安藤礼二館長|哲学、宗教、芸術を横断していくための ブックガイド
今回は、安藤館長による「哲学、宗教、芸術を横断していくためのブックガイド」をご紹介します。
安藤館長からのメッセージ
夢と自由を実現する場所、
図書館への誘い
図書館は人類の記憶の貯蔵庫です。そこには、時間と空間の隔たりを乗り越えて、さまざまな時代、さまざまな地域の貴重な書物が集められています。
人は図書館に集められた書物を読むことで、自分の内に秘められたまったく未知の可能性に気づき、まったく未知の存在へと変身することができます。
美術大学の図書館はいま大きな変化の最中にあります。書物だけでなく、映像や音楽や造形作品が集められ、さらには情報ネットワークの中心に位置づけられるようになってきています。
図書館そのものが新たな時代の自由を、その夢を実現する一つの舞台になりつつあります。そうした表現の「未来」へとつながる場所を、ぜひ訪れてみてください。
そのための一つの案内として、私自身が大きな影響を受けた表現者たち、書物たちを、これからみなさんに紹介していきたいと思っています。
ただし、一人の大人の男性である私が選んでいるため、このリストにはどうしてもジェンダー的な偏りが生じてしまいました。そのあたり、ぜひ批判的に読み進めてみてください。
しかしながら、ここに取り上げた表現者たちはみな例外なく、自らを縛り付けているさまざまな制度(性別や国籍や時代など)から限りなく自由であろうとしています。
そしてまた、ここに紹介するすべての書物が、それ自体で、あたかも一つの図書館のように、あらゆる分野の書物を参照しながら、独自の世界を形づくっています。
読むことは書くことにつながり、書くことは読むことにつながります。
哲学、宗教、芸術、そして文学。ジャンルを横断し、ジャンルを乗り越えて行く書物たちをぜひ手に取ってみてください。
2021.9.13
多摩美術大学図書館長 安藤礼二
ブックガイド
リストは日本編とヨーロッパ編とに分かれており、人物名・著書とともに、安藤館長がセレクトした、それぞれの本を読み解く上で重要なキーワードが挙げてあります。
なお、人物名・書名をクリックすると直接、本学図書館の蔵書検索ができます。多摩美の学生の皆さんは図書館に行けば読むことができますよ。
【日本編】
鈴木大拙
(1870-1966)
「東方仏教」とは何か、
真如・如来蔵・アーラヤ識、
法身、霊性
近代日本の仏教哲学を再興し、
抽象表現をはじめとする
現代芸術に大きな影響を与えた。
西田幾多郎
(1870-1945)
『善の研究』(1911)
「場所的論理と宗教的世界観」
(1946)
自他未分の「直接経験」にして
「純粋経験」、
場所、絶対矛盾的自己同一
大拙の高等学校時代からの親友であり、
近代日本を代表する
独創的な哲学の体系を築いた。
南方熊楠
(1867-1941)
『南方熊楠コレクション』(全5巻)
粘菌・マンダラ・潜在意識、
神社合祀反対運動(エコロジー)、男色
シカゴの大拙とロンドンで
文通を交わし、
熊野の森の奥深くに生命の謎を探った。
柳田國男
(1875-1962)
山人、異界と他界、女性と子ども、
来臨する神
熊楠の教えを受け、
民俗学という新たな学問の体系を
独力で確立していった。
折口信夫
(1887-1953)
マレビトと翁、
ホカヒビトとミコトモチ、
「たま」と万葉びと、釈迢空
柳田の著作に感銘を受け、
「祝祭」を主題として
民俗学と国文学を一つに結び合わせた。
井筒俊彦
(1914-1993)
『神秘哲学』(1949)
『意識と本質』(1983)
『言語と呪術』(1956)
ディオニュソスからプロティノスへ、
意識の表層から深層へ、
ロジックとマジック
折口と大拙から学び、
東洋哲学のもつ可能性を
世界に向けて発信した。
空海
(774-835)
声字実相、即身成仏
日本の宗教哲学の
起源に位置するとともに
芸能表現の起源にも位置する巨人。
道元
(1200-53)
『正法眼蔵』
現成公案、有時、山水経
最澄と空海によってもたらされた
「仏性」の思想を
その極限まで展開した。
三島由紀夫
(1925-1970)
『英霊の聲』(1966)
「豊饒の海」4部作
(1965-70)
鎮魂帰神法、夢と輪廻転生、
アーラヤ識、オリジナルとコピー
日本の物語とは何かを考え抜き、
それを現代の文学として
見事によみがえらせた。
大江健三郎
(1935-)
『万延元年のフットボール』
(1967)
『同時代ゲーム』(1979)
祝祭の反復、
中心と周縁をめぐる神話的な想像力
「私」と家族を主題とし、
それを神話的な宇宙へと広げ、
世界文学として評価された。
【ヨーロッパ編】
フリードリッヒ・ニーチェ
(1844-1900)
『悲劇の誕生』(1872)
『ツァラトゥストラかく語りき』
(1883-85)
アポロンとディオニュソス、
アリアドネとミノタウロス、
永遠回帰と超人
哲学であるとともに詩であり、
神話でもある独創的な表現を残した。
アンリ・ベルクソン
(1859-1941)
持続、物質と記憶、イマージュ、
生命の飛躍(エラン・ヴィタール)
大拙と共通する書物を読み込み、
心理学と生物学を
イマージュの哲学として総合した。
J・G・フレイザー
(1854-1941)
『金枝篇』(初版1890)
アニミズム、王殺し
日本の事例から
大きな影響を受けると同時に、
熊楠を介して
柳田民俗学の源泉となった。
マルセル・モース
(1872-1950)
『贈与論』(1924)
聖と俗、供犠、贈与と交換、マナ
シュルレアリストたちの
師となるとともに、
日本の芸術家である
岡本太郎の師ともなった。
クロード・レヴィ=ストロース
(1908-2009)
『野生の思考』(1962)
トーテミズム再考、構造人類学、
神話論理(自然と文化)
空間的な差異を超えて
人間の原型を探究した。
日本の文化に
「野生の思考」を見出した。
アンドレ・ルロワ=グーラン
(1911-86)
『身ぶりと言葉』(1964-65)
手と脳髄、
「形」(グラフィック)の言語
時間的な差異を超えて
人間の原型を探究した。
縄文とアイヌの装飾文化から
影響を受けた。
アンドレ・ブルトン
(1896-1966)
『シュルレアリスムと絵画』
(初版1928)
『魔術的芸術』(1957)
夢と現実、
生のままの芸術
(アウトサイダー・アート)、
先史学・人類学と芸術
熊楠と共通する書物を読み込み、
シュルレアリスムの理論を打ち立てた。
アントナン・アルトー
(1896-1948)
『ヘリオガバルス』(1934)
『演劇とその分身』(1938)
戴冠するアナーキー、
象形文字としての身体、
残酷の演劇
ヨーロッパの「外」に
身体表現の可能性を探った。
現代演劇の祖であり、舞踏の祖である。
ミシェル・フーコー
(1826-1984)
大いなる閉じ込め、
言語学・生物学・経済学、
人間の消滅、知の考古学
アーカイヴ(図書館)のもつ
可能性を刷新した。
両性具有への関心で熊楠と、
イランへの関心で井筒と共振している。
ジル・ドゥルーズ
(1925-1995)
『差異と反復』(1968)
『千のプラトー』
(1980、フェリックス・ガタリとの共著)
リゾーム、器官なき身体、
遊牧(ノマド)と国家、平滑と条理
哲学のもつ可能性を、人類学や文学、
心理学や生物学との交錯のなかで、
極限まで拡大。
さいごに
広い図書館にある膨大な本の中から、必要な一冊を自分で選び取るのはなかなか難しいことですよね。普段あまり関わりのない分野の本は、どこから手を出したらいいかわからないかもしれません。
そんな時、安藤館長自身が影響を受け、学生のみなさんにお薦めしたいと作成したブックガイドをぜひ参考にしてみてもらえればと思います。
ジャンルを超えた書物たちが、みなさんの可能性を広げてくれるはずです。
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