること、短期の目線からも調達状況に懸念はないことが確認できました。

②長期業績推移

・次に、時間軸を伸ばして、当社が長期でどのような投資を行い、どのような業績を残してきたのか確認しましょう。

・有価証券報告書の最初のページに過去5年の主要な経営指標の推移が記載してありますので、直近の有価証券報告書と5年前のものをみれば、過去10年分の推移を確認することができます。

・また、同じく有価証券報告書の経営指標の後には、企業の沿革が記載されていますので、指標に大きな変動があるときは沿革からその理由を推察することが可能です。沿革でも確認できない場合は、対象年度の決算説明会の資料を見ると良いでしょう。

・では、早速分析していきましょう。主要な経営指標の推移から確認するべきポイントは以下の3つになります。

1売上・総資産の増減から当社は成長・成熟・衰退のどの段階にいるのか把握
2利益推移から当社の費用構造と収益変動の特徴を把握
3キャッシュフローと従業員数の推移から、当社の経営資源の投資(資金・人員)と、それが収益に結びついたのかを把握

・では、実際に当社の状況を見てみましょう。

売上・総資産の増減から当社は成長・成熟・衰退のどの段階にいるのか把握

・売上高・総資産の推移から、当社がどのような成長ステージにいるのか確認できます。
・売上・総資産ともに緩やかに増加傾向にあることが確認できます(売上高の年率平均成長率1.6%、総資産の年率平均成長率3.3%)。ただ、2019/3期にどちらも大きく減少したことが成長を抑制したことが確認できます。
・沿革からは要因が確認できませんが、2019/3期の決算説明会資料には「2018年8月の食中毒事故による買い控えの影響」により客数が減少したとの記載が確認できます。
・食中毒という飲食にとってブランド力を大きく毀損する事象にも関わらず、その後の業績回復に至っている様子を見ると、むしろモスバーガーの元々のブランド力が非常に強い、ということが推察されます。
・以上から、当社は緩やかな成長段階(72の法則(72を成長率で割れば2倍になるまでの期間がわかる)でいえば、売上高が2倍の1400億円になるには46年かかる)にいることが確認できます。

利益推移から当社の費用構造と収益変動の特徴を把握

・経常利益の推移から、利益ベースで見た事業の定常的な収益力(経常利益)がどのように変化してきたのか、また、その年の一時的な収益力(当期純利益)から当社の収益を変動させる要因を確認します。
・利益率は高くはないですが、大きく減収となった2019/3期を除き経常利益・当期純利益で黒字を確保しています。2019/3期は先ほど確認した食中毒問題が起因していると考えられますが、当期純利益が赤字になっていますので、何か一時的な損失を計上したと考えられます。2019/3期の有価証券報告書を見てみましょう。
・特別損失として、FC営業補償金11億円を計上しています。フランチャイズビジネスでは、フランチャイジーに対して一定の儲けを補償している場合があります。
・今回は、食中毒問題でこうした補償金を支払う必要がある状況にまで売上が大きく落ち込んだフランチャイジーもいた、ということだと考えられます。

・つまり、当社の収益の特徴として、基本は売上は安定しており黒字も確保できていますが、食中毒のような売上が大きく落ち込むリスクが発生した際には、売上の減少を通じた利益の減少だけでなく、こうしたフランチャイジーに対して支払う一時的な費用も発生し、赤字が大きくなる可能性がある、ということが確認できました。

キャッシュフローと従業員数の推移から経営資源の配分(資金・人員)と、それが収益に結びついたのかを把握

・最後に、キャッシュフローと従業員数の推移から、当社が経営資源をどの程度投資に振り向けてきたか、またそれが収益に結びついたのか確認します。キャッシュフローの各項目の簡単な説明は以下の通りです。
営業活動によるキャッシュフロー
商品の生産・販売など事業から獲得した現金。
投資活動によるキャッシュフロー
生産設備・店舗など資産への投資のため支払った現金。または保有する資産を売却した際に獲得した現金。
財務活動によるキャッシュフロー
借入金の調達・返済のため受け取り・支払いをした現金
フリーキャッシュフロー:営業活動によるキャッシュフローと投資活動によるキャッシュフローを足したもの。この項目がマイナスになると、営業活動から獲得した現金を上回る投資を行っていることを意味しますので、投資を先行させる成長ステージと言えます。逆にプラスであれば、逆に投資機会が減少していることを意味しますので、成熟ステージに入っていることを意味します。

・重要な観点は、経営資源配分の現金面(投資活動によるキャッシュフロー)、人員面(従業員数)がどの程度の規模感で行われて、それが収益力(営業活動によるキャッシュフロー)の成長につながったのか、という観点です。
・当社のキャッシュフロー推移を確認しますと、総じてフリーキャッシュフローがプラスになっていますので、営業活動によるキャッシュフローの範囲内で投資活動によるキャッシュフローを賄っており、成熟ステージにあることが伺えます。
・従業員数も2010年代前半には増加していましたが、その後は横ばいとなっていることが確認できます。

・すなわち、現金・従業員の両面から見た経営資源への投資状況については、①2010年代は現金面では限定的なものの従業員数を増やしており、②その後は現金・従業員の両面から事業を維持する程度の投資にとどまっている。その結果、投資の成果である営業活動によるキャッシュフローは、2010年代前半に若干成長したものの、その後は横ばいで推移している(大幅減収となった2019/3期を除く)、と解釈できます。

・以上の長期業績推移からの分析をまとめると、経営資源の投資は2010年代前半は人員増が見られたものの、その後は横ばいで、現金面では営業活動で得た収益の範囲内で投資を行なっています。
・その結果、売上高は緩やかに増加しているものの、投資規模が限定的なこともあり大きくは成長しておらず、利益率で見た収益力も低位横ばいで大きく変化はないことが確認できました。

定量分析のまとめ

・以上の財務諸表分析・長期業績推移分析をまとめると、当社の現状は次のように評価できます。
①特別優位性のある参入障壁があるわけではなく、利益率は低い水準にあるものの、長年黒字を維持していることから純資産も蓄積されており、財務の安定性は非常に高く投資余力が十分にある状況です。
②過去の投資は一部従業員が増えた時期(2010年前半)はあるものの、基本は事業で稼いだ収益の範囲内で投資を行なっており、売上高は緩やかに増えているものの、収益力の向上への貢献は限定的と言えます。いわば、低リスク低リターンの投資を行なってきたと言えるのではないでしょうか。
③このように投資に関する意思決定は慎重なものと言えますので、企業価値を高めるためには、安定した財務内容を活かし収益力の引き上げに貢献するような投資機会を見つけることが必要なのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?